「スーパーやコンビニなどに投票所を設けることを柱とする、国民投票法改正案の採決が連休明けに予定されています」
憲法記念日の5月3日、朝7時のNHKニュースで女性アナウンサーがいいました。スーパーやコンビニの店頭で簡単に投票できる、そんな利便性が改正案の「柱」だそうです。アナウンサーのコメントの元記事はこちらです。逐一、検討してみましょう。
憲法施行74年 国民投票法改正案 連休明けに採決行われるか焦点
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210503/k10013010461000.html
>憲法記念日の3日、日本国憲法は、施行から74年を迎えました。国会では、憲法改正の国民投票で商業施設に投票所を設けることなどを柱とした国民投票法改正案の採決が大型連休明けに行われるかどうかが焦点となっています。
2行目の「商業施設」がスーパーやコンビニですね。連休明けに採決が行われるか、行われないかが焦点だそうです。しかし、すぐ後を読むと、自公維に加え野党第一党の立民まで採決に参加するとあります。自公維に立民の議席数を合わせると衆院の91%になるので、採決は行われるに決まっています。焦点になどなりません。
>衆議院の憲法審査会では、3年前の6月に自民・公明両党と日本維新の会などが提出した国民投票法の改正案の審議が行われています。
>改正案は、憲法改正の是非を問う国民投票で商業施設に「共通投票所」を設けることなどが柱で、取り扱いをめぐって、自民党と立憲民主党は、去年12月に今の国会で「何らかの結論」を得ることで合意しています。
今回の改正案はすでに3年前に提出されている古証文の棚卸であることがわかります。3年前も「改正案の柱」は「スーパーやコンビニの店頭で簡単に投票できるようにする」で、内容は変っていないようです。そして、昨年12月にすでに自民党と立憲民主党は国会採決に合意しているようです。
>自民党は、会期末を来月中旬に控え、今の国会で改正案を成立させるために、大型連休明け6日に採決したいとしています。
>立憲民主党は、先週、国民投票の広告規制などについて「施行後3年をめどに法制上の措置を講じる」ことが改正案の付則に盛り込まれれば採決に応じる方針を決めました。
改正案の手直しではなく、「広告規制」について施行後3年のうちに法制上の措置を講じるという文言を改正案の付則に加えてくれと立民は求めています。採決され、可決されることが前提になっているわけです。
>このため、与野党の調整が行われる見通しで、連休明けに採決が行われるかどうかが焦点となっています。
またも、まったく焦点ではないのに、焦点と書いています。
繰り返しますが、連休明け6日の採決に立民が加われば、自公維立で衆院議席の91%、参院議席の80%が賛成して可決となります。たとえ立民が反対に回ったとしても、自公維だけで衆院68%、参院60%を占めていてじゅうぶん可決できます。「その他」にも改憲派が少なくありません。立民は影響力も及ぼせるだけの投票数を持っていないのです。
衆議院定数 465
自由民主党 278
立憲民主党 110
公明党 29
日本共産党 12
日本維新の会 10
その他 27
参議院定数 245
自由民主党 110
立憲民主党 42
公明党 28
日本維新の会 16
日本共産党 13
その他 34
>一方、参議院の憲法審査会でも先月、およそ3年2か月ぶりに自由討議が行われました。
>国会での憲法論議は、改憲を掲げた安倍政権から菅政権にかわって以降、活発になりつつありますが、
「一方」が曲者です。するっとつけ足りのように憲法改正に話が変わっています。一方や他方は「別もの」に話題転換する言い回しです。憲法改正以外に国民投票が行われることはなく、国民投票法と国民投票、憲法改正はひとまとまりのセットなのです。
また、「3年2か月ぶり」に討議されたのに、どこが「菅政権にかわって以降、活発になりつつあります」なのでしょうか。
>秋までに行われる衆議院選挙に向けた各党の思惑も絡んで、今後どこまで深まるかは不透明な情勢です。
俳句なら季語が何であっても「根岸の里の侘び住まい」で、川柳なら出だしは何であれ「それにつけても金のほしさよ」とつければ何となく収まるように、「思惑が絡んで不透明」は便利な結語です。いつでもどこでも、選挙に向けた各党の思惑は絡み、先行きは不透明に決まっているのですから、無意味といえます。
ただし、今回は「意味深」と受けとって、「うがって読む」こともできます。
コロナ感染が収束するか、ワクチン接種が急速に国民に普及しない限り、このままではオリンピック開催はきわめて難しいのは、誰しも思うところでしょう。
オリンピックが中止、もしくは延期となった場合、「コロナ敗戦」の目に見える結果の一つとして、菅内閣が責任を問われるのは必至ですから、内閣総辞職や首相交代も当然あり得ます。
巨額のオリンピック準備費用が無駄になるわけですから、自民党政権にとって大打撃となり、今秋の衆院選挙には勝てないかもしれないという危機感が高まるのは無理もありません。
そこで、東京五輪に代わる政権にアドバンテージがあるイベントとして、憲法改正の国民投票が浮上してきたと自民党が考えて不思議はありません。
国民投票法改正案の採決をテコに、憲法改正のスケジュールを既成事実化し、「コロナに打ち克った証」をオリンピックから憲法改正にスライドして、セットにするわけです。
憲法改正の「柱」はいうまでもなく、コロナ下の「緊急事態」であり、尖閣・台湾をめぐる中国との「緊急事態」です。その「緊急事態」の「柱」は、「私権の制限」です。
繰り返しますが、自公維の「与党連立」だけでもじゅうぶん国会の2/3を越えて憲法改正を国民に発議できます。これに立民が加わるか、あるいは立民のなかの国民民主党からの移籍組の過半を占める改憲派が加わるだけでも、実質的に大政翼賛です。国民投票が影響されないわけがありません。
すでに、「国民感情」としては改憲に抵抗感などなく、護憲と拮抗どころか、むしろ改憲支持が上回っているようです。
コロナ対応へ改憲「必要」57% 共同通信世論調査
https://news.yahoo.co.jp/articles/7ec1d495b848a971128aff7c5fc0dedf1a2c92ee
憲法改正 「賛成」48%、「反対」31% 毎日新聞世論調査
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6392300
憲法改正を発議する国会で圧倒的多数を占め、改正の可否を下す国民感情が改憲に傾いている。政府自民党にとっては、二度とはない絶好の機会といえます。
しかし、やはり、NHKのいうとおり、憲法改正にとっては、「秋までに行われる衆議院選挙に向けた各党の思惑も絡んで、今後どこまで深まるかは不透明な情勢」が続くはずです。
憲法改正は、オリンピックがそうであったように、あくまでも自民党の政権維持のために、求心力を高める道具に過ぎないからです。
自民党は改憲の正統性を訴えるとき、「自主憲法制定は結党以来の綱領」といいますが、憲法施行74年、一度も本気で改憲に取り組んだことはなく、むしろ避けるように解釈改憲を繰り返してきたのが、ほかならぬ自民党なのです。
本気で改憲に取り組まないのは、なぜでしょうか。国民投票どころか、その前の国会による改正発議以前に、高いハードルがあるからです。国際社会という名のアメリカの承諾が必要です。
憲法改正を秋の衆院選挙の追い風にしようとする政府自民党、その追い風に乗ろうとするが、逆風になればそれにも乗ろうとする立憲民主党、いずれも憲法改正にも反対にも本気ではなく、選挙しか眼中にないという点では同列といえます。
換言すれば、日本と日本人の「緊急事態」に本気で取り組む気はなく、自らの選挙以外についてはタカをくくっているのです。NHK記事の結語中、憲法改正の「(論議)深まる」はまったくの空言空語なのです。
内容に即して、冒頭のNHK記事の見出しは差し替える必要があります。以下の3案を考えてみました。
改題A 憲法改正のための国民投票法改正案 連休明けに採決行われる予定
改題B オリンピック中止にともない憲法改正が焦点へ
改題C 安倍元首相再々登板か オリンピック開催と憲法改正をめざす
(止め)
憲法記念日の5月3日、朝7時のNHKニュースで女性アナウンサーがいいました。スーパーやコンビニの店頭で簡単に投票できる、そんな利便性が改正案の「柱」だそうです。アナウンサーのコメントの元記事はこちらです。逐一、検討してみましょう。
憲法施行74年 国民投票法改正案 連休明けに採決行われるか焦点
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210503/k10013010461000.html
>憲法記念日の3日、日本国憲法は、施行から74年を迎えました。国会では、憲法改正の国民投票で商業施設に投票所を設けることなどを柱とした国民投票法改正案の採決が大型連休明けに行われるかどうかが焦点となっています。
2行目の「商業施設」がスーパーやコンビニですね。連休明けに採決が行われるか、行われないかが焦点だそうです。しかし、すぐ後を読むと、自公維に加え野党第一党の立民まで採決に参加するとあります。自公維に立民の議席数を合わせると衆院の91%になるので、採決は行われるに決まっています。焦点になどなりません。
>衆議院の憲法審査会では、3年前の6月に自民・公明両党と日本維新の会などが提出した国民投票法の改正案の審議が行われています。
>改正案は、憲法改正の是非を問う国民投票で商業施設に「共通投票所」を設けることなどが柱で、取り扱いをめぐって、自民党と立憲民主党は、去年12月に今の国会で「何らかの結論」を得ることで合意しています。
今回の改正案はすでに3年前に提出されている古証文の棚卸であることがわかります。3年前も「改正案の柱」は「スーパーやコンビニの店頭で簡単に投票できるようにする」で、内容は変っていないようです。そして、昨年12月にすでに自民党と立憲民主党は国会採決に合意しているようです。
>自民党は、会期末を来月中旬に控え、今の国会で改正案を成立させるために、大型連休明け6日に採決したいとしています。
>立憲民主党は、先週、国民投票の広告規制などについて「施行後3年をめどに法制上の措置を講じる」ことが改正案の付則に盛り込まれれば採決に応じる方針を決めました。
改正案の手直しではなく、「広告規制」について施行後3年のうちに法制上の措置を講じるという文言を改正案の付則に加えてくれと立民は求めています。採決され、可決されることが前提になっているわけです。
>このため、与野党の調整が行われる見通しで、連休明けに採決が行われるかどうかが焦点となっています。
またも、まったく焦点ではないのに、焦点と書いています。
繰り返しますが、連休明け6日の採決に立民が加われば、自公維立で衆院議席の91%、参院議席の80%が賛成して可決となります。たとえ立民が反対に回ったとしても、自公維だけで衆院68%、参院60%を占めていてじゅうぶん可決できます。「その他」にも改憲派が少なくありません。立民は影響力も及ぼせるだけの投票数を持っていないのです。
衆議院定数 465
自由民主党 278
立憲民主党 110
公明党 29
日本共産党 12
日本維新の会 10
その他 27
参議院定数 245
自由民主党 110
立憲民主党 42
公明党 28
日本維新の会 16
日本共産党 13
その他 34
>一方、参議院の憲法審査会でも先月、およそ3年2か月ぶりに自由討議が行われました。
>国会での憲法論議は、改憲を掲げた安倍政権から菅政権にかわって以降、活発になりつつありますが、
「一方」が曲者です。するっとつけ足りのように憲法改正に話が変わっています。一方や他方は「別もの」に話題転換する言い回しです。憲法改正以外に国民投票が行われることはなく、国民投票法と国民投票、憲法改正はひとまとまりのセットなのです。
また、「3年2か月ぶり」に討議されたのに、どこが「菅政権にかわって以降、活発になりつつあります」なのでしょうか。
>秋までに行われる衆議院選挙に向けた各党の思惑も絡んで、今後どこまで深まるかは不透明な情勢です。
俳句なら季語が何であっても「根岸の里の侘び住まい」で、川柳なら出だしは何であれ「それにつけても金のほしさよ」とつければ何となく収まるように、「思惑が絡んで不透明」は便利な結語です。いつでもどこでも、選挙に向けた各党の思惑は絡み、先行きは不透明に決まっているのですから、無意味といえます。
ただし、今回は「意味深」と受けとって、「うがって読む」こともできます。
コロナ感染が収束するか、ワクチン接種が急速に国民に普及しない限り、このままではオリンピック開催はきわめて難しいのは、誰しも思うところでしょう。
オリンピックが中止、もしくは延期となった場合、「コロナ敗戦」の目に見える結果の一つとして、菅内閣が責任を問われるのは必至ですから、内閣総辞職や首相交代も当然あり得ます。
巨額のオリンピック準備費用が無駄になるわけですから、自民党政権にとって大打撃となり、今秋の衆院選挙には勝てないかもしれないという危機感が高まるのは無理もありません。
そこで、東京五輪に代わる政権にアドバンテージがあるイベントとして、憲法改正の国民投票が浮上してきたと自民党が考えて不思議はありません。
国民投票法改正案の採決をテコに、憲法改正のスケジュールを既成事実化し、「コロナに打ち克った証」をオリンピックから憲法改正にスライドして、セットにするわけです。
憲法改正の「柱」はいうまでもなく、コロナ下の「緊急事態」であり、尖閣・台湾をめぐる中国との「緊急事態」です。その「緊急事態」の「柱」は、「私権の制限」です。
繰り返しますが、自公維の「与党連立」だけでもじゅうぶん国会の2/3を越えて憲法改正を国民に発議できます。これに立民が加わるか、あるいは立民のなかの国民民主党からの移籍組の過半を占める改憲派が加わるだけでも、実質的に大政翼賛です。国民投票が影響されないわけがありません。
すでに、「国民感情」としては改憲に抵抗感などなく、護憲と拮抗どころか、むしろ改憲支持が上回っているようです。
コロナ対応へ改憲「必要」57% 共同通信世論調査
https://news.yahoo.co.jp/articles/7ec1d495b848a971128aff7c5fc0dedf1a2c92ee
憲法改正 「賛成」48%、「反対」31% 毎日新聞世論調査
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6392300
憲法改正を発議する国会で圧倒的多数を占め、改正の可否を下す国民感情が改憲に傾いている。政府自民党にとっては、二度とはない絶好の機会といえます。
しかし、やはり、NHKのいうとおり、憲法改正にとっては、「秋までに行われる衆議院選挙に向けた各党の思惑も絡んで、今後どこまで深まるかは不透明な情勢」が続くはずです。
憲法改正は、オリンピックがそうであったように、あくまでも自民党の政権維持のために、求心力を高める道具に過ぎないからです。
自民党は改憲の正統性を訴えるとき、「自主憲法制定は結党以来の綱領」といいますが、憲法施行74年、一度も本気で改憲に取り組んだことはなく、むしろ避けるように解釈改憲を繰り返してきたのが、ほかならぬ自民党なのです。
本気で改憲に取り組まないのは、なぜでしょうか。国民投票どころか、その前の国会による改正発議以前に、高いハードルがあるからです。国際社会という名のアメリカの承諾が必要です。
憲法改正を秋の衆院選挙の追い風にしようとする政府自民党、その追い風に乗ろうとするが、逆風になればそれにも乗ろうとする立憲民主党、いずれも憲法改正にも反対にも本気ではなく、選挙しか眼中にないという点では同列といえます。
換言すれば、日本と日本人の「緊急事態」に本気で取り組む気はなく、自らの選挙以外についてはタカをくくっているのです。NHK記事の結語中、憲法改正の「(論議)深まる」はまったくの空言空語なのです。
内容に即して、冒頭のNHK記事の見出しは差し替える必要があります。以下の3案を考えてみました。
改題A 憲法改正のための国民投票法改正案 連休明けに採決行われる予定
改題B オリンピック中止にともない憲法改正が焦点へ
改題C 安倍元首相再々登板か オリンピック開催と憲法改正をめざす
(止め)