【年金債導入の日本】
社会保障と税の一体改革で、年金の問題が相次いで取り上げられ、2011年
11月、「年金債」という文字が新聞の見出しを飾る。特にことしは、震災
の復興財源として、埋蔵金をかなり使ったので、財務省はもうない状況だ
とか。そこで、2012年度については、国の借金で賄おうにも、2012年度の
国債発行額は、44兆円とする方針でして、これを上回るということはでき
ない。やむなく、国庫負担の土台部、これについては年金債という、赤字
国債とは別の財源で賄い、その償還財源として考えられているのが消費税
で、消費税で年金債を補った場合だが、年金の国庫負担分の差額は、およ
そ2兆5,000億円、消費税を1%増税した場合のほぼ1年分にあたると試算
されている。
将来の安心、これを確保するためには、国民全員で支えるということが必
要だが、今の若い人の中には、年金の保険料を納めない、未納の人が増え
ているが、この未納な人も、実は基礎年金の2分の1について消費税等で
負担している。年金は、一定期間保険料を納めないと、将来受け取る権利
を失ってしまう。たえば年金給付が月額6万円の場合、そのうちの半分の
3万円は保険料負担分、残りの半分は税金などになる。例え年金保険料は
払っていなくても、消費税など税金は徴収されているので、その税金負担
分を年金受給者にプレゼントする形になり、年金として税金を取り戻すチ
ャンスも失うことになるという。我が国は待ったなしの状況下にある。
【社会保障の勘定枠】
手元には2008、9年の数字しかないが、増え続ける社会保障費について考え
てみた。赤字が極端に大きいのは社会保障勘定。ものすごい赤字だ。社会
保障支出の水準をそのままにして増税のみに頼ったら、最終的には消費税
率を20%以上にしなければならないことはわかっている(『泥鰌と神の粒
子』)。ここでお復習い。(1)2009年度の社会保障給付費は99兆8,507億
円であり対前年度増加額は5兆7,659億円、伸び率は6.1%。(2)社会保障
給付費の対国民所得比は29.44%となり、前年度に比べて2.70%ポイント増
加。(3)国民1人当たりの社会保障給付費は78万3,100円で、対前年度伸
び率は6.3%。
数字は百分率
部門別には「医療」30.9%「年金」51.8%、「福祉その他」17.3%(1)
社会保障給付費を「医療」「年金」「福祉その他」に分類して部門別にみ
ると、「医療」が30兆8,447億円で総額に占める割合は30.9%「年金」が、
51兆7,246億円で51.8%、「福祉その他」が17兆2,814億円で17.3%である。
(2)「医療」の対前年度伸び率は4.2%で(3)「年金」の対前年度伸
び率は4.4%。(4)「福祉その他」の対前年度伸び率は15.8%である。こ
のうち、介護対策は6.7%の伸びとなっている。
機能別社会保障給付費でみると(2011年10月28日に国立社会保障・人口問
題研究所が公表した内容;2009年度実績)、最も大きいのは「高齢」であ
り、49兆7,852億円、総額に占める割合は49.9%。また、2番目に大きいの
は「保健医療」であり、30兆2,257億円、総額に占める割合は30.3%である。
これら上位2つの機能別分類「高齢」及び「保健医療」で、総額の80.2%を
占める。上位2つの機能別分類以外では、大きい順に「遺族」 6兆6,969億
円で6.7%、「家族」 3兆3,106億円で3.3%、「障害」3兆2,072億円で3.2
%、「生活保護その他」 2兆7,198億円で2.7%、「失業」 2兆5,243億円で
2.5%、「労働災害」 9,384億円で0.9%、「住宅」4,427億円で0.4%とな
っている。対前年度伸び率では「失業」が102.2%と大幅に増加するとと
もに、「住宅」が17.7%、「生活保護その他」が14.5%増加する一方「労
働災害」が2.5%減少している。
ところで、日本の社会保障制度は、労使折半で社会保険料を負担する社会
保険方式を基本にしている。社会保障制度の充実は保険料や税の上昇を伴
うため、個人については労働意欲の減退を招き労働力供給を減少させると
ともに、企業については雇用や投資の減少を招き、経済成長率を低下させ
るという意見があるが本格的な実証研究は見あたらない。一方、日本の社
会保障への保険料や税の負担は米国を除く先進諸国と比べ低く、社会保障
制度の充実は雇用を創出し消費を増やす効果があり、経済に対する不況時
の安定機能を果たしているという意見がある。制度の持続可能性の確保の
観点と経済の活力の確保の観点がともに重要である。
つまりは、高齢化社会という時代特性に制度が整合していない。簡単に言
うとそうなる。それが、世代間不公平問題であったり、制度変更が速やか
におこなわれないのは硬直した官僚機構にあるとか、その時々の政権の政
治的状況に沿って制度がいじられ、横断的な整合性を欠いたものになった。
従って、急増する社会保障費の7割を占める「高齢者関係給付費」((65
兆3,597億円となり、同給付費の69.5%)を税収と非税収(保険など)で賄
い、税収は間接税と直接税で賄えば良いことになるが、社会保障支出の水
準をそのままにして増税のみに頼れば消費税率換算で20%以上に達すると
推定される。
対策として、(1)就労不能者数を差しい引いた非就労者総数を零に漸近
させ(2)少子化を食い止め、(3)国内生産力の質的向上(=景気対策)
(4)高齢者関係給付費抑制(=年金保険制度の再設計など)と、以上4
つの政策を早急に確定実施する必要に迫られている。そしてなによりも、
その大元となる「経済の活力の確保」の政策なのだが、「デフレーション」
の新しい定義と共通認識の、情報通信、半導体デジタル機器など技術革新
の寄与による急激な技術移転に見られる貿易障壁のボーダレス化と生産と
消費時間の外延により惹起するデフレーションにより、国民総生産(GNP)
の成長が停滞萎縮するといった問題への対処理論の確立と政策。例えば、
その1つにインフレターゲットの設定などがあげられる(スウェーデンの
社会実験では2%が設定されている「ノーベルというシンクタンク」)。
その年金制度の改革に着手した国がスウェーデン。将来を左右するのは国
民の意思であり、政治の方向性であり、スウェーデンでは総選挙投票率が
80%以上に及ぶ政治への国民の関心が高い。それは、民意が反映されやす
い比例代表制のためでもあり「信頼できる政治」「国民ための政治」が当
たり前になっていることの証しとされるスウェーデンでは、還元される税
金が向かう先になるのは、家計へ40%、地方自治体へ15%、国際協力へ7
%であり、企業に対しては4%とわずか。その税制と国民性の特徴は、
・国へ集められる税金は国民への再分配によって還元されるが、スウェー
デンの場合、その財源のかなりの部分は中間所得層が支払う税金に依存し
ている。
・スウェーデンの中間所得層が厚くなった背景には、高齢者のための国民
年金制度を拡充したのと、全体の労働賃金水準を引き上げた結果である。
賃金が職能賃金であるのと、労働組合が企業単位よりは産業ごとに横の連
携を保っているのもその理由である。
・スウェーデンでは、社会コストが重すぎて、耐えられないと弱音を吐く
ようであれば、企業の資格なしと、社会は厳しく、企業に甘えを許さない。
・「消えた専業主婦」「見当たらない寝たきり老人」「解体された老人ホ
ーム」は、諸外国から、スウェーデンの三不思議と言われている。
これに対し、日本では
1.日本は「小さな政府」のもとで貧困にあえいでいる。つまり、健全財
政を追求するあまり公的負担を国民に押し付け、その結果「貧困」が広
がっている。
2.国の借金が増大し国民の負担が増加している。
3.格差が広がっており、貧富の差が拡大している。
4.国民年金の額が少なすぎる。
との厳しい指摘がなされているが、スウェ-デンの就労者に占める公務員
の割合は30%と日本の5%の6倍にもあたる。これに対し「解雇の自由」
で対処しているが、これだけではこの官僚体質は払拭できず社会の停滞が
避けられられないとの見方もされている。ともあれ、この国は常に積極的
に社会実験を繰り返していくだけの政治的積極性があり、日本のように問
題の先送り体質は見られず、社会的停滞が生じた場合は迅速に是正に入る
ものと思わせるところがある。
企業社会の到来は、人類の歴史における重大な転換点となるかもしれ
ない。1873年の世界恐慌は1776年のアダム・スミスの『国富論』の出
版に始まったレッセ・フェール(自由放任)の世紀に終止符を打った。
同時に福祉国家を誕生させた。しかし今日では誰もが知っているよう
に、その福祉国家も百年をかけて終わりを告げた。福祉国家は、人口
の高齢化と少子化という問題に直面しつつも生き残っていくかもしれ
ない。だが、それが生き残ることができるのは、企業家経済が知識の
生産性の大幅な向上に成功したときだけである。
P.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』
良い先進的な社会保障制度から学ぶべきものは学び社会実験をおこなって
いけば良いと。きょうの結論だが、わたしにできることは国などの共同体
に出来る限りお世話にならず、社会保障給付費を抑制する行動をとるしか
ないが、さしずめ、来年からは付加価値労働を強いることにしよう。また、
医療費抑制のための「予防医学」を1年かけて個人的テーマとして研究し
てみよう。