デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジジ・グライスは作曲法を誰に学んだのか

2014-12-07 09:37:26 | Weblog
 先週話題にしたアート・ファーマーがライオネル・ハンプトン楽団の欧州ツアー中、意気投合した同僚にジジ・グライスがいる。1953年の秋、マンハッタンに戻ったふたりは互いの近くに住居を構えるほど仲が良く、翌年には「When Farmer Met Gryce」という傑作を生みだしている。ファーマーのリリカルなトランペットと、グライスの尖鋭なアルトが織りなすサウンドは知的で詩情豊かなアルバムとして評価も高い。

 この作品で注目すべきは、全てグライスのオリジナル曲で構成されていることだ。アルト奏者としては実力がありながらも正しい評価をされなかったが、作編曲家としての才能は多くのジャズマンが認めている。そもそもグライスが注目されたのは、スタン・ゲッツが「Yvette」、「Wildwood」、「Mosquito Knees」というグライスの曲をルースト・セッションで取り上げたからだ。他にもJ.J.ジョンソンの「Capri」をはじめ、ハワード・マギーの「Shabozz」、マックス・ローチの「Glow Worm」、クリフォード・ブラウンの「Brown Skins」、「Hymn of the Orient」等、多くの楽曲を提供している。

 グライスの曲では「Nica's Tempo」や「Social Call」が有名だが、一番カヴァーが多いのは「Minority」で、初演はハンプトン楽団の欧州ツアー中、クリフォード・ブラウンが親分の目を盗んでパリで録音したものだ。勿論このセッションにはグライスが参加している。最近はあまり取り上げられない曲を「Portrait In Music」のトップに持ってきたのはウラジミール・シャフラノフだ。名前からわかるようにロシア出身のピアニストで、透明感のある音は清々しい。昨今、美しいだけでスウィングを忘れたピアニストが多い中、基本に忠実なピアノには身体が引き込まれる。

 この稿で紹介した曲を改めて聴き直してみるとジャズというよりクラシックに近い雰囲気を感じた。それでいてスウィングのツボを押さえている。こんなにも格調の高い手法をどこで学んだかというと、ボストン音楽院でクラシック音楽の作曲法をアラン・ホヴァネスに、そして著名なピアノ教師マーガレット・チャロフにも師事している。マーガレットはサージ・チャロフの実母だ。天才肌の師に学ぶと才能は一気に開花するのだろう。
コメント (12)
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