タコ2タイトル紙ジャケ化、ガセネタBOX、大里俊晴BOXに続き、昨年末にSUPER FUJI DISC(Disk Union)から発売告知されていたタコの未発表BOXが発売された。発売日3/21→発売延期未定→ 8/8発売、仕様8CD→(変更)→4CD、価格\8,400→(変更)→\5,775 (税込)と情報が交錯して半分忘れていたところへ騙し討ちのような突然のリリースである。amazonでは発売日予定日は2013年3月21日となっており、未だ混乱が続いている様が、1980年に山崎春美氏中心に結成されて以来カオスの連続だった「共同体」=タコの軌跡そのままである。おまけにこのBOX、3枚目と4枚目の内容が入れ替わっているというお間抜けぶりにワロタ。
「宝島」や「シティロード」などの雑誌記事やライヴ告知で山崎春美氏およびタコの存在は1980年頃から知っていた。1982年に吉祥寺ぎゃていでバイトを始めた頃、山崎氏は店のスタッフのような顔をして現れたものだ。しかし何故か彼がぎゃていに出演した記憶はない。初めてそのパフォーマンスを観たのはPlan Bでの「自殺未遂ギグ」だった。ぎゃていの女性オーナーのGIGIさんに連れられて行ったのだが、包丁を両手に縛り付け痙攣しながら身体中に突き刺し血塗れの山崎氏とそれに動じず葬送曲のようなメロディを淡々と演奏する管波ゆり子嬢や篠田昌巳氏による楽団、逆上してパイプ椅子で山崎氏に殴り掛かるロリータ順子嬢、そしてその地獄図を無表情に見守る20数人の観客。血を見るだけで怖くて直視できなかった。
そこに自分が同席していることだけで苦痛で溜まらなかった。もうこんな異常なアングラ音楽の世界から足を洗おうと思った。
それにも関わらずぎゃていで翌年までバイトを続けていたのが今思うと不思議だ。自殺未遂ギグの1ヶ月後、ぎゃていの企画ミーティングに山崎氏が何食わぬ顔で現れた。もう傷は残っていなかった。GIGIさんが「山崎君の近くにいるといつ金槌で叩かれるか不安だわ」と冗談めかして言ったのを覚えている。
ピナコテカレコードからリリースされた1stアルバムを聴いたのは多分ぎゃていを辞めた後だったと思う。最初は貸しレコードで借りて聴いたこのアルバムは坂本龍一氏や町田町蔵氏、遠藤ミチロウ氏、細川周平氏など当時のサブカル系豪華ゲスト陣を配して制作されたコンセプト・アルバムで、主宰者の山崎氏が参加していないトラックも多く、本来のタコとは別モノだということは当時から言われていた。♪食べて吐いてまた食べて♪「嘔吐中枢は世界の源」、♪ひとつ人捨て自我のため♪「人捨て節」、坂本氏が昭和天皇の真似をする「な・い・し・ょのエンペラーマジック」などはアングラ系音楽に興味のない友人にも面白がられ、飲み会ネタになったりした。
翌年Fool's Mateが主宰するレーベル、イースタンワークスから2ndアルバム(12インチ)がリリースされた。こちらはライヴ録音だったが、自分のバンドに夢中だったので当時は聴かなかった。日比谷野音でこの手のバンドを一同に会したイベント「天国注射の昼vol.4」が開催されたが特に興味はなかった。ビデオで発売されたので動くタコを観ることが出来る。ヴォーカルは町田町蔵氏と山崎春美氏。曲はピナコテカの1stに収録の差別用語で問題になった「キララ」である。
1982年頃のピナコテカレコードの機関紙アマルガムに山崎氏のタコと白石氏のタコの2枚がリリース予定と書かれている。そのまま発売中止になっていた白石タコのアルバムの音源が今回のBOXの目玉であろう。白石氏は単調なリズムボックスにサックスのマウスピースを取り替えながらピィーッというフリークトーンを吹き鳴らし続けていたが、ここに収録されたタコの演奏でもそのスタイルは同じである。タコに加入する前は灰野さんとのデュオで不失者をやっており、そこではシンセサイザーを演奏していた。いつ頃からサックスに転身したのか判らないが、コンピューター・プログラマーとしてニューヨークに渡り30年経った現在でもニューヨークの地下鉄ホームや来日時には新宿のカリヨン橋でストリート・パフォーマンスを行っており、ピーピー咽び泣くサックス演奏を展開している。裏窓企画イベントで灰野さんや工藤冬里さんなどマイナー時代の盟友と共演したのを何度か観たが、空間を引き裂く鋭いサックスの切れ味は存在感抜群だった。
このBOXにはロリータ順子嬢の歌が数曲収録されておりそれも聴き所である。PHEWさんを思わせる抑揚のない歌声は彼女が5年後に早逝することを知っているだけに胸に迫るものがある。戸川純ちゃんにも影響を与えた元祖不思議ちゃんキャラだった。
2009年11月に大里俊晴氏が亡くなって以降、山崎春美氏関連の未発表音源が続々リリースされている。今回のBOXはvol.1とあるからvol.2、恐らく1982年以降の山崎タコの未発表音源集も出すつもりなのであろう。当初のDisk Unionのサイトでは自殺未遂ギグの映像のリリースの可能性も仄めかされていた。個人的には観るに忍びない映像だが、80'sアングラ・シーンに興味を持つ今の若者にはどう写るのだろうか?
音的にはバラエティに富んでいるので同じ曲の繰り返しだったガセネタBOXよりは聴く回数は多そうだ。ラリーズのブートBOXを思わせるVHS大のプラスチック・ケース入りで52ページのブックレットには当時の写真やフライヤー、参加ミュージシャンのコメントやインタビューが掲載されており資料的価値は高い。正直胸を張っておススメです、とは言えないのだが、近年活動が活発化している山崎氏とEP-4の佐藤薫氏の仕事だから、お布施の意味でもお買い上げください。
タコとして
泳いだことは
ありますか
8/11のFREEDOMMUNE 0<ZERO>に山崎氏+佐藤氏+JOJO広重氏が「タコ」として出演する。 山崎氏の痙攣パフォーマンスが大ステージで観られるのも珍しい。しかし私的には何よりも不失者がメインアクトなのは言うまでもない。
[8/13追記]
マイミクのイカさんが80年代にぎゃていで観たタコのライヴのことをmixiの日記に書かれていますのでご一読ください→コチラ(mixiのログインが必要です。)