大阪地検FD改ざん事件 震災報道の裏で検察が繰り広げる"茶番劇"
日本中の関心が震災の被災者と原発事故に集まり、大手メディアの報道もが震災一色になっている裏で、とんでもない茶番劇が繰り広げられている。
それは、厚労省元局長の村木厚子さんが逮捕・起訴された郵便不正事件の捜査の主任検事で、押収証拠のフロッピーディスク(FD)を改ざんしたとして証拠隠滅罪で逮捕・起訴された前田恒彦元検事の裁判だ。
大阪地裁で行われている裁判で、前田元検事は起訴事実を認めたため、裁判は2回の公判で結審。検察側は、懲役2年を求刑した。これは証拠隠滅罪の上限。震災の真っただ中で、多くのメディアはこの部分しか報道せず、検察側が厳しい対応をしているような印象を受けている人も少なくないだろう。
ところが、実際に裁判を傍聴していると、検察側は矛盾に満ちた説明をする前田元検事を追及するわけでもなく、実に予定調和的な、もっと率直に言えば、出来レースとしか思えないような対応をしている。
改ざんしたFDは、公的証明書を偽造して自称障害者団体「凛の会」に渡した厚労省元係長の自宅で押収された。そこに保管されていた証明書のデータの最終更新日時は「2004年6月1日午前1時20分6秒」となっていた。この日時は、元係長本人の記憶とも合致している。
一方、検察の筋書きでは、元係長は6月上旬に村木さんの指示を受けてから作成した、ということになっていた。FDによれば、指示の前に文章は出来上がっていたことになる。にもかかわらず、前田元検事は「この証拠があっても、村木さんの関与を否定するものではない」と強弁する。
本来、このFDは事件に直結する重要な証拠で、裁判所に提出するか検察で保管し、弁護人にも開示しなければならないはずのもの。なのに前田元検事は、このFDを元係長に還付することにした。「このFDの証拠価値は高くないと思った」というのがその理由。
ところが、筋書きと矛盾するFDは「嫌らしい証拠」だとも思って手放したくなった、という。還付した後、元係長が後で更新日時などを見るかもしれない、と心配になり、改ざんを思い立った、と説明している。
大したことがない証拠なら、なぜ改ざんまで心配するのか。その点についての彼の説明は実に分かりにくい。
「村木さんの無罪を決定づける証拠ではないが、読みようによっては公判が紛糾することがありうる」
このような説明を、検察はちっとも追及しせず、被告人質問で全く問い正さない。
そして、自分のパソコンに外付けのFDドライブを接続し、ファイル管理ソフトを利用して、最終更新日時を「2004年6月8日午後9時10分56秒」とした。
これなら検察の筋書きに合う。元係長の弁護人がFDをチェックしても、その筋書きのおかしさには気づかない。かなり巧妙な改ざんだ。
しかし、前田元検事はそういう巧妙さは否定。「改変にあたって調書を読み返したわけでもなく、もうザクッとした改変になっています」という。
そんないかにも不自然な説明を、検察はこれまた放置した。
前田元検事は当初、書き換えは意図的な改ざんではなくミスによるもの、と嘘の弁明をしていたが、それは上司の指示だったと主張。改ざんに至る背景としても、上司が強気一点張りで、慎重な意見を述べると激しく怒る人であり、プレッシャーが大きかった、と述べている。そのために、FDの日付を巡る問題などは上司に報告せず、「(日付の問題が)発覚して上司の叱責を受けるのを避けたかった」というのも改ざんの一因だと説明している。
聞いていると、責任の一端を上司に転嫁しようとしているようにも思えてくる。しかし、この点について検察は目をつぶった。
なぜ、このようなことになるのか。
実は、この事件では検察側と被告人側の利害は一致している。FD改ざんはよくなかったが、それ以外の捜査や公判については、問題はないという前田元検事の主張は、事件をFD改ざんに矮小化して組織として行った行為の正当化を図りたい組織としては大いに助かる。さらに、前田元検事のFD改ざんを隠蔽したとして、上司2人が犯人隠避罪で逮捕されたが、2人とも一貫して否認。すでに起訴したこの2人を有罪に持ち込むためには、前田元検事は最も重要な検察側の証人となる。
そんなこんなで、検察側は前田元検事の主張を限りなく尊重してやる結果になる。
しかも、弁護側が請求した証拠の3分の2は、郵便不正事件の調書類。いずれも村木さんが関与しているという筋書きに沿って作られたものだ。村木さんの裁判で、証拠としての信用性がない、と判断されたものまで含まれている。検察は反対せず、裁判所が職権で拒否することもなく、すんなりと採用されてしまった。
おそらく、平時であれば大きく報道され、厳しい批判を受けることになるだろう。しかし今は詳しい裁判報道がないため、このような茶番劇が平然と行われている。
検察の不祥事を検察が糾弾できるはずもなく、最も解明されるべき、捜査や公判の問題点は放置されたままだ。それを、ほとんどの国民が知る術もない。そのことが本当にやりきれない。
(文=江川紹子)