A Challenge To Fate

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21世紀に蘇る栄光の英国ロック~ブリットポップ特集 第2回

2012年08月16日 00時43分12秒 | ロッケンロール万歳!


シンコー・ミュージックから「CROSSBEAT presents ブリットポップ・ディスクガイド」というムックが発売された。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのリマスター紙ジャケCDリリースと単独来日決定、フジロックではストーン・ローゼズが復活し、元オアシスのリアム&ノエル・ギャラガーがそれぞれ出演、ロンドン・オリンピック閉会記念コンサートにはブラー、ニューオーダーが出演、さらにブラーの22枚組BOXリリースと、今年は80~90年代UKロックの話題満載だ。そこへタイミングよく「ブリットポップ」という90年代英国の一大ムーヴメントのガイドブックが登場した。読んでいてこんなバンドいたよな~と懐かしくなったので、昨年書いたブリットポップ特集の続編をお贈りしよう。第1回はコチラ。今回はブリットポップに拘らず90年代前半の英国ロック・シーンで私が愛聴していたバンドも紹介する。

世代的には80年代の方が身近だが、90年代の英国ロックにもかなり入れ込んだ。アメリカから世界を席巻したグランジに今ひとつ馴染めなかったので、必然的にイギリス贔屓になる。一方でクラウトロックや前衛音楽への傾倒もあったが。1988年頃話題になった「マッドチェスター」ムーヴメントにはワクワクした。音楽的な面もあるが、心惹かれたのは「セカンド・サマー・オブ・ラヴ」と呼ばれた60年代ヒッピー・カルチャーへの憧憬だった。アシッドやエクスタシーをキメてダンスビートとサイケなライティングで朝まで踊り明かすライフスタイルは何にも囚われない自由な精神を象徴し来るべき20世紀の最後のディケイドへの希望に溢れていた。

ストーン・ローゼズ、ハッピー・マンデーズなどおマンチェ勢以外にも個人的には1stアルバムが最高なプライマル・スクリーム、ロングヘアー・パンクスと呼ぶべきワンダー・スタッフやティーンエイジ・ファンクラブ、美メロ+ノイズ・ギターが信条のマイブラやライド等当時「ハッピー・ヴァレー」と呼ばれたシューゲイザー一派。特に好きだったのはグラスゴーのスープ・ドラゴンズ。流行に合わせてサウンドを変えるカメレオン・バンドと揶揄されたが、バブリーな時代を象徴するやりたい放題のスタイルはある意味極めつけだったと思う。



ディスクガイドによれば1993年のスウェードのデビューがブリットポップの先鞭をつけたとある。英国ではそうだったかも知れないが、日本のロック・ファンがブリットポップという言葉を強烈に意識したのは1994年のオアシスのデビュー作とブラーの3rd「パークライフ」であろう。ビートルズやザ・フーやキンクスなどの60年代英国ロックの影響を全開にしたメロディー主導型の楽天的なサウンドは、退廃的で過激なグランジに付いていけない人々の大きな支持を集めた。

根っからのB級好きの私にとっては有名バンドよりもブームの中で花火のようにパッと咲いて忘却の彼方に消えていったバンドの方に愛着がある。第1回でも書いたが、最も好きだったのはロンドン出身のトリオ、ドッジー。レイヴ禁止法案クリミナル・ジャスティス・ビルへの抗議活動やマリファナ合法化運動を打ち出した社会派でありながら、ロンドンいちのパーティー好きバンドとしてタブロイド紙を賑わせた彼らの楽天的なサウンドには素晴らしいメロディーと美しいハーモニー、ブリティッシュ・ビート伝統のギター・ロックが溢れていて心を躍らせてくれた。昨年リリースされた再結成アルバムが素晴らし過ぎる。今週末のサマソニに再結成したキャスト来日するが、ドッジーも来日してほしいものだ。



デビュー当時はシューゲイザーだったブー・ラドリーズはギター・ノイズを排してキャッチーなメロディーを打ち出した「ウェイク・アップ・ブー!」の大ヒットで人気バンドの仲間入り。確かに時代を超えた名曲(今でもその印税で食えていけるかも)だが、逆にそのヒットのせいで一発屋のイメージがまとわりつくのは残念。



現在でも活躍する北アイルランドのアッシュは、現在は脱退してしまった女性ギタリスト、シャーロットの凛とした佇まいが好きだった。「トレインスポッティング」のダニー・ボイル監督、ユアン・マクレガーとキャメロン・ディアス主演映画「普通じゃない」の主題歌「ライフ・レス・オーディナリー」から参加したシャーロットは2006年に脱退するまでツイン・ギターとコーラスの要として活躍した。



ブリットポップは男性主導型のムーヴメントという印象があるが、シャーロットのように女の子も多く活躍した。シューゲの生き残りラッシュやガールズ・パンクのエラスティカ、ブリットポップ最高のフィメール・スターを自称するルイーズ率いるスリーパーなどがいた。個人的に好きだった(今も大好き!)なのは元キックボクサーという経歴のインド系コケティッシュ・シンガー、ソニア率いるエコーベリー。「女モリッシー」と呼ばれたソニアの健気な歌声には励まされた。マドンナやR.E.M.のお気に入りだったが2004年に解散。ソニアは現在ギターのグレンと二人でCalm of Zeroとして活動中。



ブリットポップには括られないが、同時代にグランジに影響された過激なサウンドを聴かせたのが元祖ガールズ・ゴシック・ヒロイン、ケイティ・ジェーン・ガーサイドを擁するデイジー・チェインソー。グラムとパンクを融合した名前通りノコギリのようなハードなギター・ロックに過激なファッション&アクションで歌うケイティはセンセーショナルだった。ブリットポップ勃興前にケイティは脱退してしまうが、後にクイーンアドリーナを結成、日本のヴィジュアル系ロックにも影響を与えた。



同様にグランジやハードコアに影響を受けた北アイルランドのトリオ、セラピー?はタイトでスピーディーなロックでブリットポップなどどこ吹く風の硬派スタイルを貫き通した。ギター&ヴォーカルのアンディ・ケアンズの鋭い眼光が忘れられない。現在も現役で活動中。



ブリットポップの裏でもいくつかのムーヴメントが発生した。ひとつは「トラヴェラー」と呼ばれた定住地を持たないジプシー風ライフスタイルを送る若者たち。レイヴ・カルチャーやネオ・ヒッピーと深い接点を持ち独特のコミュニティを形成していた。最も有名なのはレヴェラーズだろうが、ここではラップ+ハードコアのセンサーというバンドを紹介。来日公演は新宿リキッドルームで動員50人という最低記録を樹立、しかもラッパーが病気で声が出ずインスト演奏に終始したというトホホなバンドだったがサウンドはレッチリの英国版風で悪くない。現在でもしぶとく活動している。



ブリットポップの中心地はカムデンだったが、ノッティングヒル・ゲイトを中心に80年代から地下シーンで密かに盛り上がったプログレ/サイケ・リバイバルについても触れておこう。「Strange Things Are Happening」「Ptolemaic Terrascope」「Freakbeat」などのミニコミ誌が60~70年代のマイナーなプログレ/サイケを発掘すると共にポーキュパイン・トゥリー、サン・ダイアル、マジック・マッシュルーム・バンド、オズリック・テンタクルズなどコンテンポラリーなバンドを紹介した。特にオズリック・テンタクルズはゴングやソフト・マシーン、ホークウィンドなどを継承するトリップ感たっぷりの演奏を展開し日本のマニアックなプログレ・ファンにも高く評価された。彼らも現在でも精力的に活動している。



ブリットポップの隆盛によりロック界が「メロディー重視」「万人に判りやすいポピュラリティ」というポップ音楽の基本を再認識したという利点はあったが、過剰な商業主義により実験的だったシューゲイザーやインダストリアルなどのアーティストの活動が停滞したという功罪があったことも事実だ。それはともかく「ブリットポップ・ディスクガイド」は90年代に青春を過ごした方にはおススメの一冊である。

英国の
威信をかけた
五輪終わり

英国ロックの深き森はさらに鬱蒼と生い茂る。
コメント
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