いつものようにクルマを走らせていると、妙なところで渋滞している。いつもは渋滞しない時間帯でなの
だが、いぶかしがっていたが理由がわかった。春祭りで御輿のお渡りだ。季節はもう春。これから五月に
かけ各集落や町内で春祭り続く。そういえば、土器(かわらけ)に清酒を注ぎ当たりめを御輿休めの間頂く。
これはすごく美味い。飲み過ぎて足を取られ道を外れそうになることもしばしだ。それほどシンプルな組み
合わせで美味いのだ。ところで、清酒の旨味とは?あたりめとの相性はが良いのはなぜか?そんなことを考
えていると、『清酒のおいしさと酔いに影響を与える成分』(伊豆英恵、バイオサイエンスとインダストリ
ー vol.71 No.2(2013))が目にとまった。清酒醸造では米を原料として麹菌と酵母によって多種多様な物
質が産生され、これらが清酒を特徴付ける香味を形成し、清酒成分とおいしさ、清酒成分と酔いとの関係で
あきらかになったことが紹介されていた。
ここですこし長くなるが引用する。食品のおいしさは口に含んだ時の味覚と嗅覚と触覚等で判断される口の
中で感じるおいしさが重要な一方、体調や良べたあとの体の状態が密接に結び付いた生理的おいしさも大切
だという。例えば、必須アミノ酸欠乏食を摂取させたラットにアミノ酸完全食と欠乏食を提示すると、完全
食を選択する。このような生理的欲求に基づく本能的嗜好は、動物とヒトにある程度、共通で重要な要素で
ある。動物は本能的で生理的嗜好により忠実なため、ラットやマウスで清酒の生理的嗜好の検討を試みる。
エタノールが酒類飲用で酔いの一番の要因だが、エタノール以外の酒類成分が酔いへ影響を与えている。同
じ清酒でも、成分的特徴が異なる純米酒、吟醸酒、普通酒、にごり酒等で飲用後の酪酎状態が異なり、ウイ
スキーやビールの香気成分は抑制性神経受容体GABAA受容体応答を活性化し、緊張を解きほぐしてリラックス
(抗不安)をもたらすと考えられている。また、ウイスキーの熟成過程で増加する成分は、エタノール代謝
抑制と酪酎の増強帽こ関わる。酔いの良い一面として抗不安作用があると。
1.清酒のおいしさと清酒成分
(1)動物を用いた清酒の生理的嗜好の検討
ラットやマウスに2種類の清酒(純米酒)を回時に提示し、摂取量でどちらの対象物を好むかを二瓶選択実験
で調べたっなお、飲酒時の摂食状況は嗜好性や代謝に影響を与えるため、まずは空腹下で検討。二瓶選択実
験の結果、銘柄により摂取量が異なり、純米酒間の嗜好差が観察され、好まれた清酒とそうでない清酒にど
のような違いがあり、動物は何を基準に清酒を選択したかを分析する。アルコール摂取は体に大きな生理的
変化を与えるが、アルコール摂取時、NAD+を補酵素としてアルコール脱水素酵素(ADH)とアルデヒド脱水素
酵素が肝臓でエタノールを酢酸に代謝し、NADHが過剰になる。NADH過剰によってTCA回路が阻害されるととも
に、糖新生の原料であるピルビン酸を乳酸に還元してNADHを消費することで糖新生が阻害されて血糖値が低
下し、このほか、脂肪酸酸化が抑制されて遊離脂肪酸が増加。また、アルコール代謝で生じた酢酸が原料と
なりケトン体が合成される。これらの代謝に関わる指標は生体の代謝が同化あるいは異化状態のどちらに傾
いているかを示す。アルコール摂取によるこれらの血糖値低下、遊離脂肪酸やケトン体上昇はいわば飢餓状
態の特徴であり、動物にとって必ずしも好ましくない生理状態であることを表す。清酒の嗜好差と各清酒摂
取後の体の生理的変化の関係は、それぞれの清酒をマウスの胃内に定量投与してケトン体や遊離脂肪酸濃度、
グルカゴン インシュリン(G/I)比といった糖や脂肪酸代謝に関わる指標について調べたっその結果、清
酒摂取後のこれらの指標の上昇が小さい清酒を動物が好んで飲んだことがわかった(上図左)。このことは、
体の生理的側面が清酒の嗜好へ関与することを示唆し、動物は好ましくない生理状態に傾きにくく、生体恒
常性を保ちやすい清酒を「生理的においしい清酒」として選択的に摂取したと推測する。
そこで、生理的嗜好に影響を与える清酒成分を見いだすため、二瓶選択実験で使用した5点の純米酒を用い
てグルコース、アミノ酸、有機酸、香気成分等の成分量を測定し、生理的嗜好性との相関を調べた。この結
果、アミノ酸18種に正相関が見られ、特に必須アミノ酸6種(イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、
リジン、ヒスチジン、バリン)で強い正相関があり、全体的にアミノ酸の多い清酒で生理的嗜好性が高い傾
向があり、ダルコースにも強い正相関が見られ、調べた香気成分4種のうち、酢酸イソアミルと酢酸エチル
が負相関を示し、香気成分の多い清酒で生理的嗜好性が低いことがわかる。さらに、二瓶選択実験で使用し
た3点の純米酒を用い、キャピラリー電気泳動時間飛行型質量分析によるメタボローム解析を行って、嗜好
性の異なる純米酒間で合量に違いがある成分を検討した。この結果、合計171ピーク(カチオン103、アニオ
ン68)に候補化合物が付与された 各純米酒中のアミノ酸類の含有量を各ピークの相対面積値で比較すると
グルタミン、シトルリン、β-Alaが低嗜好性清酒に多く含まれていた。ほかに払各純米酒中の有機酸および
脂肪酸含有量を比較するとオクタン酸、ピルビン酸、ヘキサン酸、クエン酸などが低嗜好性清酒に多く含ま
れ、全体的に低嗜好性清酒に有機酸や脂肪酸が多く含まれる傾向にあるという。
生理的嗜好性への関与が推測された前述成分を清酒に添加し、マウスニ瓶選択実験で嗜好変化を調べた結果、
グルコース、リジン、ヒスチジンの嗜好性上昇、オクタン酸、グルタミン、ピルビン酸、酢酸イソアミルの
嗜好性低下への関与が明らかになった。今回は空版下での実験であり、低血糖状態によってグルコース要求
量、必須アミノ酸であるリジン、ヒスチジン要求量が特に高まったと予想された。しかし、必須アミノ酸の
うち、なぜリジン、ヒスチジンかは不明である。引き続き、リジン、ヒスチジンについて、これらの単独添
加による嗜好性向上効果の普遍性を確認するため、他の清酒で添加試験を行ったが、影響がない清酒がある
ことがわかった。影響がなかった清酒は、嗜好性低下に関与するグルタミン、ピルビン酸、酢酸イソアミル
を多く含む特徴があり、そのためにリジン、ヒスチジンの効果がなかったのではないかと予想された。この
ように嗜好性を上昇させる成分と低下させる成分の含量のバランスも重要と考えられ、嗜好変化を単一成分
ですべて説明することは非常に難しいという。今回、清酒と生理的嗜好というこれまでに未検討の課題を扱
ったので、始めに用いた生理指標は飲酒後10分の糖や脂肪酸代謝に関わるいくつかに限定。今後、清酒飲用
の生理的嗜好に関係が強い生理指標を選抜し、飲酒後の時間経過との関連を調べれば、改めて強力な成分候
補が選定できるという。
(2)ヒトにおける清酒の生理的嗜好性
れでは、ヒトの清酒選択において生理的嗜好性はどれだけの意味があるのだろうか。前述の実験で用いた純
米酒を用い、ヒトの清酒に対する嗜好を、□の中で感じるおいしさは咽下を伴わないきき酒試験、生理的お
いしさは実際に清酒を摂取する1時間の飲酒試験で評価した。被験者は、清酒の官能評価経験を有し、飲酒
歴が長い清酒経験者群と清酒の飲消耗験が浅い清酒初心者群とした,この結果、経験者と初心者では清酒の
嗜好傾向が明らかに違い、清酒に対する「経験値」は清酒の好に影響する要因の1つと示唆された試験で清酒
経験者群は、きき酒および飲酒試験でほぼ同じ清酒を選択した。経験者群は清酒の味に対する感覚や認識お
よび評価体系が確立されて嗜好が固定されているためと推察され、経験者の飲酒試験は必ずしも生理的嗜好
を反映した結果でないと考えられた。一方、初心者群ではきき酒および飲酒試験で選択した清酒が異なり、
さらに飲酒試験の前半と後半時間帯で選択される清酒が変化していた,すなわち、初心者では□の中で感じ
るおいしさで評価された清酒が必ずしも飲酒時に選択されるわけではないと示され、初心者では固定された
嗜好や清酒に関する知識や情報がなく、自分の基準で好ましいもの、飲酒時のコンディションで欲するものを
そのまま選択した結果だとする。ヒトは大脳皮質前頭連今野が発達しており、学習や経験、記憶といった様
々な情報を含めておいしさを判断する。そのため、生理的嗜好は非常に重要であるが、ヒトの嗜好性に占め
る部分が必ずしも大きくない。しかしながら、興味深いことに初心者群の飲酒実験後半(飲酒開始後30~60
分)で、動物と類似した清酒の嗜好が観察された。経験者群でこの傾向がないため、限定的だがヒトと動物
間で生理的嗜好の側面から見た清酒の嗜好が類似したことは非常に興味深い。
2.清酒の酔いと清酒成分
(1)普通酒の抗不安作用
非常に興味深い非常に興味深いマウスで高架式十字迷路試験を行い、エタノールと普通酒飲用による抗不安
作用を比較した。高架式十字迷路試験は、げっ歯類が高い位置にある開放された場所を嫌う習性を利用し、
不安水準を測定し、抗不安薬等のスクリーニングに用いられ、酔いの評価系としても一般的であるっ高架式
十字迷路は側壁に囲まれたクローズアームと側壁がなく開放されたオープンアームからなり、抗不安作用が
増すとマウスのオープンアームヘの進入回数と滞在時間が増加する。エタノール(15%)を経「1投与(エ
タノール換算1.2 g/kg体重)しか場合、水を投与した対照群より、オープンアーム進入回数と滞在時間が有
意に増加し、エタノール摂取による抗不安作用が想定された。また、普通酒(アルコール度15帽を同条件で
経口投与するとオープンアーム進入回数と滞在時間がエタノール群に比べ、有意でないがより増加し、普通
酒のオープンアーム滞在延長作用がエタノールよりも強い傾向にあり、このことは普通酒に含まれるエタノ
ール以外の成分が抗不安作用上昇に寄与。エタノールがGABAA受容体の応答を強め、抗不安作用をもつている
が、清酒分画物を用いた実験から、エタノールやGABA以外の清酒成分がGABAA受容体の応答を強めることを明
らかし、以上から、清酒が抗不安作用促進成分を含むのとされる。
(2)吟醸酒の抗不安作用
吟醸酒は吟醸香と呼ばれる果実様の芳香を持つ。吟醸香の主成分はリンゴ様のカプロン酸エチル(吟醸酒7.1
mg/l、普通酒0.4 mg/l 程度)とバナナ様の酢酸イソアミル(吟醸酒1.9 mg/l、普通酒1.5 mg/l程度)で
ある。高架式十字迷路試験で吟醸酒は普通酒よりも抗不安作用が有意に強いことがわかった(上図2)。吟
醸酒に含まれる程度のカプロン酸エチル(10 mg/lと酢酸イソアミル(2 mg/lを普通酒に添加して試験した
結果、カプロン酸エチルおよび酢酸イソアミルのいずれもがオープンアーム進入回数を増加させた(上図右)。
この2成分によるGABAA受容体応答完進が報告されており、吟醸香成分がGABAA受容体を介し、抗不安作用を
もたらしたと推測する。
抗不安作用を吟醸酒飲用時、吟醸香による抗不安作用が確認されたが、その効果はどのようにして発揮された
のだろうか。森林浴やアロマテラピーのリラックス効果について、芳香物質のGABAA受容体を通した作用モデル
が悦楽されているハヘ芳香物質を嗅ぐと嗅覚系を刺激するだけでなく、位腔から直接的に脳、肺、皮膚、胃や
小腸から血液に取り込まれる 芳香物質の多くは脂溶性物質で血液一脳関門を容易に通過して脳に運ばれ、GA
BAA受容体応答を完進して安らぎをもたらす可能性がある。今回の経「1投与試験では、吟醸酒に含まれる香気
成分は胃や小腸から血液に取り込まれて作用した可能性がある。実際の飲酒時には□から摂取した効果に加え、
嗅覚系の剌激による効果も期待される。
(3)吟醸香成分のエタノール代謝への影響
フーゼル油は酒類に独特の香りを与える一方、毒性が高く、ADH活性に影響を与え、悪酔いの一因とされる。
これまでにプロパノール、ブタノール、イソアミルアルコールなどがエタノールとADHの反応を拮抗阻害する
ことを示し、フーゼル油は広義にはメタノールやエステル類等を含む酒類中の揮発性物質の総称とされ、カプ
ロン酸エチルおよび酢酸イソアミルも広義ではフーゼル泊ととらえられる。カプロン酸エチル(10~1000mg/l
と酢酸イソアミル(2~200 mg/l のADH活性への影響を調べたが、両方とも影響がなく、清酒に含まれる範囲で
これらがADH活性を阻害することはないとする。清酒のおいしさを考える上で清酒経験や生理的嗜好を考慮する
必要があることが示された。近年、お酒を飲まない層の増加が言われているが、こういった初心者と経験者の
違いへの配慮も一手であり、清酒成分に抗不安作用があり、特に吟醸香成分が抗不安作用を促進する。吟醸酒
に含まれる濃度で行っており、実際の飲酒で十分な効果が期待され、実験で示すまでもなく、その効果を経験
したひとは多いのではないかと指摘する。
3.清酒とスルメの相性
同じく、清酒とあたりめの相性の良さについては、独立行政法人酒類総合研究所の藤田晃子の実験によって問題提起さ
れている。それによると、一般的な酒のおつまみである“するめ”を噛みながら清酒または白ワインを口に含むと、生臭み
や苦味・えぐ味等の不快香味は、清酒よりも白ワインにおいて強く感じられる(上図)。 魚介類の生臭さの原因のひとつ
に、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸か劣化して生じるカルボニル化合物かあるといわれている。
“するめ”にはこの多価不飽和脂肪酸か豊富に含まれ、白ワインとの組み合わせで多価不飽和脂肪酸か酸化するなど
してカルボニル化合物が生じ、生臭みや苦味か生じたのではないかとして検証実験を行った。ここでは不快香
味を評価する指標に、生臭みはアルデヒド類の濃度を、苦味は味覚センサーの苦味強度を用いている。 先ほど
の仮説がワインに含まれる亜硫酸によって起こりうることがわかったという。現在、その機構の詳細を亜硫酸か
少ないワインや無添加のワイン、多価不飽和脂肪酸が少ないタラやエビ、カニなど、この現象に気を忖けて組み
合わせると、ワインとシーフードのマリアージュ(結婚)か一層楽しめ、お酒の「料理との相性」に対する消費
者の関心は高いとする。この事例では、多種多様なお酒と食品における相性の一例だが、酒と食品の相性などの
食文化にも寄与したいとのことだ。
今夜は清酒成分について考察してみた。成分的には極微量だが、この成分が清酒の甘さに深みやこくを与える
には欠かせない。半導体でいうドーパントに対応するのだが、150種の成分というから有機化学や生態学の世界
は複雑系だ。その複雑系は脳科学とも深く関わっており、味センサーも半導体の概念に含まれるだろう。かくし
て過剰はだめだが、微量領域は飛躍を生み出すようだ。
※組織にも、つまりピーター・ドラッガーばりの社会環境学的にこのことが当てはまる。異質なドーパント、
強烈な個性を持った個人を許容内包することで組織が活性化し目的を達成できるのではないかと。