
私は匂いに割と敏感なのです。
なので、ユダヤ人を下水道にかくまった実話を基にしたというこの作品が
上映されていた去年の秋、どうしても映画館に行く勇気が持てなかった。
しかし、無視するのもなんだか気が咎めて…
DVDでようやく観賞。
2011年ドイツ・ポーランド映画、アニエスカ・ホランド監督。
1943年ポーランド。下水道修理人のソハは、空き巣を副業にしながら生きている、
粗野で狡猾な男。
下水道に逃げてきたユダヤ人の集団を見つけた時、
通報するよりも金をむしり取った方が得策と考え、彼らを匿うことに。
しかしドイツ軍の監視は日ごとに厳しくなっていき…
非常にシビアな作品です。
冒頭から、大勢の全裸の女性たちが死に物狂いで逃げてくる。
何の説明もなく、次の瞬間には、彼女たちの銃殺死体のシーンが。
ドイツ軍兵士が、面白半分でユダヤ人の老人を台上に乗せて踊らせたり、
ユダヤ人の長い顎鬚を力いっぱいむしり取ったり、
ユダヤ人の集団を行進させる時、意味もなく四つん這いで歩かせたり、
ドイツ兵士1人が殺されたことへの見せしめとして
罪のないユダヤ人を10人殺してぶら下げたり。
そんな残酷なシーンがあちこちに挿入してあるのです。

そして舞台の殆どを占める、あの下水道。
汚物が流れ、ネズミが這い廻り、悪臭に満ちた下水道。
金儲けのために匿い始めたソハに負けず劣らず、匿われるユダヤ人たちもしたたか。
食料を奪い合ったり、そんな状況においても不倫をしたり、
グループを出し抜いて自分だけ脱出しようとする男もいたり。
ソハも腹を立てて一度は見限ろうとするのですが
いつの間にか情が移ってしまって、放っておけなくなる。
ユダヤ人の金もなくなり、食料の調達がいよいよ難しくなっても。
不倫の末に妊娠した女は、遂に出産の日を迎え…
しかし声をひそめて生活しなければならない地下生活で生まれた赤ん坊の
運命は、あまりに悲しかった。
終盤、大雨で溢れた下水の中から生還したソハの
顔や髪の毛についていた黄色や茶色のものは、あれは大便か。
あの劣悪な環境の中、実に彼らは14カ月潜伏したのだそうです。
戦争が終わって、マンホールから初めて地上に出てきた時の彼らの表情!
地上の光、その喜び!
そして一緒になって抱き合うソハは、殆どもう聖人のようにしか見えない。
しかしエンドロールによると、その数カ月後、
ソ連軍の車両にソハは轢き殺されたのだそうです。
実話故の残酷さか。
地下に潜伏していた少女が近年、回顧録を書き、それを基に映画化されたのだそうです。
匂い(映画だから勿論想像だけ)とその汚さと閉塞感は半端ではありませんが
それを我慢しても観る価値がある作品です。
予告編 http://www.youtube.com/watch?v=e7vYB13HnWI