彼女が珍しいもらいものをもってきたのが「きんかん大福」(しろ平老舗製)。二つも食べられないなぁ
と思っていたが二つも口に運んでしまった。そういえばそうだ、これは山椒の辛みだと気づくのに暫くか
かったが、口の中で僅かに尾を引くように新鮮な印象として残る。甘さ控えた白あんと、金柑の程よい苦
味・酸味が絡み不思議なおいしさだ。もち米は地元でとれた最高級の羽二重(はぶたえ)、金柑はあえて
皮の歯ざわりを残すため少し固めの宮崎県産金柑を使用し、柔らかくなりすぎないように工夫してある。
金柑を始め材料には人工添加物を使っていないと紹介されている。忘れられない甘みの一品。
【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】
1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン
【複雑系と経路依存】
【新しい分析用具-数学的方法を超えて】
複雑系科学が明らかにしたひとつは、学問の守備範囲と内容の深さに関してトレードオフがあるという。
これは、学問研究に知的能力に限界があり、より広い状況を説明する理論は、特別なもとで成立する特殊
な構造を説明できないできない。「一般均衡理論」は、非現実的な仮定導入により、この点で事実関係を
誤魔化しているにすぎない。経済は時間的な経過の中で成立した自己組織系であり、任意与件かのら一挙
に再構築できるものではない。J.シュンペーターはこのような再構築を「ab ovo(初源)構成」と呼ん
だが、生物生態系であれ、人間の経済であれ、先立つ生態系・経済を無視して現在はありえないのである。
L.アルチュセールは、現実は「つねにすでに所与」の構造として存在すると注意をうながしているが、
ミクロ・マクロ・ループの存在と自己組織化に留意するとき、経済はつねにすでに構造化された経済とし
て存在していると考えなければならず、過程分析は白紙の出発点を持ちえない。
それでは、経済過程がもつさまざまな特質を組み込み、経済学の諸問題に有益な示唆を与えるような分析
方法を探してみよう。とくに、定型行動のレパートリーをもち、ミクロ・マクロ・ループの存在に矛盾し
ない分析の枠組み、分析用具はが「エージェント・ベースのモデル分析」がそれであると塩沢由典はいう。
それではどのような根拠に基づくのか?経済学は、これまで主としてふたつの研究方法を用いてきた。ひ
とつは文学的方法であり、もうひとつは数学的方法だ。(1)まず文学的方法は、経済の諸事実を観察し
蓄積するために用いられ、経済史や実証的な調査報告などは、現在でも多くは文学的な方法によっている。
古典経済学の時代の理論研究は、主として文学的方法によってなされ、数値例の検討も基本的には文学的
方法の一部と考えることができる。(2)つぎに、経済を数学的方法により研究する動きは、19世紀はじ
めで、19世紀の最後の四半世紀になると均衡概念や限界効用の概念が導入され、20世紀には数理経済学は
厳密な数学となる。しかし、それは経済に対する総合的判断を欠いた。1970年代前半には、数学化された
経済学の現状に反省の声が上がり、ベトナム戦争終了後、アメリカの大学が保守化するとともに、主流の
経済学は、各種のアノマリーを内包しながら、理論的な不整合には目をつぶり、合理的期待形成、実物景
気循環論(real business cycle theory)、内生的成長理論など根拠の薄い論文が書けるというだけで研
究されるようになる。
複雑系は、複雑な状況における人間をテーマにするとともに、科学研究そのものに対する複雑さの影響に
も関心をもつ。数学そのものに理論的限界はないものの、数学的思考や数学的分析は人間の能力の限界に
規定されている。そのため、一定の定式化と分析はどんどん緻密になるが、解析に適さない主題は無視さ
れるということが起きる。マーシャルやケインズは、この点に気付き、かれらは極端な形式化に走ること
はなかったという。経済学が均衡と最大化・最適化を主題としてきたが、それは経済過程それ自体の特性
を反映するというよりも、こういう枠組みでなければ数学的分析に上らないという事情によることが大き
い。この枠組みがさまざまなアノマリーを内包することが意識されながら、保守的な態度が繰り返された
のは、最適化と均衡という枠組みを放棄すると理論経済学になにも残らないという恐怖があったからにち
がいないと塩沢は推測する。数学化は19世紀の末には前進的研究プログラムだったが、現在ではまったく
別の意義をもつものとなる。このような実情をブレークするには新しい分析用具を導入し、分析可能領域
を拡大する以外にないのだが、そのような可能性をもつものとしてエージェント・ベースのモデル分析が
位置する。もちろん、複雑系としての経済への接近方法は、エージェント・ベースのモデル分析とは限ら
ない。Anderson, Arrow and Pines(1988)やArthur, Durlauf and Lane(1997a)、Schweitzer(2002)、Ross-
er and Rosser(2004)、さらには雑誌ECONOMICS & COMPLEXITYなどの諸論文で採用されている方法も、過程
分析の枠の中で複雑さの観点を忘れないかぎり、それぞれ有用な分析方法となりうるという。
【第三の科学研究法】
経済学が直面している事態は、もっとひろく科学一般が直面している状況と類似し、科学の方法で一番古
いのは理論である。論理による推論は、人間の思考の中では古い階層に属する。これに対し近世では、科
学の方法とし実験が登場する。これが錬金術などと深い関係をもつことはよく知られているが、実験はは
じめのころは、オカルティズムと近いところにあったとされる。これが科学の方法として確立するために
数世紀の時間を要した。近代にいたり、理論もまた革新された。物理理論の発展は、解析幾何学と微分積
分学という新しい数学の開発と密接に絡み合ってた。
ガリレイ以来の近代科学は、理論と実験の2つの方法の上に立つことはよく知られている。とくに現代物
理学では、理論家たちが大胆な仮説を提出し、実験との対比によってそれらをひとつに絞り込むという形
で理論が進んできた。しかし、現在、理論と実験の二つに加えて、新しい科学研究法が浮上してきている。
それが、数値実験ないしコンピュータ実験法だ。この方面で特に進んだのが化学であり、化学では理論的
推測と実物による実験に加えて計算化学による検証があって初めて完全な論文と認められるとまでいわれ
る。コンピュータの記憶領域の拡大と高速化が従来はできなかった多くの計算を可能にした。これらは、
数値実験として、現実には実験できないような状況・設定においてなにが起こるか研究するために、現在
では欠かせない方法となっている。「現実には実験できない」状況・設定はたくさんある。数十年を超え
る長い時間がかかるもの、費用がかかりすぎるもの、調べるべき組み合わせが多数ありすぎるもの、実験
では捉え切れない短期的な変化などだ。
従来、社会科学には実験がないといわれてきた。失敗に終わった計画経済のような人類の運命をかけた実
験がなかったわけではない。実験経済学がカバーできる範囲はそう広くなく、経済で通常の意味での実験
を大きな規模で行うことは難しいとされる。それでも、コンピュータ・シミュレーションが可能な場合が
ある。コンピュータ・モデルは、必要なメカニズムが抜け落ちてても、それ自体としては検証するすべを
もたない。シミュレーションが現実の実験や理論の代わりになることはありえないが、これまで実験や理
論による分析の及ばなかった状況・設定を研究する大きな可能性をもっていて、とくに経済学では主体の
異質性・変数の多さ・変化の複雑さなど、数学的分析に乗りにくく、避けて通らねばならなかった過程や
機構が多い。経済学は数学という分析方法の桎梏を脱ぎすてて、新しい方法・分析用具を開発すべきとき
だと強調する。
従来のコンピュータ・シミュレーションには、経済機構の模擬というにはあまりにも迂遠でしかも単純な
ものが多かった。手続き的なコンピュータ言語では、大規模なシステムを専門家以外の人間が組むことは
困難であり、JAVAのようなオブジェクト志向の言語が開発され、広範に使われるようになり状況は変わり
つつある。コンピュータ・シミュレーションという第3の科学研究方法を、いまや経済学として開発研究
するときが到来したというのだ。その有望なものとして、現時点では、エージェント・ベースのシミュレ
ーションでありモデル分析である。この点でサンタフェ研究所もほぼ同様の見通しをもっていると解説す
る。
【エージェント・ベースのモデル分析】
エージェント・ベースのモデル分析を実際に展開するのは、大規模なプログラム作成が必要となるなど、
経済学をまなぶものには容易ではないが、U-Mart研究会から近く発刊予定の2冊は、経済的な解説からシ
ステム設計までを詳しく解説したものであり、付録のCDを利用することで、人間を含む実験も可能であ
ると紹介する。エージェント・ベースのモデル分析には、他の方法では実現できない多くの長所がある。
それらの中でも重要な特質として以下の利点が挙げられる。
(1)プログラム行動:エージェントの行動は、プログラムで書かれている。モデル分析では、多数のエ
ージェントの相互作用を問題にするから、個々のエージェントの行動様式として、計算負荷のかかる
最大化計算などは通常は組み込まれない。比較的簡単なプログラムで書かれた定型的な行動が採用さ
れている。意識しなくても、おのずと合理性の限界が考慮される。
(2)異質なエージェント:異なる特性もつエージェントの相互作用を数学的方法によって分析すること
は容易ではない。方程式は多次元のものとなり、均衡などの特異点を除いて解析はほとんど不可能で
ある。コンピュータをもちいる分析では、多様なエージェントを組みこむこと、それらの相互作用を
追跡することは難しいことではない。
(3)過程分析:コンピュータを用いて時間経過を追うことは簡単である。プログラムを組む上では、諸
変数の決定関係は明瞭であり、循環的な因果関係は排除される。分岐やそれに基づく構造化も、時間
ステップを追う分析では、特別な困難なく実行できる。
(4)行動の進化:ホランドの遺伝的アルゴリズムは、突然変異と交差の二つの操作により、クラシファ
イヤーを進化させている。行動の基本形は、クラシファイヤーと同型であり、行動の進化をモデル内
に取り込むことは可能である。こういう枠組みの中でなければ、行動と状況とのミクロ・マクロ・ル
ープを観察することはできない。
(5)ストーリー分析:与件に適切な変化をもたせることにより、時系列にストーリーを持たせることが
可能である。
(6)多層的調整:変数の変化するリズムを適切に与えることにより、諸変数の多層的な調整を組込む
ことができる。
(7)制度の比較研究:複数の代替的制度があるとき、同じ条件下でそれぞれの制度がどのような結果を
もたらすか比較できる。
エージェント・ベースのモデル分析は、従来の数学的定式にくらべれば、はるかに自由度があり、行動や
相互作用についても現実的な設定が可能であり、エージェント・ベースのモデル分析は、モデル構築より
も、結果の解釈において困難に遭遇する。それは従来の研究方法にはない種類のものであり、与件として
与えられる自由度は高く、そこから得られる時系列は変化に富んでいる。辛抱強く実験を続けていけば、
いつでも期待するシナリオに近い時系列が得られるといったことにも期待できるという。
このような問題点があるものの、エージェント・ベースのモデル分析は、従来用いられてきた分析枠組み
に比べれば、経済現象を分析・研究するのにはるかに適した研究方法である。コンピュータ実験の結果を
解析する方法が確立されるまでには、まだ長い模索が必要とされよう。しかし、方法に関する理解は、抽
象的な議論により解決できるものではない。具体的な実験プロジェクトを計画・運営する中で成功や失敗
を重ねることと並行して考えていく以外にないであろう。実験が科学の方法として確立されるまで長い時
間が必要であったとおなじく、エージェント・ベースのモデル分析も、それが科学の方法として確立する
にはなお長い時間が必要と考えなければならないと、最後に釘をさし解説する。
【複雑系と計量経済学】
【計量経済学史と現在】
計量経済学(Econometrics)とは、経済学の理論に基づいて経済モデルを作成し、統計学の方法によって
その経済モデルの妥当性に関する実証分析を行う学問であり、近代経済学の発展に大いに貢献してきたと
いわれる。現代ではマクロ経済分析にとどまらず、ミクロ経済学の分野である財政学や労働経済学などに
おいても必要不可欠な分析手法となっている。特に最近ではマイクロデータの整備が進んできたこともあ
って、とりわけパネルデータや離散選択等を利用するミクロ計量経済学が盛んである。また、時系列分析
は、金融工学という学問体系にまで発達を遂げた。ただ単に経済モデルの検定にとどまらず、工学分野へ
の応用によって更に計量経済学を活かすことのできる可能性が広まっている。
1970年以降は、時系列分析・ミクロ計量経済学が流行である。時系列分析で、2003年のノーベル経済学賞
は、単位根、共和分という概念を提唱したロバート・エングルとクライヴ・グレンジャーが受賞した。ミ
クロ計量経済学で、2000年のノーベル経済学賞は、離散選択・Treatment effectの推定方法を提唱したダ
ニエル・マクファデンとジェームズ・ヘックマンが受賞している。実際の実証分析では、小標本理論より
も漸近理論が重視されており、推定量の一致性を確保することが大前提になっている。かつては、一致性
の次には小標本特性や効率性を追求していたが、近年ではそれよりも仮説検定に関する一致性を重視する
傾向に変化してきているが、今後とも、データが増えることで、漸近理論を適用することの正当性が高まるので
はという憶測がこのような流れに拍車をかけているとみられている。
計量経済学史は広くいえば経済学史の領域に入る。しかし、思想史とは異なり、データの収集、コンピュ
ータを使った計量分析という実践的活動、そして統計学の発展が、計量経済学の展開と結びつき、「理論
なき計測」という批判を受け流し、理論とは関係なく研究が進展してきた背景がある。そして経済鼓動の
理解に「事実の収集」の大切さを強調する向きが計量経済学者からなされているが、実際、計量経済学研
究そのものがプラグマティクスであり、どのようなタイプ?のプラグマティズムかを説明することが必要とさ
れるといわれているが、二次元グラフやその形成を見ながら識別問題が考察され、データを見ながら新しい分析が
開発されてきたが、例えば、クロスセクション分析の研究からパネルデータ分析が登場してきている。
例えば、インフレと失業のトレードオフ―失業を減らそうとするとインフレが昂進する傾向がある―を示
すフィリップス・カーブの歴史が注目されてきたが、これ自体は経験的研究だとしても、計量経済学的分
析といえないように、イギリスの経済学者フィリップスが1958年の論文で注目したのが、貨幣賃金率の上
昇と失業の関係であり、アメリカにおいて、サミュエルソンとソローが1960年の共同論文で、インフレと
失業のトレードオフに着目した経緯があり、そこで、「インフレ問題が注目されるようになったアメリカ
で、フィリップスの理論が政治化された」と集約し、学部生向け教科書に載るような政策分析が登場し、
学部レベルを超えた高度な計量経済学分析が進展し始めていたことも注目される。この頃、真空管で動く
最後のモデルと思われるコンピュータ「IBM650」を駆使した計量経済学研究に携わっていた研究者た
ちが、国籍を越え存在していたが、日本でフィリップス・カーブが登場したのは、インフレが政治問題化
した1970年代であった。最近では比較制度分析の視点から経済史を見ることも行われている。ただしこう
した見方については、史実の使い方に問題があるといった批判も出されている。類似の立場でありながら、
より歴史的分析を深めようとする立場に、アブナー・グライフらによって提起された「歴史制度分析」が
ある。
【日本での計量経済学】
日本の計量経済学の特徴は、政府・公的部門によるマクロ計量モデルの構築が非常に熱心に行われ、政策
形成のニーズに対応する形で経済データが収集されてきた。遡ること、1930年9月に東京で開催された国
際統計協会の大会がその先鞭とでもいえるが、ヨーロッパで活躍していた統計学者だけではなく、中国の
統計学者や各国の統計官がこの時来日した。日本の長期経済統計も利用可能であり、その伝統の古くは豊
臣秀吉の太閤検地まで遡り、また、江戸時代の堂島米穀取引所では先物、先渡しが世界で初めて行われ、
現代的計量分析が可能なほどよく組織されていた歴史的背景が関係していた
台湾の計量経済学者・劉大中(Ta-Chung Liu、1914-1975)は1944年のブレトン・ウッズ会議に中国代表
として参加、台湾でマクロ計量モデルを作成するなどして、政府の政策形成に貢献したほか、識別問題に
ついての研究論文を書き、計量経済学を集中講義するために、北京、廈門を訪問する学者が相次いだとい
われている。社会科学分野、歴史分野においても、経験科学としての特徴を前面に出し、政治体制の相違
も国有財産の多寡で示すなどして、数量化できるものは数量化して比較分析することの有用性が認識され
だす。計量経済学や統計学には、現代ファイナンス理論が絡む部分があり、その歴史的研究はこれからも
積極的に継続されていくとみられる。
この項つづく
【INTERMISSION】