コタツ評論

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ウォンテッド

2009-03-04 03:11:00 | レンタルDVD映画


快作! 最近のハリウッド映画にしては意外な上出来。

http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD12870/

と満足して最後のクレジットを眺めていたら(不満足の場合は、観たことを早く忘れようとクレジットが流れ出したとたん、スイッチを切りますからね)、監督の名前の最後にVが付いたので、またどこか外国から監督を輸入したようです(ハリウッド映画の有名監督には、生え抜きだけでなく、ヨーロッパなどからの輸入監督がたくさんいます。昔から、ハリウッドは Made in America より Made by Americaでした)。

主演はジェームズ・マカヴォイ君ですが、アンジェリーナ・ジョリーの映画です。平凡なダメ青年から、凄腕の殺し屋に変身していくマカヴォイ君を、姉のように母のように恋人のように、最後はそのすべてのように見守って去る女の情感を、その潤む瞳と口角を印象的に駆使して、この殺伐とした「弾丸映画」に色彩を添えました。アンジェリーナ・ジョリーを眺めながら、市川崑の名作『おとうと』という映画を思い出しました。姉を岸恵子、弟を川口浩が演りました。アンジェリーナ・ジョリーも岸恵子もともに淫蕩な唇の持ち主です。もっとも、アンジェリーナ・ジョリーのそれは整形くさいが。

冴えない青年が超人に進化していき、魔女がときどき平凡な女の顔を見せるという、2つの変身が重なり合って進んでいく物語です。なぜ、魔女は冴えない青年に心を寄せてしまうのでしょうか。たぶん、その父親に実らぬ恋をしていたからですね。惚れた弱みなんですね。どれほど強く賢い女でも、恋に殉じる気持ちは止められない。般若から菩薩のような笑顔になるアンジェリーナ・ジョリーの可愛いこと。

このティムール・ベクマンベトフというロシアの監督は、アクションとCGで疾走するのが大好きなようですが、脇に控えたモーガン・フリーマンとテレンス・スタンプが文鎮として、ドラマの起承転結を押さえました、という感じです。「演説俳優」モーガン・フリーマンの朗々たる声の響きを聴いているだけで気持ちがよいです。

(敬称略)