コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

目玉つながりのおまわりさん

2002-04-20 20:04:08 | ダイアローグ
手を出してみろ
といわれて
掌を差し出したら
乞食野郎と叩かれた

舌を出してみろ
といわれて
嘘がつけるようになった
耳を貸せといわれて
ひどい嘘を信じた
足下を見ろ
といわれて
倒れている人をまたいだ

鼻を効かせろ
といわれて
匂いを失くしたのに
喋るな
といわれて
息が臭いことを知った
まだ生きているのに
少し驚いた

目を開けろ
といわれて
眼球の傷が動くのを
追いかけた
笑えといわれても
前歯がないから
小さな声が洩れただけ
下唇で涙を受けた

いちばんみっともないのは泣き笑いだ
いちばんみっともないのは泣き笑いだ
いちばんみっともないのは泣き笑いだ

僕はそういってのけられる
僕はそういってのけられる
僕はそういってのけられる

(4/20/02)
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名もない時代の名もない国で

2002-04-14 20:00:00 | ダイアローグ
聞いたこともない町で
Yシャツの裾を出して
靴をスリッパのように履き潰した少年たちが
宿無しの読書人を
学習塾の行き帰りに殴り殺したとき
宿無し仲間は隣のテントで膝を抱えて震えていた
「謝れ!謝れ!」
という叫びとくぐもった呻き声を聞きながら

図書館で注意して先に手を出したのは
宿無しの読書人だったが
詫びの言葉はけっして口にしなかった
私たちは予期せぬときに意外な人から
人間の矜持の所在を知る
死に至る拷問に耐えたおかげで
宿無しの読書人は失った名前を取り戻し
被害者と呼ばれることになった

痩せ老いた女が玄関先で
新聞店の若者から
中途解約するなら
ビール券5枚の返却を
と迫られている
新聞を読まぬ老女は
まだ葬式も挙げていない
亡夫の署名を愚痴る
私たちの貧しさは
たいてい契約書に書かれている

桜が散り花水木が咲く
見知らぬ舗道を
私の名前が記された
調書や契約書を探して歩く
聞き覚えのある着信音が
私を呼んだ
涙ぐむほど嬉しくなって
見覚えのない電話番号に
かけ直した
相手が名前を呼んでくれるのを
たがいに息をつめて待った

(4/14/02)


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練習

2002-04-05 23:12:50 | ダイアローグ
気がつくと私ひとりがぼんやりと
バーボンソーダの発泡を眺めている
誰の顔も輝いているというのに私ときたら
里子に出された子どものよう
気遣ってくれて何か尋ねられても
頭がよくない私には何のことかわからない
膝を進めてくる真剣そうな独白も
曖昧に頷いてぎこちなく微笑んだ後
笑ってはいけなかったのかしらと唇を噛む
興味を失ってくれるよう瞳を伏せながら
なのにどこかの会話に入れないものかと
猫のように耳を立て犬のように見えない尾を振り
台本にはないはずの私の名前を探している
コースは全部食べてデザートも出てきた
ワインを飲みたいけれど暗くて
メニューが読みにくいしキャンドルは遠い
少しも酔っていないのはもったいない
帰り支度の人たちの間で立ったり座ったり
いちばん最後にエレベーターに乗ったおかげで
いちばん最初に吐き出され会釈して歩き出している
立ち止まる理由は見つからないし呼び止める声もない
来なきゃよかったのにといつも思うのに
どうして来たかったのだろうといつも思う
別れ際だけでも笑って手くらい振ればよかったと
コートのポケットの中でちょっと練習してみる

(4/5/02)


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好きのち嫌いときどき雨

2002-03-28 18:12:19 | ダイアローグ
バレンタインチョコ
届いたかしら
あれ高かったの
ホワイトデーを
楽しみにしていたのに
部屋にいなかったね

会えないと気が狂いそうだし
会っているともっと苦しいの
2度と会いたくないくらい
あなたとはずっと話したかったけれど
電話しなかったのはそういうわけ
気をわるくしないでね

踊りやドライブにも誘ってくれない
黙りこくって時計ばかり気にしている
もうダメかもしれないって思ってる
はじめて会った頃と
あたしは何も変わっていないはずなのに
彼が変わってしまったのね

冷たくされても
あなたと会っていても
彼を思わずにはいられない
もう好きとか嫌いとかじゃなくて
愛しているの
津波なの

好きというなら
あなたの方が彼よりずっと好き
いまは前ほど好きになれないけれど
でも憎んだりしていない
彼なんか影も形もなかった頃から
あたしたちはあたしたちだったから

裏切ったなんて思っていない
あなたも苦しんでいたし
お互いに辛かったんだから
あなたはあたしによくしてくれた
あたしにはもったいない友だち
ずっとそう思ってきたの

何度も泣くだろうけれど
彼を忘れることはいつかできるはず
でもあなたと別れるのはいやなの
だからさっきから鳴っている電話に出て
彼にちゃんといってほしいの
もう2度と電話しないでって

彼に捨てられた上に友だちまで失うなんて
あたしの手紙やプレゼントを2人で眺めるなんて
あたしを思い出にするなんて
そんなのひどすぎる
友だちならできないはず
あたしがそう叫びかけたとき

雨に濡れた彼が入ってきた
あなたの髪が風に揺れ
瞳に火がついた

(3/28/02)
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犬っころ

2002-03-21 12:39:00 | ダイアローグ
犬っころ

あなた心ってその耳の上にあるって思ってない?
じゃ誰かを好きになると胸がときめいたり
何かこみ上げてきてあわてるのはなぜ?
心って内臓にもあるのよ頭や脳だけじゃない
あなたのその間抜けな一物は内臓器官なの
外に飛び出しちゃった心の一部なのよ
女のオマンコは内臓そのものよね
だから男よりずっと心で感じるの
でも心に入られるのって苦痛でもあるのよ
たいていの女が優しくしてねというわけ

話を元に戻すと
あなたが女心がわからないのは
あなたのせいばかりじゃなくて
そんなわけで
もともと心を感じる機能が男は女より劣っているのよ
それを補うために脳で考えようとするのね
可哀想なものね

心はここにあるのに
あなたはいつもそれに触れているのに
彼女の心がわからないとあなたはいう
彼女はね、なぜあなたがわからないか
それがわからないのよ、わかる?

聞こえていたよ
狭い2DKだからな
またくだらないご託を並べていたんだろ
あのお喋りが
話半分に聴いておけよ
俺が思うに
お前がまずいのは
女と犬っころは同じだ
それをいつまでたっても弁えないことだ
女と犬っころとの違いはな
犬っころは口紅を塗らないくらいなもんだ

お前は犬っころを拾ったのをときどき忘れちまう
そのくせ拾うときに何を思ったかをいつまでも覚えていて
グジグジ考えこみ自分を責めている
そんなことより拾ってしまったことが大事なんだ
その前後に何を考えたか、ではなくな
拾ったら、お前の傍に居つくもんだ
居ついたら、面倒みてやらなくちゃならん
拾ったのを後悔しているんなら
捨てるしかない、わかるか?

お前は拾われた犬っころが喜んでいると思えず
後悔しているのではないかといつも気にしている
それだけならまだしも
犬っころに拾われてよかったか
それで幸せなのかとしょっちゅう訊いている
俺なんかよりずっと利口なはずなのに
お前の頭には砂が詰まっているのかと思うよ
そんなことは一目見りゃあわかるじゃないか
黒光りした鼻を鳴らして懸命に尻尾振って
切なそうにお前を見上げているだろうが

お前はそれを見かけだけだと納得せず
心の裡を知りたがり探ろうとしている
犬っころは何がいけないのかわからず
自分の尻尾を追いかけてぐるぐる
気が狂ったように回ってる
俺にいわせれば苛めているだけだ
もしそれが狙いだとしたら
お前はゾッとするやつだと思わなくちゃならない

さらにお前がややこしいのは
犬っころに自分を捨ててくれと頼んでいることだ
それを対等な関係と勘違いしている
それはな、ただ自分が犬っころになろうとしているだけだ
俺もお前も犬っころにはなれない、なりたくてもな
俺はなりたくもないが
彼女はお前が拾ってきた犬っころなんだ
お前が選んだんだよ、犬っころが選んだんじゃない
手招きして頭を撫でて腹をさすって
俺の処に来いといったのはお前だろ?

くだらないことをいうな
彼女は人間で犬っころじゃないのは当たり前だ
犬っころは人間じゃない
でも、女は犬っころなんだよ
傍に置くことも捨てることもできないなら
いっそ俺がきれいさっぱり殺してやろうか
いま家に一人でいるんだろ

心配するな本当に殺しはしないさ
ただな、彼女に電話しろよ
俺がいまから行くってな
2時間ほどここで待っていろよ
まあ、俺にまかせておけ
悪いようにはしないから

(3/21/2002)
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