コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

チャレッソ

2018-02-22 00:21:00 | スポーツ


「ニッポンがリードしている」「ニッポンがリード」「ニッポン、金メダルを獲得しました!」「ニッポン、金メダルうう!」

つい先ほど、スピードスケート団体パシュートの女子チームが決勝でオランダチームを破り、下馬評通り優勝した。中継したNHKアナウンサーは例のごとく叫んでから、続けた。

「これで日本が獲得したメダル数は11個、長野オリンピックの10個を越えました!」

ノーベル賞とオリンピックは似ている。受賞者やメダリストが日本人なのか、獲得個数はいくつなのか。メディアの関心はそれ以外にないかのようだ。

科学技術にどれほど貢献したのか、どれほど優れた身体パフォーマンスを示したか、という興味関心より、ノーベル賞やオリンピックだから、「凄い」「スゴイ」。

ちょっと気取って、「感動を勇気をもらいました」。いや、あなたやあなたたちのことではない。メディアの話だ。

例えば、毎年のノーベル賞騒ぎの陰で、日本の学術研究がどれほど劣悪な環境下にあり、ために年々その世界的評価を下落させているかなど、メディアが報じなければ、私たちには知るよしもない。

オリンピックの憲法にあたるオリンピック憲章は、第1章オリンピック・ムーブメント」の<6.オリンピック競技大会>において、以下のように規定している。

「1.オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない。」

第1章6-1だけでなく、通して読むのはちょっと嫌になるほど長文のオリンピック憲章のどこを開いても、「国家間の競争」を越えた、「人類や人間の尊厳と価値」を高めるためのスポーツの祭典であることが謳われている。

NHKのTV中継を視ていると、ほとんど分刻みにオリンピック憲章違反の「国家間の競争」を煽っているとしか思えなくなる。せめて、「日本」連呼の2/3くらいを「日本人」に言い換えるほどの配慮はないものか。

「日本」と「日本人」は国民感情としてはほとんど同義じゃないか、という指摘はあるだろう。「日本人として誇りに思う」というおなじみの感想はそれをよく示している。ナショナリズムの高揚に資するというメディアの目的はたいてい達成されるわけだ。

「日本の期待に見事に応えた、女子パシュートチームのインタビューがはじまります」

NHKのアナウンサーはまだ興奮が冷めやらないようだ。たしかに国としての日本は、いくつメダル数を獲れるかを期待したかもしれない。

だが、彼や彼女らをじっさいに支援してきたのは、それぞれの日本人たちだった。陰日向なく物心両面で選手生活を支えてきた、市井の人々にこの記事は取材している。日本と日本人は重ならない、重なる場合だけではないのだ。

小平奈緒は「僕らの誇り」所属先・相沢病院理事長が現地応援へ
http://www.hochi.co.jp/sports/winter/20180216-OHT1T50032.html

「日本人として誇り」と「僕らの誇り」の違いがわかるだろうか。日本と日本人はメダルという成果を期待するにもっぱらだが、そのプレッシャーと諸事万端については、選手とその周囲の人びとが負担することを期待されているわけだ。

「日本のためにメダルをとりたい」と決意を示し、結果が出た後に、「これまで応援してくれた日本の皆さんに」記者会見で礼を述べるとき、選手たちにとっても日本と日本人はひとつになっているだろう。ただし、その脳裏には、それぞれの人々の顔がはっきり浮かんでいるはずだ。

金銀のメダルを分けあった小平奈緒と李相花(イ・サンファ)の「友情物語」を持ち出すまでもなく、私たちはただ隣人である。オリンピック憲章など読まずとも、選手たちは隣人の応援を受けて個人として競技することがわかっている。わかっていないのは、メディアをなぞる感想しか持たない私たちなのかもしれない。

(敬称略)
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良記事です

2016-08-21 22:31:00 | スポーツ
表彰台での勇気ある行為が原因で、母国で生涯を通して除け者扱いされ続けたオリンピックの銀メダリスト
http://www.imishin.jp/peter-norman/
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今夜は浅田真央記念

2014-03-27 22:44:00 | スポーツ
今日、27日(木)、さいたまスーパーアリーナで開かれたフィギュアスケート世界選手権の女子SPで、浅田真央選手は冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を見事に決め、歴代世界最高となる78・66点を獲得して第1位となりました。

というわけで、今夜は浅田真央記念ショパンのノクターンです。

"Nocturne Op.9 No. 2" Chopin - Ulrike Masakowski Live


ショパンのノクターンといえば、映画「戦場のピアニスト」です。映画のなかで、モデルとなったシュピルマンが、ドイツ軍将校の前で弾いたのは、ショパン夜想曲第20番嬰ハ短調でした。

"The Pianist" hero W. Szpilman plays Chopin Nocturne op. 20 The Pianist HD Original Recording


シュピルマンは戦後ポピュラー音楽の作曲家として活躍したそうですが、この「赤いバス」は彼の代表的なヒット曲でポーランド人で知らない人はいないそうです。

Autobus czerwony


(敬称略)
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お詫びと訂正とマオロス

2014-02-28 03:16:00 | スポーツ
下の「そりゃあもう大騒ぎさ」の文中、次の箇所は間違いとわかったのでお詫びして訂正します。

たまりかねたロシアオリンピック委員会は、その公式サイトでキム・ヨナとソトニコワの採点内容を公開し、画像入りで説明しています。

ロシアオリンピック委員会は記事を転載しただけで無関係でした。アメリカのフィギアスケート代表のコーチと技術顧問をつとめたアダム・レイブ(Adam Leib)氏が、二人のパフォーマンスを比較分析したものをニューヨークタイムズ紙が紹介したのが元記事でした。

How Sotnikova Beat Kim, Move by Move
http://www.nytimes.com/interactive/2014/02/20/sports/olympics/womens-figure-skating.html

ついでに、その後の動きを。

アメリカでも賛否両論のようです。著名なスポーツコラムニストの「キム・ヨナは金メダルを盗まれた」というロシア大批判を朝鮮日報が紹介しています。

ソチ五輪:「不公平判定はISUが1年前から計画した詐欺劇」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/02/27/2014022700516.html

公式には反論していませんが、もちろん、ロシア側は「妥当な判定」としています。

タラソワ「私ならもっと低い点付けた」ヨナのスピンを酷評=韓国報道http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140225-00000161-scn-kr

タチアナ・タラソワはロシアの女子フィギアスケートの重鎮だそうですが、日本では真央ちゃんの元コーチとして知られています。ソチ五輪の真央ちゃんフリーでは、地元TV局で涙の解説をして話題になりました。タラソワさんの「一推し」は誰よりも真央ちゃんなんですね。

ま、正直、ソトニコワかキム・ヨナかはどちらでもよいというか、どうでもいい気がします。その背景も含めてどちらが強かったか、というに過ぎないように思えます。そして、涼しい顔で「過ぎない」といえるのは、ソチ五輪で「最高」の女子フィギアスケーターは、浅田真央さんであることが証明されたからです。「最高」こそ「無敵」、そこには敵も味方もいないことを示したからです。

浅田真央がソチ五輪のフリーで跳んだ「8トリプル」とは
http://thepage.jp/detail/20140221-00000002-wordleaf

大人になりましたね。素敵な笑顔でした。森元首相の「肝心なところでいつも転ぶ」発言への質問についても、さわやかに、ユーモアをまじえ、しかし、きちんと「お返し」しています。あまロスからようやく回復したのに、今度はマオロスになりそうです。

外国人記者クラブ 記者会見


籾井NHK会長、視ましたか? 記者会見とはこういう風に受け答え、個人的見解とはこういう風に述べるものなんです。もちろん、記者会見の場数でいえば、浅田真央さんは籾井会長よりはるかにプロですから当然のことに思えますが、コックがオムレツのフライパンを振るのとは違って、これは場数を踏めばよいというものではありません。他者とのコミュニケーションに必要なのは、自他ともに敬意を払う姿勢がスキル以上に必要だからです。

(敬称略)
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そりゃあもう大騒ぎさ

2014-02-25 11:16:00 | スポーツ
キム・ヨナ銀メダルをめぐって、韓国国民の大騒ぎが続いています。

国際スケート連盟(ISU)に調査を要求するインターネット嘆願書に200万人以上が署名しただけでなく、プーチン大統領のフェイスブックにも批判が殺到して、「暗殺予告」まで出るほどに炎上。金メダルのソトニコワのフェイスブックには、嫌がらせコラージュが次々に貼り付けられています。

韓国だけでなく、欧米のメデイアからも、「ホームタウンディシジョンではないか?」という疑惑の声が相次ぎ、たまりかねたロシアオリンピック委員会は、その公式サイトでキム・ヨナとソトニコワの採点内容を公開し、画像入りで説明しています。


ソトニコワとキム・ヨナの軸のブレ違い



助走距離とジャンプの高さの違い

ロシア語は読めず(なぜか、Google翻訳が応答しない)、採点の内容もわかりませんが、分解写真をみると、「一目瞭然」に見えます。ただし、「一目瞭然」にわかりやすいものほど注意しなければならないわけで、その点、国民の過熱に水を差す、次の朝鮮日報の記事がよくまとまっています。

ソチ五輪:プーチン氏FB、韓国人の書き込みで炎上
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/02/22/2014022201213.html

キム・ヨナは判定へ不満など示さず、終始立派な態度だったのに、どこが劣っていたかと画像まで出されて気の毒です。こんな国内の「応援」とせめぎ合い、勝ち続けてきた彼女の精神力の強さにはあらためて敬服です。

かつてのフィギア王国から新星が飛躍し、東アジアから出て君臨した女王が退き、その長年のライバルが最後の最後に意地を見せた。2014ソチ五輪の女子フィギアの激闘は、なまじの映画や小説を凌駕する、数々の伝説とエピソードに彩られた、圧巻の叙事詩の終幕のようでした。前記のような後日談まであるし。

ついでに、下のような声もあるので、わが真央ちゃん(また、ちゃん呼ばわりに戻ってしまった)の採点内容と同様な分解写真も公開してほしいものです。いや、採点に不満があるのではなくて、3人比べてみたいだけです。少しはフィギア通になりたいですよね。羽生君もいるし。

<ソチ五輪>「浅田真央の得点がソトニコワより7点も低いのはなぜ!?」にコメント殺到―中国版ツイッター
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=83797&type=

(敬称略)
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