デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

コケティッシュな妖精か?カマトトか?ブロッサム・ディアリー

2017-09-03 10:00:00 | Weblog
  「キュートで可愛い声」とか、「コケティッシュなヴォーカル」とか、性中枢をくすぐる声に喩えて「ビ・バップのベティ・ブープ」とか、最上級の「ウィスパー・ヴォイスの妖精」と評される一方、「わざとああいう声を出すカマトト」とか、「アニメの女の子みたいで気持ち悪い」とか、一言「ゲテモノ」、挙句の果ては「毎晩聴いている奴はロリコンじゃないの、ベッドでも・・・」オッと、これ以上は放送禁止用語なのでやめておこう。

 これほど大きく好みが分かれるのも珍しい。ブロッサム・ディアリーである。苦手な方に少しでも興味を持っていただけるよう経歴をピックアップしよう。ウディ・ハーマン楽団のコーラス・グループやクラブで歌ったあと、50年代初めにパリに渡り、そこで知り合ったアニー・ロスやミシェル・ルグランの実姉であるクリスチャン・ルグランと「ブルー・スターズ」を結成する。「バードランドの子守唄」のヒットで知られるグループだ。パリのクラブで歌ったり、ピアノを弾いているうちノーマン・グランツから声がかかりアメリカに戻る。私生活では「Kelly Blue」のブルージーなフルート・ソロで有名なボビー・ジャスパーと結婚するも数年後に離婚している。

 僅か数行でも自由奔放でジャズシンガーらしいではないか。数あるアルバムから彼女の魅力が詰まっているヴァーヴ第1作「Blossom Dearie」を選んだ。名前ズバリのタイトルで本格的に売り出そうというグランツの戦略が見えるし、音楽学校の先生のようなジャケットは声とのギャップの面白さを狙った節もあるが、彼女らしさをアピールするにもってこいだ。得意の弾き語りで、ハーブ・エリスにレイ・ブラウン、ジョー・ジョーンズというヴァーヴ・リズムセクションがサポートしている。フランス語で歌うアンニュイな「It Might as Well Be Spring」や、短いスキャットのイントロから入る「I Hear Music」がジャズ・フィーリング豊かでその世界に引き込まれること間違いない。

 さて、これで苦手な方も聴いてくれるだろうか。もう一つ付け加えておこう。ヴァーヴ第3作に「Once Upon a Summertime」がある。頬杖をついた可愛らしいジャケットだ。タイトル曲はマイルスがギル・エヴァンスと組んだ「Quiet Nights」でお馴染だが、ブロッサムを聴いたマイルスが刺激を受けて取り上げたという。マイルスをも虜にした小悪魔ときけば聴かずにいられないだろう。今宵は苦手な貴方のリスニングルームから「I Hear Blossom Dearie」かも知れない。
コメント (6)
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