今や元ブランキー・ジェット・シティの肩書きも不要な浅井健一氏(ベンジー)のバンド、シャーベッツの8thアルバムがリリースされた。1996年ブランキーと平行してベンジーのソロ・プロジェクトとしてスタートし、1998年に4人組ロック・バンド、シャーベッツとして本格始動。以来14年に亘りベンジーの活動の核を成すバンドとして活動してきた。
ベンジーは2000年のブランキー解散後UAとのAJICOやJUDE(ユダ)、2年前に結成したPONTIACS、そしてソロと八面六臂の活動を繰り広げてきた。硬派なロケンロール・トライアングルとして90年代を駆け抜けたブランキーの世界を拡大し、よりヴァーサタイルなロケンローラーとして日本のロック界を支える存在として君臨する。自らのインディー・レーベルSEXY STONE RECORDSからリリースされる数多くの作品はどれもひと味凝ったパッケージに包まれ、その時々のベンジーの生き様を克明に描いた高い完成度を持っている。
ブランキーは1990年にイカ天に出演した時から知っていた。1980年代後半に一世を風靡したバンド・ブームも落ち着きを見せ、正直イカ天もマンネリ化し人気が落ち始めた頃に登場した彼らは最後の本格派として有無を言わせぬ存在感を見せつけた。周囲の喧騒もどこ吹く風の飄々とした3人の佇まいはバブル景気に狂乱する世の中に明確な「NO」を叩きつけた。メジャー・デビューしてからも流行とは無関係にソリッドなロケンローを追求。ハイロウズ、ミッシェル・ガン・エレファント、ギターウルフ等と共に時代を超えたロケンロー魂を世に問うてきた。それ故これらのバンドのメンバーたちは21世紀を10年以上過ぎた現在でもシーンの牽引役として活躍しているのであろう。
初めて彼らのライヴを観たのは1998年豊洲で開催された第2回目のフジロック・フェスティバルだった。噂に聴いた最強トリオの叩き付けるような演奏は初の大規模ロック・フェスの聡明期に相応しいエキサイトに溢れていてとても印象的だった。他にミッシェル・ガンやギターウルフ、海外からソニック・ユースやイギー・ポップが出演し、その後のフジロックのロック・サイドの流れが打ち出されたフェスだった。
その頃べンジーはシャーベッツを結成、余りに強いブランキーの呪縛を払拭する活動を始める。2000年にブランキーが解散すると先に挙げた幾つかのプロジェクトを次々にスタートし多彩な才能を開花させるのである。ベンジーのハイトーンの歌がとても個性的なので、どのユニット/ソロでも一聴して彼の世界が濃厚に展開されており、一度のめり込むとどれも最高のロケンローばかりなのだが、その中でも女性キーボード/コーラス福士久美子嬢を加えたシャーベッツは最もカラフルかつ奥の深いサウンドでベンジー・ワールドの神髄を聴かせるバンドだと言えよう。ベンジーもシャーベッツを「宝物」と表現しているほどだ。
1年ぶりの新作「ストライプ・パンサー」の初回限定盤は2枚組・写真集付きブック型の豪華装丁になっており、今まで以上に自信作の風格を感じさせるアルバムである。オープニングのタイトル・ナンバーからどっしりしたミッド・テンポのロケンローに哀愁のメロディーが高らかに歌われ、アコースティックなバラードや久美子嬢のヘヴンリーなファルセットが美しいサイケデリック・ナンバー、骨太でアーシーなナンバー、ドラマチックなプログレッシヴなナンバーと多様な曲想に溢れており、ジャケットや写真集に写る少年の夢や憧れを体現しているようである。ボーナス・ディスクの5曲のレア・トラックも含め映画的ロマンティシズムに満ちたベンジーの独特の歌詞もたっぷり楽しめる21世紀型ロケンローの大傑作であると断言できる。恐ろしく多作なベンジーだがこれから体験する方はまずはこの最新作から聴いてみては如何か。
アルバムからのPV「ストライプ・パンサー」はコチラ
▼原宿で開催された浅井健一×岩佐篤樹 写真展「AROUND BENZIE」。惚れたぜ!
ベンジーが
ジャズマスターを
弾いている
9月下旬に東阪名でレコ発ツアー「STRIPE PANTHER GIGS」が開催される。生で聴くベンジーの歌はまた格別である。