コタツ評論

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13歳と18歳

2015-03-04 23:03:00 | ノンジャンル
そうではないかもしれない。

浦島太郎の子は、人懐っこい少年でした。暴力を振るわれていることを聞きつけた友人たちが18歳少年の自宅へ抗議に押しかけるほど、年少ながら他人をして我が事のように心配させる人望がありました。

一方、自宅にひきこもっていた18歳少年は、迷惑被害を受けているという家族の通報でかけつけた警官に、威迫強要の「被害者」として事情を説明する羽目になりました。警官は18歳少年から借りた携帯電話で浦島太郎の子に電話をして、友人たちが口にしたような暴力被害を受けているのか確認しました。

なぜ、被疑者の携帯電話から被害者に連絡したのか、警察の配慮のなさが批判されていますが、それはさておき、まず注目すべきは18歳少年からの電話に浦島太郎の子が出たことです。暴力にただひるみ怯えていたのではなかったこのでした。そして、二人は電話でしばらく話し、警察官の被害確認の質問に対して、「18歳の少年とは仲良くなったから大丈夫」と答えて、浦島太郎の子その場を収めたのです。

18歳少年はどう思ったでしょうか? 支配しているはずの中学一年生の同級生たちに、家に押しかけられ家族に知られて、警察まで来る騒ぎです。その立つ瀬のない窮地を救ったのは、ほかならぬ浦島太郎の子がとりなした一言でした。はるか年下の13歳に情けをかけられ助けられたわけです。グループのリーダーという優位は跡形もなく消え、劣敗感にまみれたのでした。

浦島太郎の子は、衣類を身につけない裸で発見されました。18歳少年が「川に入れ」と命じたことに従って脱いだからでした。暴行脅迫されてとても逆らえなかったからでしょうか。そうではなく、ある意味では、自ら決意して川に入ったのかもしれません。18歳少年が望んだから川に入ったのですが、浦島太郎の子はその望みを誤解していました。そのとき、亀は川にはいませんでした。

18歳少年は、浦島太郎の子が溺れ死んでくれることを願っていました。冗談で命じたら溺れ死んでしまった、あるいは自殺したのかもしれない、といえるからです。その方が好都合というだけでなく、逡巡があったのでした。「死ね!」と強く念じていましたが、自ら手を下して殺すには、浦島太郎の子に圧倒されていたからです。しかし、浦島太郎の子は川に入り、川から上がってきて、寒さに震えながら眼前に立ちました。

浦島太郎の子は、どう思っていたのでしょうか? 18歳少年の子分になりたかった、グループの上下関係に居場所を見つけたかった。そうではありませんでした。ただ、いっしょに仲良く遊びたかったのです。生まれ育った島では年上年下の関係なく一緒に遊びます。都会の「先輩」や「後輩」という支配関係や遊びが万引きであることを知り、18歳少年とそのグループから離れることを思い決めていました。

殺される直前、同級生に、「翌日から登校する」と「LINE」でメッセージを送っています。その一方で、18歳少年の子分の17歳少年に、自分から「遊びませんか」と「LINE」して、18歳少年と合流しています。とても矛盾した行動です。「これが最後」とひどい暴力を振るわれることを覚悟の上、浦島太郎の子は18歳少年と別れるために会うつもりでした。

「川に入れ」と命じられたとき、当然、「死ぬかもしれない」と怖ろしい思いがしました。しかし、そこまでしなければグループを抜けることは許されない。と同時に、川に入れば許されるとも考えたのでした。18歳少年から、許されたいと浦島太郎の子は思ったのでした。年上でしたが、一時は「友だち」だったのですから。

逃げたり、拒んだりすれば、暴力を振るわれるでしょうが、それより川で溺れるほうがずっと怖かったはずです。島育ちで泳ぎは得意でしたが、海と川では勝手が違うし、水は凍るように冷たいはずです。でも、それで18歳少年の気が済むなら、仲間への面子が保てるなら、川に入るしかないと浦島太郎の子は思いました。そして、川から出たときに、これですんだと思ったのでした。

18歳少年は、「中学生に舐められて」と貧弱な語彙しか思い浮かばなかったが、ひどく追いつめられた気がしていました。いま眼前で、濡れて震えている貧弱な裸体を見て、いったいこいつの何をひどく気にしていたのだろうと不思議な気持ちがしました。自尊心の厚い甲羅がもどってきて、冷たい血がさらに冷えたのに、亀はひさしぶりに満足を覚えました。

18歳少年は家族がつけた弁護士を同道して警察に出頭しました。浦島太郎の子の通夜には、同じ中学に通う生徒ら500人が参列しました。

(以上は、事件を報道した新聞記事を素材に、推測によって再構成した創作です。為念)
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