コタツ評論

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かつて藤圭子と藤純子の時代があった

2017-05-03 03:32:00 | 音楽
この人には一度会いに行ったことがある。彼女がプロデュースするコンサートのリハーサル中だった。

夫である宇多田照實氏の袖に隠れて上目遣いにこちらをうかがっている様子で、引っ込み思案の少女のようだった。あまり話は聞けなかった。

宇多田氏がさかんにスタッフやバンドマンに指示したりしていたが、私と同様に、あきらかに「藤圭子の旦那」扱いで、いささか空回りしているようにみえた。

そのせいかどうか、彼女は宇多田氏から片ときも離れず、彼が何か言えば真っ先にうなづき、彼にだけ笑いかけていた。その気遣いもまたあきらかであったが、宇多田氏はほとんどそれを無視する様子なので、なんとなくぎくしゃくした空気が漂っていた。

つまり、彼女はあまり幸福そうにはみえなかった。だからどうだというわけじゃない。スターと呼ばれる人は概してそうなのかもしれない。ただ、彼女はスターにもみえなかった。

どこにでもいる小柄で痩せっぽちの野暮ったい服を着た人だった。女性的な魅力に乏しかっただけでなく、人を魅了する才能の輝きやオーラのようなものはまるで感じなかった。

藤圭子♥追悼:みだれ髪


これを聴いていささか驚いたので、藤圭子のCOVERを中心に検索してみた。

美空ひばりの影響をまったく感じさせない。ほかのCOVER曲もオリジナルをほとんど忘れてしまう歌唱になっている。これは不思議なことではないだろうか。

声質が特異なせいもあるだろうが、似たハスキーボイスである青江三奈の「恍惚のブルース」を歌っても、少しも似ていないし、聴き比べる気にもならない。

歩き瞽女だった母の手を引いて、客前で一緒に歌っていた子ども時代に培った、歌に対する読解力の賜物なのかもしれない。

つまり、感性のままに歌い上げる歌手ではなく、きわめて知性的な歌手だったように思う。同じタイプの前川清と結婚したのも、惚れた腫れたよりそんなところに意気投合したのかもしれない。まことに惜しい歌手を失ったものだ。

藤圭子♥岸壁の母


聞いて下さい私の人生(動画)★藤 圭子


藤圭子♥川は流れる


藤圭子♥君こそわが命


藤圭子♥出世街道


藤圭子♥涙のかわくまで


(敬称略)