Zooey's Diary

何処に行っても何をしても人生は楽しんだもの勝ち。Zooeyの部屋にようこそ!

「ベルリンは晴れているか」

2023年01月24日 | 


1945年7月、ナチス・ドイツが戦争に敗れ、米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、17歳のドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅出つ。

本文が始まる前に、1945年の敗戦後のドイツの地図が出て来ます。
米ソ英仏4ヵ国の占領地域に色分けされたドイツを目の当たりにして、少々愕然とします。
戦後の荒廃した混乱期に、戦前戦中の少女アウグスステの成長の物語が挟まれる多重構成で、話は進みます。
戦後の地獄のような廃墟、ベルリンを襲う連合国の爆撃機、逃げ惑う市民、虐殺され、”移住”させられる異民族。

共産党員だった両親を殺され、自分を凌辱したソ連兵を銃殺し、息を潜めて生きて来た少女アウグステ、
容貌がユダヤ人そっくりで、ユダヤ人を貶めた笑いで生きて来たアーリア人俳優のカフカ、
ロマとユダヤ人の混血で、断種手術を施された浮浪児ヴァルター、
アーリア人の金持ちの家に生まれながらゲイで、”懲罰矯正キャンプ”に押し込められ、家を出た浮浪児ハンス。
様々な思惑から行動を共にすることになった4人をつけ狙う、ソ連のNKVD(内務人民委員部)大尉のドブリギン。

ユダヤ人の目から書いた戦中戦後のドイツの様子を書いた本は多少読んできましたが、
ドイツ人の目からのそれは初めてでした。
”ドイツ帝国内に存在するものには、なんでもかんでも党の鉤十字がついているーそれは本も例外ではない。どれも帝国文学院に合格した党のお墨付きで、ドイツ民族を讃える内容か、ユダヤ人や共産主義者を批判する話ばかりが本棚に並ぶ。シンデレラと王子は愛ではなく純血同士だから再び会えて幸せになれる、という結末の童話に変更された。例えば、戦争は怖くて悲惨だとか、自由な人生を自分の意思で進盲だとか、国境なく平等に人を愛そうだとか、そういった内容の本はすべて書店や図書館から撤去され、広場で燃やされた”
そんなのは始まりに過ぎなく、アウグステの隣家のダウン症の少女はある日突然連れて行かれ、後日死亡通知が届く。
アウグステの父親も連行されて殺され、母親は連行される直前に、拷問による自白を恐れて青酸カリを飲んで自害する。
戦前のドイツに展開する異民族へのいじめ、強制連行、凌辱、殺戮、近隣住民による密告、騙し合い、奪い合い。
それらは無論、戦禍が激しくなるにしたがって、更に凄惨を極めるのです。

アウグステにかけられた殺人疑惑、そのサスペンスも面白いが、私には詳細に書き込まれた社会背景の方が面白かった。
終章の、カフカがアウグステに送った手紙の一説。
”君はあの(ソ連の)赤軍の「ウラー!」って雄叫びを聞いたことがあるか?あれは凄いぞ、俺は市街戦の直前にあれを聞いたんだが、地鳴りみたいな声でさ。懲罰の話を聞いて、赤軍の奴らがどうしてあんなに死を覚悟してまで敵に突進してくるのか、なんとなく理解できた気がしたよ。逃亡は即処刑、敵を前に降参したら、問答無用で懲罰が待っているんだ”
「赤軍」を今の「ロシア軍」に置き換えても、そのまま通用するのでは?


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ミニの女王、マリー・クワント展 | トップ | 9歳の少年の夢「エンドロール... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿