デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャンヌ・モローとマイルス、エヴァとビリー・ホリデイ、悪女と l'argent

2017-08-13 06:28:24 | Weblog
 2013年12月15日に「ジャズというクール・ビューティをまとったジャンヌ・モロー」のタイトルで映画「クロワッサンで朝食を」を話題にした。まさかこれが遺作になるとは・・・この時84歳とはいえ矍鑠としていて女としての色気も失われていない。映画を観てこんな風に年を取りたいと憧れた女性もいただろうし、連れ添いもあのように美しく老けてほしいものだと願った男性もいたかもしれない。

 ヌーヴェルヴァーグ・ファンにとっては女神的存在だが、ジャズファンの間でも有名な女優だ。ビリー・ホリデイの「Willow Weep For Me」から「エヴァの匂い」、モンクとブレイキーの「No Problem」は「危険な関係」、そしてマイルスといえば「死刑台のエレベーター」とモローに結びつく。まずはジャズありきでこれらの作品を観てモローの魅力に触れた方は多いはずだ。特にマイルスがフィルムを観ながら即興で吹いたという「死刑台のエレベーター」は、ルイ・マル監督の才能が高く評価された作品であり、モローが女優として開花した重要な映画である。クールなトランペットの音色が似合うモローがあまりにも美しい。

 この3作品の他にもジャン・ギャバンの代表作で、ハーモニカが印象的な「グリスビーのブルース」を使った「現金に手を出すな」、王妃マルゴを演じた「バルテルミーの大虐殺」、フランソワ・トリュフォー監督の傑作「突然炎のごとく」、オーソン・ウェルズが監督したフランツ・カフカの不条理文学「審判」、モローの脚の美しさに溜息がこぼれる「黒衣の花嫁」等々、素晴らしい作品ばかりだ。どれも邦題が優れていて、タイトルだけで興味をそそる。アメリカ映画だと原題そのままでも伝わるが、フランス映画はそうはいかない。配給会社のひねりは見事だ。原題「Eva」に「匂い」を付けた方に脱帽。

 若いころは名画座でかかるのを調べて遠くでも出かけたものだが、ビデオを簡単に鑑賞できるようになってからは久しく観ていない。お盆休みは贅沢にモロー三昧にしようか。その前に朝食だ。今日はクロワッサンと決めている。「エヴァ、世界でいちばん好きなものは何だ?」、「l'argent」と嘯くモローのカッコいいこと。銜え煙草が似合う悪女を演じたら右に出る女優はいない。享年89歳。合掌。
コメント (6)
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