デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

モンクの友人、ユージン・スミスが録ったホットなジャズ、撮ったクールなフォト

2021-11-07 08:37:50 | Weblog
 ジョニー・デップがユージン・スミスに扮した映画「MINAMATA ミナマタ」が上映中だ。チッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影した写真で惨事を世界に伝えた様子が描かれている。スミスは戦場カメラマンとして活動した後、雑誌「LIFE」に掲載された数々の「フォトグラフィック・エッセイ」で有名になった写真家だ。

 この映画に合わせるかのように「ジャズ・ロフト」が封切られた。こちらは2015年に制作されたドキュメンタリーで、もし先の作品がなければ恐らく日本ではお蔵になっていただろう。スミスがマンハッタンのとあるロフトで夜な夜なジャムセッションが開かれているのを聞きつけ、ついには録音機材を持ち込み移り住む。部屋中に録音の配線を張り巡らす。一音も逃さないぞという意気込みで録った音はその時代の最先端のジャズである。ミュージシャンの喜怒哀楽を撮った写真は数千枚にも及ぶ。

 圧巻はセロニアス・モンクがオーケストラと共演した「タウン・ホール」のリハーサル風景だ。オーケストラといってもチューバとフレンチホルンは入っているもののサド・ジョーンズをはじめペッパー・アダムス、エディ・バート、フィル・ウッズ等、錚々たるメンバーが並ぶ。何といっても個性が強い面々をまとめるアレンジャーのホール・オヴァートンが凄い。「Little Rootie Tootie」は、1952年の「Thelonious Monk Trio」を聴き返してモンクとオヴァートンが議論を重ねる。名演が生まれる緊張感にワクワクした。

 映画ではスミスの撮影方法や暗室作業も紹介される。演奏中に撮る時は誰にも気づかれないようにシャッターを押す。言うなれば「刹那」を切り取った写真はジャズメンの内面をも映し出す。現像の技術は写真に無縁の素人もうなずく。黒と白のメリハリを出す瞬間は魔法を見るようだ。スミスの写真集を開いてみよう。メリハリのあるモンクが聴こえる。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする