コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

暑さ厳しき折、食も進まぬ日に

2011-07-12 21:44:00 | ダイアローグ


ゴッゴッゴ、ゴーヤチャンプルー!

まずはゴーヤをまっぷたつ
スプーンで種をえぐり出す
トトンと薄く切ったなら
勝手にさらせ塩水に
苦み青みも10分まで
豆腐は木綿絹は嫌
焼けたフライパンの上
かどや純正胡麻油
たらりとすれば煙るほど
水切り豆腐つかんでは投げ
投げてはつかむと火傷する
豆腐に焼き目がついたなら
ゴーヤをくわえ
パラリンリンと塩胡椒
醤油の一滴
地獄の業火もかくなるや
まぜてかえしてちょうだいな
あとは2個の溶き卵
とろりと流してまぜません
揺すり傾け
蓋して1分
ちょとチャンプルー
ゴヤチャンプルー!

(2001/8/23)

ミルクピッチャー

2011-05-06 01:34:00 | ダイアローグ


ホームから母を連れ出し
車で五分ほどのコメダ珈琲に入った
ブレンドコーヒーに一袋の砂糖を流し
回したスプーンがつくるミルクの渦を見ている

「ああ、一年ぶりのコーヒーだ、ありがとう」
母は繰り返し言い
押しやった私のコーヒーの半分を飲み
勧めた二本のタバコを根本まで吸った

金属のミルクピッチャーをつまんだ母は
「これは飲んでもいいのかい?」
と俺へ向いて尋ねる
「いや、ダメだよ」
と俺は答える

母はコーヒーとタバコが好きだった
小学生の頃、勤めから帰った母に
よくコーヒーをつくってやった
当時は、インスタントコーヒーだったが
我が家には、安い買い物ではなかった

角砂糖一個とクリープをたっぷり
母はタバコを吸いながら
「あたしのたったひとつの贅沢だ」
とよく言った

喫煙席のボックスに空きはなく
共用の長いテーブルになったので
母と並んで座っている
はじめて来た店なのに
店内を見回す様子もなく
正面を向いたまま
無表情な横顔を見せている。

「もう出たいかい? ここ」
「そうだね、はじめてだしね」
「緊張したか?」
「そんなことはないよ」
「ちょっと、そこらを歩いてみるか」

コメダ珈琲は、四車線の幹線道路に面している
何処へ行こうかと、車椅子を押しながら考えていると
「ツツジがきれいだねえ」
と声が上がった
「長い枝を、ひとつ折っておくれ」
とも言う

コメダ珈琲の駐車場を囲む
白いツツジの植え込みだ
「でも、これはコメダのツツジだぜ」
言い出したら聞かない母を思いだして
手早く手近なのを折ってやった

近くの花水川の土手まで車椅子を押した
家からすぐに上がれるこの土手を散歩するのが
かつて母の朝の日課だった
飼い主が放し歩きさせていた犬に出喰わし
驚いて土手を転げ落ちたのが
腰骨を骨折した最初だった

二度目は、自転車に乗っていて車をぶつけられ
三度目は、郵便屋の押すブザーに玄関に急いで転び
腰骨の同じ箇所を折った

「ああ! この土手に来たのは何年ぶりだろう、嬉しいよ」
母は最初こそはしゃいでみせたが
すぐに無表情に戻った

花水川の対岸には
晴れわたった空と深緑の高麗山が見える
ところどころ萌葱色の毛糸玉のような
雑木の群生が見える
「五月がいちばんいい季節だな」
土手上の道を車椅子を押しながら
母に声をかける
母は黙っている

顔の向きがおかしいことに気づく
「川はこっちだよ」
後ろから指を伸ばして左の顎を軽く押した
川や山ではなく土手沿いに建つ家々の方に
母の顔は向いていた
散歩のリードを引っぱった犬が
母の横を通り過ぎていった

花瓶には、さきほどの白いツツジを挿した
「疲れたろう、少し横になったら」
母はベッドに仰向けて目を瞑る
俺はカバンから用意していた文庫本を出す
一頁もめくらないうちに
「コーヒーおいしかったねえ」
と母が言うのが聴こえた
目は瞑ったままだ
「そうか、また行こうな」

「ねえ、--」
と俺の名を呼ぶ
「なんだい」
と俺は答える

母がこちらに笑顔を向けている
ベッドの傍らをポンポンと手で叩いて
「お前も、ここで横にならないかい?」
母がそれを言うのは、これで何度目だろう
「今夜は、一緒に寝よう」
と言ったこともある。
もちろん、その度に
「いいよ、俺は」
と遠慮するように断ってきた

俺は立ち上がり、ベッドの傍らに立ち
母の傍へ腰を下ろした
母の手の甲をさすりながら
母の顔を覗きこんだ。
落ちくぼんで小さくなった眼は虚ろだが
いっぱいの笑みが顔を輝かせている

「おふくろ、俺の顔が見えるか?」
「俺が誰だかわかるかい?」
と尋ねた
「もちろん、見えるよお、--」
と母は答えた。
「じゃ、あそこのカレンダーは見えるか?」
「あんまり見えないねえ」

カレンダーが掛かっているのは
俺が座っていた丸椅子の後ろ
ベッドから二メートルほどの距離だ
「じゃ、少し離れると、どんな風に見えるんだ?」
母の手は、滑らかに白かった
「ぼんやりとしか見えないねえ」

訪ねると歓声を上げて喜ぶくせに
しばらくすると、無関心なように無表情になるのはなぜか
どちらかが、母の演技と思っていたが
ほとんど眼が見えないためだった
断っても断っても、一緒に寝ないかと誘うのはなぜか
薄気味が悪いと思っていたが
近くで俺の顔を見たかったからだ

母からは、ぼんやりとした人影にしか、俺は見えなかった
嘘寒い言葉をかける、離れてぼんやりした人影だった、俺
ミルクピッチャーの底に残ったミルクの一滴は見えていた、母
そのことに、俺だけが気づいていなかった
俺だけが知らなかった

「ヤダ、ヤダ! そんなこといわないで」
「じゃ、またな」
と俺が切り出すと、母はいつもそう言って、幼児のように泣く

俺は、女たちの顔を思い浮かべる
そして、おふくろと呼ぶこの老婆こそ
俺の最初の女だと思う
女たちよ
女たちよ
俺はたしかに不実な男だった
お前たちをひどく傷つけ、裏切り
その真心を踏みにじって、逃げた
しかし、女たちよ
女たちよ
お前たちは、この女よりましだ
この女ほどには、ひどい仕打ちを受けてはいない
それだけは保証する

帰りがけの玄関で
FLOのタルトを渡した職員に
「よろしく頼みます」
といつものように、頭を下げる
「大丈夫ですよ、長男さんがいらしゃると、少し不安になるようですが」
咎められているのかと俺は眼を上げた
「他の人が帰りたいと愚痴ると、ここは退院できないのよ」
「って慰めたりすることもあるんです」
と続けて、俺の知らない母を教えてくれた

ミルクピッチャーの底に残ったミルクの滴を
母が飲みたければ、飲ましてやればよかった
「ダメだ」
そんな風にいうことはなかった

大工町寺町米町仏町老母買ふ町あらずや つばめよ(寺山修司)

寒い日には暖かい陽を思う

2011-01-31 00:05:00 | ダイアローグ
柴犬と彼女と私の


十歳年下の彼女と田舎道を歩いている
スカンポやイタドリの見つけ方や食べ方を
彼女は姉さんぶって教えてくれる
草花の間に立ちポーズを取るのを
笑うと少しむくれる
胸いっぱいに膨らませて顎を引き
瞳を閉じた横顔を盗み見る
握り返す小さな掌を離したくなくて
どこまでも歩こうとしている
陽と風と柴犬が追いかけてくる五月
なかよしの道だワンッ



あずサバ

2010-07-28 22:59:00 | ダイアローグ
必達目標というのは、以前はね、努力すれば、できない目標じゃなかったんだがね。前年同期比12%増ではねえ。僕が課として出した数字は7%だったんだが、それだって、君らはブーブーいってたよな。どこから出てきたんだろうねえ、12%。

ところで、企画開発部の森沢さんとは、どうなの? 結婚するんだろ? ビール、それとも、焼酎にするかい? うんうん、おいおい聞こうかね。あずさ、焼酎もね。

あ、そう、今夜は、あずサバ、か。いやね、ウチのカミさん、なんでも自分流に料理して、名前付けるのよ。あずさオリジナルのサバ料理だから、あずサバ、ははは。そうか、あずサバか、うーん。君、サバは好きかい? そうか好きか、そりゃ、残念だったね。

そう、森沢さん、料理好きなの。そりゃよかった。男にとって、結婚とは、まず、食い物だからね。そう、ちょっと意外だな、森沢さん、料理作るんだ。もう、作ってもらった? 肉ジャガとか? 

ウチのに? それはどうかなあ。料理学校に通っているんだろ? それでいいじゃない、わざわざ、君のところは板橋だろ。所沢まで来るこたない。いや、遠いしさ。まあ、食べてみてからさ、そういうことはいったほうがいいんじゃないかな、あずサバ。

おっ、焼酎きたね。ロックにする? いいから、いいから、つくるのは最初だけ。あとはめいめいでね。ほら、来た、あずサバ。早かったね。ありがとう。うん、豆板醤ソースだろ、わかってる。僕が教えるから。いいよ、ここは。

はい、これがあずサバ。びっくりした? えーとね、蒸してるのね。さばを蒸すと、こんなヌメーッとした青色になるのね。で、この皮をこうめくるとね、茶色いブヨブヨした身が出てくると、もうね、とてもサバとは思えないだろ。でさ、こう身をほぐしてね、豆板醤ソースにつけて食べるの。

あ、辛くはないよ。豆板醤と醤油に胡麻油に山葵が混ぜてある。どう? よく食べたねえ、無理しなくていいよ。僕もね、あずサバじゃなければいいがなあと思ってたんだが、ははは。悪かったね。サバを蒸して、油脂を抜くと、こんな味になるんだねえ。なんか、箸で押すと、ジュクジュクしているところが、ちょっとね、ねえ。

えっ、微妙な味? わはは、それをいうなら、奇妙な味だろ、わはは。でさ、このソースが、豆板醤ソースがまた、どうして山葵を入れるんだろ? もう、わけわかんないよね。ただ、焼いてね、黒く焦げた皮へ醤油をじゅっとかけてさ、食ったらね、もうどれだけ美味いかってね。

やっぱり、ビールがいいんじゃない? 口の中洗いたいだろ。そのコップでいいだろ。いいって、君しか口付けてないんだから。でさ、結婚するっていうのはだね、こういうことなんだよ。味覚の違いってのはあるからさ。俺もね、新婚のとき、ちょっとゾッとした覚えがあってね。

あっ、ミーちゃん、ミーちゃん、よしなさい、毛が付くからね。こっちおいで、ミーちゃんも、あずサバ食べるかい? ほらね、ウンチした後始末みたいに、砂かける真似するだろ、ははは。青魚は食べないからね。サンマくわえて逃げるってマンガがあるけど、ありゃ、嘘だね。

森沢さんは、どうなの。へえ、パスタが得意なの。カルボナーラ? ふーん。でさ、やっぱり、森沢さん、うちのに料理習わせに来させる? わはは、僕はいいよ、あずさも喜ぶしさ、ははは。

いや、あずサバはほんの一部さ。あずさしというのもある。刺身だがね、ただの刺身じゃない。おいおい、そう目を丸くするなよ、ただのカルパッチョだよ、オリーブ油に漬かってるの、レモンかけてね、パセリの刻んだのを乗せて、召し上がれってね。うん、悪くないよ、ただね。刺身がマグロなんだ、ふつう、白身だよね。醤油かけようとすると、怒られる、味が台無しになるって、ははは、味が台無しだって、わはは。

あずサーモンというのもある。これはね、これはね、見かけはね、サーモンのクリームソースがけみたいなのね、やったと思った、嬉しかったね、ビール探したね、鼻歌が出たね。でもね、やっぱりホイルで蒸し焼きしてあって、ソースがね、これが酒粕ベースなの。そう三平汁だな。

いやいやいや、三平汁を煮詰めただけなら、いいんだがね、やっぱりクリームソースだから、ミルクやバターも入っているわけね。舌触りも滑らかなようで滑らかではないような、どんな味だか舌先で転がしても正体がわからないという。これにあずサワーっていうドクダミ茶をブレンドしたカクテルを飲んでると、しみじみ単身赴任したくなってね、わはは。

でもさ、課を放り出して、よそへ行くわけにもいかないだろ。うそうそ、冗談だよ。いまさらね、この年になって、単身赴任もないでしょ。だいいち、受け入れ先がないよ、わはは。ま、7%で睨まれてるからね、12%はともかく、7%を上回らなくちゃ、もしかすると、地方の子会社行きかもね、あずさ2号で、わはは。

でさ、森口さんと味覚の違いはない? 大丈夫? まだ、わからないか。そうなんだよ、彼、この秋に結婚するらしい。でね、相手は森口さんっていってね、企画開発部にいるんだが、いい娘でね、花嫁修行中でね。あずさ、お前にさ、料理習わしたいんだそうだ、どうかね、週に一度くらい。遠慮するな、君。あずサバにあずさし、あずサーモン、あずサワー、みんな教えてあげなさい。迷惑なんてあるもんか。仲人だって勘弁してもらったくらいだから、何かお役に立たなくちゃね。

えっ、あずさこ、つくってるの? ほお、そりゃ、ぜひ、食べてもらわなくちゃ、わははははは。あずさこってのはね、あずサバの10倍は美味い! ははは。うそうそ、冗談だよ。本気にしなさんなって。3倍くらいだよ、ははは。うん、あれは時間がかかる。やはり蒸すからね。ほら、あずサバ、片づけなくちゃ。もう少し食べてね。僕も食べるから。

新婚生活はいいよね、うん、もうすぐだね、君らも。冗談だっていったけどさ、一度くらい、森口さん、こさせなさいよ。さっき、いっちゃったし。なに、形だけでいいんだ。あずさしならいいんじゃないかな。もう、あずさし教えてくださいって、リクエストしてね。

ああ、新婚のときの話ね。うんうん、あれは驚いた。接待ゴルフでね、日曜の朝早く、飯能ゴルフクラブまで出かけてさ。ハーフ廻ったら腹が渋りだして、冷や汗が出るものだからさ、途中で失敬して、3時頃帰ったわけね。そしたら、見ちゃったわけね。 

君さ、熱いごはんにバター溶かして食べる? 食べない。そうだよね、あれ、僕も苦手だなあ。どう考えてもミスマッチでしょ、熱々のごはんにバターは。でも、油ギトギトのチャーハンは旨いんだよね、フライドライスってくらいだから、カロリー気にして油を少なめにすると、旨くない。

うん、帰ってみるとね、ダイニングテーブルに顔を伏せていてね、あずさ。オイッて声をかけたら、顔を上げてね、こちらを見たのね。びっくりしたね、口の周りが茶色いの。僕ね、茶色い髭を生やした、別人かと思った。なんで、見知らぬ他人がいるのか、お客かと思ったりして、でもそんなわけはないし、あずさ?って聞いたら、笑ったのね、茶色い髭が。

それで、あなた、早かったのね、おまえ、何してるの、おやつ食べてるの、って嬉しそうでね。その口はっていうと、ああこれって笑ってね、これっていう。丼のそばに、森永ミルクココアの缶があった。熱々のごはんに、ココアの粉を山盛りかけて、スプーンで掻き込んでるの、それで口の周りが茶色かったわけだ。

こんな話、聞いたことない? ある男が美人で気だてがよくて働き者で、おまけに食が細い嫁をもらったと。ところが、米の減りが早過ぎる。ある夜、ふと目覚めた男が台所をのぞくと、嫁が、後頭部の髪をかき分けたもうひとつの口で、お櫃のご飯を貪り食っていた、という話。それを思い出して、ちょっとゾッとしたね、あれには。

後で聞いたら、子どもの頃から、おやつに食べていたんだって、ココアごはん。ま、ここだけの話、そんな風には見えないだろうけど、あずさの家はひどく貧乏でねえ。森口さんところは、あのへんの土地持ちだってね。あ、森沢さんか、失敬失敬。

でも、新婚時代はいいよねえ。二人で長野へ旅行したときも、ちょっと驚いたねえ。盆にね、一泊二日で温泉に行こうっていうんだ、知っている宿があるからって。で、駅からバスに乗って降りるだろ、目の前に旅館らしい建物があって、こう立派な冠木門っていうの? その奥に石灯籠が見えて、玄関まで飛び石が続いているみたいなの。

そっちへ行こうとすると、あずさが袖を引っ張って、こっちこっちってね、ほかに旅館らしき建物はないのにね。なんか潰れた古い雑貨屋みたいな、屋根が傾いたようなボロ家に連れてくの。中は暗いのに灯りも点いてない。廃屋にしか見えないのね、あずさ、そこに入っていくじゃない。

すると、汚い婆さんが出てきてね。前掛けなんか、汚れて黒ずんでるの。何か、モゴモゴいって、部屋に通されたわけ。ま、外見がね、まるで座頭市が泊まるような家だからね、部屋も推して知るべしだがね。簡単にいうと、衣紋かけってあるだろ、服かけるために、旅館には、浴衣に着替えるから。ハンガーか、そうだね。あれが、針金のだった、ほら、クリーニング屋のやつ。ここは飯場だといわれても僕は頷いたね、ココアごはん食べるやつだからね、ははは。

いや、それが飯はけっこういけたんだよ、意外なことに。山菜尽くしでね、見場はわるいが、珍しいものだった。こちらが知らないだけかもしれないがね。イナゴの佃煮も出たな。温泉はね、最初に見つけた旅館に貰い湯にいった。

あずさはね、お料理おいしかったね、温泉広かったね、穴場でしょって、ご機嫌でね。まあ、家庭サービスなんだから、カミさんが喜んでりゃ、僕はなんでもいいんだがね。宿の値段聞いて、ちょっと怒ったね。8千円だというんだからね、一人。二人でか? と思わず聞き返したね。

あれだけの山菜料理食べれて、8千円なら安いって、あずさはむくれてるのね。30種の山菜ったって、婆さんがそこらで摘んできた野草でしょ、ようするに。部屋は飯場、風呂は貰い湯、人件費は婆さん一人、原価1千円ってとこでしょ。

でも、すごいね、8千円ということは8倍だよ。うちなんて、12%売り上げ増しても、利益率は2.5%しか上がらないのにね。だからね、7%じゃ、話にならんわけね。君らは5%とか脳天気なことをいったけれど、僕はね、せめて9%は出したかったね、もういっても愚痴になるけどね。

ほいほい、やっときたね。あずさこのソースはね、ブルーベリーソースなのね、はい、わかってますよ、たんと召し上がれ、でしょ。ほら、君、これがあずさこだ、わははははははは。



男と女の不適切な真実

2010-07-15 03:22:00 | ダイアローグ
「やる気あんのか、てめえ」
「いきなり、なに怒ってんのよ」
「その格好だよ」
「おかしい? 似合ってない? ブラウスの色、合わない? そうならいって」
「おかしかねえよ、別に」
「そう、よかった。じゃ、なにが気に入らないのよ」
「そのジーパンだよ」
「ジーパンだって。ジーンズでしょ」
「うるせえな、おれは、おめえが、おしゃぶりくわえてた頃から、リーバイスの501とかはいてたんだ。ジーパンでいいんだよ」
「はいはい、そのジーパンのなにがいけないのよ。女の格好にケチつけるなんて、意外な人ね」
「その、人ねってのはなんだ。目の前にいるのに、どこかよそにいるみたいにいうな。そのうち、私って人は、とかいいやがるんだろ。てめえ、なに様だ」
「いちいちからむのね。いいわよ、なにが気に入らないかわからないけど、ご機嫌が悪いなら、今日はなしにして帰ってもいいのよ」
「ははあ、やっぱりそういうことか。はなからその気はなかったってえわけだ」
「なにがやっぱりよ。さっぱり、話が見えないんですけどね」
「てめ、この、澄ましやがって、見えるも見えねえもねえ、おれは見たとおりをいってるんだ」
「だから、なにをいってるのよ、なにが見えたのよ。じれったい人ね、さっさといえばいいじゃない」
「人ねって、また人っていったな。あ、じれったい人はいいのか」
「なに、空見上げてんのよ、頭よくないのに、考えたってむだじゃない。それより、あたしに、なにかいいたいんでしょ?」
「おめえ、おれをバカにしてんのか?」
「いいえ、バカにはしてません、バカだと思ってるけど。せっかく、はじめてのデートらしいデートだっていうのに、ブスってしてるから心配させてさ、いいがかりつけてさ、精いっぱいのおしゃれしてきたのに、あたしのなにが気に入らないのよよ」
「あ、泣いてんのか、ったく。たしかに、おめえと二人で出かけるのは、今日がはじめてみてえなもんだ。だからよ、ジーパンはねえだろって、そういってるんだ」
「だからあ、ジーンズのどこがいけないのよお」
「いけねえよ、全然、いけねえよ。色気もへったくれもねえじゃねえか」
「誰がへちゃむくれだって!」
「へちゃじゃねえ、へったくれって」
「あんたこそ、靴の底みたいな顔をしているくせに、よくもまあ、あたしのことをへちゃっていってくれたわね!」
「くっ、靴の底みたいな顔ってなんだ。靴の底って! そんなことはじめていわれた。おれの顔は靴の底みたいなのか」
「色気がなくてわるかったわね。どうせ、そうでしょうよ。もっと、色気があって、若くてピチピチしたのがいいんでしょ。そんなら、そっちへ行けばいいじゃない。ニタニタして手でも振れば、靴底と靴べらだわね」
「ちょっと待て、とりあえず、顔のことは横におこう。それから、若くてピチピチの肌のことも、いまはなしだ」
「ピチピチの肌なんて、あたしはいってない! あたしの顔をへちゃといったうえに、肌も張りがないとか、おばさん扱いするわけ? え、ちょっとあんた、本気でいってるの!」
「おれはそんなこといってねえぞ、一言もいってねえ!」
「いった」
「いってねえったら」
「絶対、いった」
「うるせえ口だな」
プハーッ
「な、なにすんのよ、こんな人通りで、他人が見てるじゃない! ほんとになに考えているのよ、あんたって人は!」
「これはなんだ?」
「なんだって?」
「これは右手だよ、靴べらじゃねえぞ。おめえにキスしてるとき、この右手はどうするんだ?」
「・・・」
「な、そんなジーパンじゃ、どこにも入れないだろ? 触れないだろ?」
「まあだ、わからねえか。じゃ、もう一度」
「もういい、わかったから バカ 」
「わかりゃいいんだ」
「お化粧なおしてくる」
「うん」


男と女の不都合な真実