デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

貴方はこのピアノがわかるか、ブラインドの戦い

2016-12-18 09:21:56 | Weblog
 ジャズ喫茶全盛の70年代前後に各店で月に一度くらいのペースでブラインドが開かれていた。正確には「blind fold test」で、レコードをかけてサックスなりピアノなりのプレイヤーを当てるクイズだ。当時SJ誌にジャズ喫茶告知板というコーナーがあり、そこに情報が載ったのだが、耳が良い強者がその日だけ集まってきて景品を独り占めするので常連向けに小さな紙を店内に掲示するようになった。

 店によって違うが三問ほどで、解答用紙にわかった時点で書き込みカウンターに出す方式が多い。先着順なのでソロが出てこないうちに推測して出す人もいる。聴き込んでいるレコードならそれで当てることもできるが、出題者も然るもので滅多にかからないレコードで似たようなスタイルのプレイヤーを選んでくるのでそんなに簡単ではない。景品はレコード会社のスポンサーが付くときは新譜の見本盤や店のコーヒー・チケットである。参加料は飲み物代だけなので気軽に楽しめる遊びとはいえ当てれば尊敬の眼差しで拍手が送られるが、外せば鼻で笑われるので一音も聴き逃すまいと真剣だ。

 とうに店の名前は忘れてしまったが問題はピアノを当てるもので、クレジット通り正確に書けという注文が付けられた。曲は「ジェリコの戦い」でヴァイヴがメインのようだ。ソロも出てこないうちテーマを聴くなり自信ありげにさっさと書いて出す人がいたのには驚いた。ヴァイヴのソロに次いでピアノが出てくる。バップスタイルで少々荒っぽい。同じフレーズの繰り返しが入る。悩むうち演奏は終わり、数名が解答を出す。そのなかに「Alice McLeod」と正解を出した人がいた。ソロも聴かないうちに出した方の答えは「Alice Coltrane」である。常連客らしき出題者が、正確に書けと言った意味がよくわかった。

 当時は聴き込みが足りなくてブラインドで外しまくったが、それでも下手な鉄砲で二、三度コーヒー券を貰ったことがある。ブラインドは例えばこのレコードの場合、ピアノはわからなくてもヴァイヴ奏者から手繰る方法がある。正解を出すためには一番は耳だが、誰が誰と共演しているという知識も助けになる。コルトレーンならマル、ガーランド、フラナガン・・・アリスといった具合だ。あれから40年、SJ誌で知識量も増え、多少耳も鍛えられたが、今は目が薄くなり耳が遠くなった。
コメント (8)
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