第二次世界大戦中、ポーランド軍将校らが2万人以上虐殺された「カティンの森事件」を
ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督が映画化。
父君をこの事件で亡くしたというワイダ監督の、80歳を超えての渾身の一作。
大戦中、ポーランドはナチスドイツとソ連とに国を二分される。
本作の主人公アンジェイ大尉はソ連に捕まり、
大学教授である彼の父はドイツに捕まり、それぞれ帰ることはなかった。
将校、教授、医者、技術者、聖職者、そういった人間を根こそぎ捕まえ、処分する。
アンジェイ大尉が収容所で
将校は、戦車や飛行機のように簡単には作れないと語っているように
占領国を蹂躙するためには、こんな効果的な方法はないのでしょう。
その虐殺が明るみに出た後も、ドイツとソ連はそれぞれ互いの罪だとなすり合うのです。
そしてポーランドの悲劇は戦後も続く。
カティンの森虐殺事件がソ連の仕業だと国民の誰もが知っているのに
ソ連の衛星国となった為にそれを言うことができない。
事件の真実を口にしたポーランド市民は逮捕され、投獄されてしまう。
恐ろしいことに、それが近年まで続いていたというのです。
Wikiによれば
”2004年、ロシア検察の捜査は「被疑者死亡」「ロシアの機密に関係する」などの
理由で終結した。さらにロシア連邦最高軍事検察庁は事件の資料公開を打ち切り、
2005年5月11日に「カティンの森事件はジェノサイドではない」という声明を行った。
2008年、ロシアのプーチン首相はポーランドのドナルド・トゥスク首相と会談し、
事件が「スターリンの犯罪」であると言うことで一致した。”
そして
”2010年4月7日、プーチン首相は事件を「正当化できない全体主義による残虐行為」
とソ連の責任を認めた。
ただし、ロシア国民に罪をかぶせるのは間違っていると主張し、謝罪はしなかった。”
ポーランド赤十字社により発掘された遺体(1943年)Wikipediaより
これってごく最近のことじゃないですか…
2万人以上の人間を殺しておいて虐殺でないとすれば、一体何なのだ?
この作品、殆ど音楽もなく、ドキュメンタリー映画のように静かに進行するのです。
アンジェイ大尉の妻、娘、母など、大尉を待ち続ける家族などを中心に。
しかし、最後になって場面は激変する。
カティンの森の奥での虐殺場面。
粛々と、機械的に殺され、巨大な穴に放り込まれる夥しい死体。
見るもおぞましい、あまりに残酷な場面。
アンジェイ・ワイダ監督の激しい怒りが爆発したかのよう。
この映画を作る為に生きてきた、老監督のそんな叫びが聞こえるようです。
「カティンの森」 2007年ポーランド映画