Billie Holiday - I Can't Get Started (1938)
I Can't Get Started
言い出しかねて
I've been around the world in a plane
Settled revolutions in Spain
The North Pole I have charted
But can't get started with you
飛行機で世界一周もした
スペイン戦争も調停した
北極点も踏破した
でも 君には一歩近づけない
And at the golf course I'm under par
Metro-Goldwyn wants me to star
I've got a house and a show place
But can't get no place with you
ゴルフの腕前はアンダー・パー
MGMからは映画の出演依頼が舞い込み
自宅は観光名所みたいに人だかり
でも 君の傍らに僕の居場所はない
You're so supreme
Lyrics I write of you
Dream, dream day and night of you
Scheme, just for the sight of you
Baby but what good does it do
最高の君について詩を書いたり
昼も夜も君のことを夢見て
一目でも会いたいと苦労している
でも それが一体なんになるだろう?
I've been consulted by Franklin D.
Robert Taylor has had me to tea
But now I'm brokenhearted
Can't get started with you
ルーズベルト大統領に忠告し
ロバート・テーラーとお茶する
そんな僕なのに心は辛いんだ
君にはもう一歩近づけないから
When first we met how you elated me
Pet, you devastated me
Yet, now you've deflated me
'Till, you're my Waterloo
When J.P. Morgan bows I just nod
Green Pastures wanted me to play God
The Siamese Twins I've parted
Can't get started with you
以下がこの続きらしいですが、英文が見つかりません。
世界恐慌でも株を売り抜けたし
イギリス王室に招待されたこともある
君くらいだ僕を落ち込ませるのは
君にはもう一歩近づけないのだから
「言い出しかねて」というタイトルの有名な曲です。とくにビリー・ホリディの歌声にレスター・ヤングのテナーサックスが寄り添う、このカウント・ベイシー楽団の演奏が絶品といわれています。いくつかの訳詩を参考に意訳してみました。
「飛行機で世界一周もした」というのは、1900年代初頭の設定ですから、プロペラ飛行機を自分で操縦して世界一周をした冒険家だよ僕は、という意味です。つまり、何でもできるというホラ吹き男が懸命に口説いている歌なので、「言い出しかねて」ではなく、「君とはなぜか恋をはじめられない」「君にはもう一歩近づけない」「どうしてか君だけは口説けない」という訳が近いでしょう。
ところが、ビリー・ホリディが歌うと、もっと二重三重の意味を含んで聴こえてきます。ホラ吹き男の自慢話を聞き流している女。しかし、本当にそうだったらいいわね、あなた、と頷いてもいる。そして、自慢話の主人公が男ではなく、自分だったらと夢見てもいる。「ロバート・テーラー(スター俳優)とお茶する」がそうですね。ロマンチックな二人の夢に浸っている。
でも、貴方も私もそんな身分じゃないし、貴方がなぜそんなわけのわからない話で私を煙にまこうとしているか、私はわかっているのよ。貴方は私に嘘をついているし、浮気もしている。貴方はそのことで私に怯えているし、私もあなたのわけのわからない話が尽きて、沈黙が訪れるときが怖い。
「くだらない話は止めて!」「どこへいっていたの?」「どうしてなの?」という言葉を「言い出しかねて」、女は微笑んでいます。「言い出しかねて」いるのは、いっときでも夢見させてくれる男をまだ愛しているし、その夢を含めて二人の関係なんだとわかっている。そんなわかっている自分に躊躇している。
男の夢の話は、楽しく華やかであるほど、不安な気持ちを伝えてきます。それは女にとって男の不実を知る不安でもありますが、とっくに女にもわかっていることです。「言い出しかねて」いるのは、唇を開けば、私は貴方をもう愛していないし、愛せないという言葉に行き着くのではないか。その不安と哀しみに、「言い出しかねて」いる。やっぱり、誤訳だろうと、この曲名以外にありませんね。
(敬称略)
I Can't Get Started
言い出しかねて
I've been around the world in a plane
Settled revolutions in Spain
The North Pole I have charted
But can't get started with you
飛行機で世界一周もした
スペイン戦争も調停した
北極点も踏破した
でも 君には一歩近づけない
And at the golf course I'm under par
Metro-Goldwyn wants me to star
I've got a house and a show place
But can't get no place with you
ゴルフの腕前はアンダー・パー
MGMからは映画の出演依頼が舞い込み
自宅は観光名所みたいに人だかり
でも 君の傍らに僕の居場所はない
You're so supreme
Lyrics I write of you
Dream, dream day and night of you
Scheme, just for the sight of you
Baby but what good does it do
最高の君について詩を書いたり
昼も夜も君のことを夢見て
一目でも会いたいと苦労している
でも それが一体なんになるだろう?
I've been consulted by Franklin D.
Robert Taylor has had me to tea
But now I'm brokenhearted
Can't get started with you
ルーズベルト大統領に忠告し
ロバート・テーラーとお茶する
そんな僕なのに心は辛いんだ
君にはもう一歩近づけないから
When first we met how you elated me
Pet, you devastated me
Yet, now you've deflated me
'Till, you're my Waterloo
When J.P. Morgan bows I just nod
Green Pastures wanted me to play God
The Siamese Twins I've parted
Can't get started with you
以下がこの続きらしいですが、英文が見つかりません。
世界恐慌でも株を売り抜けたし
イギリス王室に招待されたこともある
君くらいだ僕を落ち込ませるのは
君にはもう一歩近づけないのだから
「言い出しかねて」というタイトルの有名な曲です。とくにビリー・ホリディの歌声にレスター・ヤングのテナーサックスが寄り添う、このカウント・ベイシー楽団の演奏が絶品といわれています。いくつかの訳詩を参考に意訳してみました。
「飛行機で世界一周もした」というのは、1900年代初頭の設定ですから、プロペラ飛行機を自分で操縦して世界一周をした冒険家だよ僕は、という意味です。つまり、何でもできるというホラ吹き男が懸命に口説いている歌なので、「言い出しかねて」ではなく、「君とはなぜか恋をはじめられない」「君にはもう一歩近づけない」「どうしてか君だけは口説けない」という訳が近いでしょう。
ところが、ビリー・ホリディが歌うと、もっと二重三重の意味を含んで聴こえてきます。ホラ吹き男の自慢話を聞き流している女。しかし、本当にそうだったらいいわね、あなた、と頷いてもいる。そして、自慢話の主人公が男ではなく、自分だったらと夢見てもいる。「ロバート・テーラー(スター俳優)とお茶する」がそうですね。ロマンチックな二人の夢に浸っている。
でも、貴方も私もそんな身分じゃないし、貴方がなぜそんなわけのわからない話で私を煙にまこうとしているか、私はわかっているのよ。貴方は私に嘘をついているし、浮気もしている。貴方はそのことで私に怯えているし、私もあなたのわけのわからない話が尽きて、沈黙が訪れるときが怖い。
「くだらない話は止めて!」「どこへいっていたの?」「どうしてなの?」という言葉を「言い出しかねて」、女は微笑んでいます。「言い出しかねて」いるのは、いっときでも夢見させてくれる男をまだ愛しているし、その夢を含めて二人の関係なんだとわかっている。そんなわかっている自分に躊躇している。
男の夢の話は、楽しく華やかであるほど、不安な気持ちを伝えてきます。それは女にとって男の不実を知る不安でもありますが、とっくに女にもわかっていることです。「言い出しかねて」いるのは、唇を開けば、私は貴方をもう愛していないし、愛せないという言葉に行き着くのではないか。その不安と哀しみに、「言い出しかねて」いる。やっぱり、誤訳だろうと、この曲名以外にありませんね。
(敬称略)