デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジョシュア・レッドマンはピーナッツを幾つ食べたのだろう

2009-02-08 08:37:17 | Weblog
 「鬼は外、福は内」、不況を反映してだろうか、今年の節分はどこの家庭でもひときわ声が高い。関東方面では炒り大豆を撒くようようだが、北海道では落花生が慣わしになっており、厄払いの後で殻を割って食べるピーナッツはビールという福の友になる。新鮮なピーナッツはそのまま食しても美味しいが、バターと塩で炒めるとさらに風味も増し、いつのまにか空き瓶が並ぶ。

 「ソルト・ピーナッツ」は、バップの申し子であるディジー・ガレスピーとケニー・クラークがエラ・フィッツジェラルドのバンド時代に合作した曲で、バップの夜明けを象徴する作品だ。メロディー、ハーモニー、リズムと、それまでのジャズの概念を崩し、さらに細分化されたコード・チェンジによる即興は、後のジャズの方向性まで決定することになる。まさにジャズの革命ともいうべき作品の名演は、ピーナッツと相性のいい柿の種のような、ガレスピーとパーカーが共演した53年のマッセイホールに収録されて、バップが持つ斬新性とそこから生まれる既成概念に囚われないアドリブの妙が凝縮されている。

 42年に作られた曲は最近ほとんど演奏されなくなったが、ジョシュア・レッドマンが93年の初リーダー作「Joshua Redman」で取り上げていた。同じくサックス奏者のデューイ・レッドマンを父に持つジョシュアは、ハーヴァード大学を卒業後、セロニアス・モンク・コンペティションで優勝し、鳴り物入りでデビューを飾った人である。ブルース、スタンダード、ファンク、バップ、オリジナルと幅の広さをアピールしたアルバムで、「ソルト・ピーナッツ」を急速なテンポで一気に吹き上げる様は大物の風格さえある。その後の活躍は目を見張るものがあり、その成長はバップの古典を取り上げるだけの伝統を踏まえていたからだろう。

 歳の数だけ食べると健康でいられると言われ、子どものころからその習慣は続いているが、さすがに50を超えるといささか飽きてくる。来年はもう一つ増えるのか、と溜息混じりに外を見ると出て行ったばかりの鬼が笑っていた。
コメント (15)
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