1980年にインディーレーベルの草分け「ピナコテカレコード」の第1弾としてリリースされたオムニバスLP『愛欲人民十時劇場』は、吉祥寺マイナーという小さなライヴハウスで夜の10時から開催されていた同名イベントでのライヴ演奏を収録していた。ごく少数の観客の前で演じられた極北の表現行為のドキュメンタリーとして、その名の通り少数派の活動の場であったマイナーに蠢く有象無象の地下表現者を戸外へ開放するきっかけとして十分なインパクトがあった。アルバムの冒頭を飾るのはチャカポコしたリズムボックスとピーピーいうサックスの悲鳴。どんな過激かつ醜悪な演奏が始まるのか、と身構えるリスナーを煙に巻くすっトボけた狂言回しを演じるのが、白石民夫という31歳の真面目そうな青年だった。
当時すでに東京地下音楽界の有名人だった白石は、灰野敬二の不失者の最初のメンバーであり、山崎春美と共にタコの中核メンバーであり、「うごめく、気配、きず」「剰余価値分解工場」「愛欲人民十時劇場」などのイベントの中心人物であり、そして何よりも女の悲鳴かネコ殺しの断末魔を思わせる激烈なサックスのフリークトーンで知られていた。耳に突き刺さる高周波音は、灰野敬二の叫びとフィードバック、山崎春美の痙攣、竹田賢一の大正琴と並び70年代末地下音楽の象徴だった。
80年代最初の数年を過ぎると、ポストパンクの勃興と入れ替わるようにマイナー系地下音楽は存在感が希薄になり沈静化することとなる。再び地表に姿を現すのはテクノとニューウェイヴとビートパンクの狂騒の80年代が終わり、20世紀の終わりのディケイドである90年代に入ってからのことになるが、その時には最重要人物のひとりである白石はニューヨークに居を移し、日本のシーンとの交流は少なくなっていた。それ以降の活動については本人から提供されたプロフィールに詳しいが、住み慣れた日本を離れて異郷に住みながら、愛用のサックスの究極の悲鳴で世界各国の表現者と交感してきた白石こそ、芸術的コスモポリタニズムの真の実践者と言えよう。時折帰国しては、かつての同胞とのセッションや屋外でのゲリラ演奏を続けてきた白石が、2014年初春、新ユニットで来日公演を行う。
アラン・リクトやマイケル・ヘンリッツ、ショーン・ミーハン、No Neck Blues BandのMicoなど様々なミュージシャンと共演してきた白石は、2012年に若き才女Cammisa Buerhaus(カミッサ・ビュアハウス)と出会って天啓を受け、デュオとして活動してきた。フェミニストであり、彫刻家であり、女優であり、サウンドアーティストであるカミッサの想像力豊かな電子音響と35年前から岩のように不変の白石の居合抜きのサックスがスリルとサイレンスを行き来する世界は「大凶風呂敷」という謎めいたユニット名と共に、首尾一貫して地下音楽の極道を貫く白石民夫という稀有な魂の眩い閃きを我々の眼前に明らかにするに違いない。全5公演いずれも見逃せないユニークな共演イベントに加え、気の向くままにゲリラ演奏も行うかもしれないと言う。
大凶風呂敷(白石民夫+Cammisa Buerhaus) JAPAN TOUR 2014
2月27日(木) 京都UrBANGUILD
「Living Arts vol.19」
出演:大凶風呂敷/Kみかるmico/Delphine Depres/ieva (4speaker performance)+中川裕貴:(cello)+ryotaro (acc, synth)/豊田奈千甫
2月28日(金) 大阪フィドル倶楽部
「SHIRAISHI Tamio Live」
出演:大凶風呂敷(白石民夫 カミッサビュアハウス)+ミカ/KみかるMico/長野雅貴/向井千恵/ウォンジクス
3月3日(月) 渋谷Last Waltz
「剰余価値分解工場2014」
出演:白石民夫/Cammisa Buerhaus/後飯塚僚/山崎春美/工藤礼子/工藤冬里/鈴木健雄/高橋幾郎/竹田賢一
問い合わせ:新宿 裏窓
3月5日(水) 大久保Earthdom
「Passion & Intension Vol.12」
出演:大凶風呂敷 guest: 木村由(dance)/魔術の庭/解体飼育団 (長谷川洋[electronics: a.k.a.ASTRO] 佐々木悟[as] 内田静男[b])
問い合わせ:MUSIK ATLACH
3月6日(木) 六本木Super Deluxe
「高周波地区」
JUNKO (非常階段) ソロ/大凶風呂敷/Sachiko M/黒パイプ
サックスの
震えに似てる
ニューヨーク
【PROFILE】
白石 民夫
1990年より、NY、SF、で時折、演奏を行う。この頃は主に、ABC No RioにおいてA Mica Bunker のfreejazz系の人、それと、やはりABC No RioでHuagi PungoなどのPunk Rockバンドと共演。Crash Worshipの演奏に数回参加。
1994年よりNYに移住。Alan Licht、No Neck Blues Band、Fritz Welchなどと共演。Mico(from NNBK)とともにヨーロッパツアーを時折行う。Sean Meehanとは20年近く、年一回ではあるが、屋外での夏のたそがれ時のパフォーマンスを現在に至るまで継続している。
2007年にはSean Meehan、高橋幾郎とともに、Scotlandでの屋外コンサートツアー(主催Arika)に参加。2008年より地下鉄構内での深夜から未明にかけての演奏開始。現在も定期的に継続中。2012年よりCammisa Buerhausとの活動開始、井上みちる(舞踏)、吉増剛造(詩人)などとの共演を行う。他に、最近の共演者は、Steve Baczkowski、Jooklo Duo(from Italy)など。モダンダンスとの共演もときおり行っている。
Cammisa Buerhaus(カミッサ・ビュ アハウス)
マンハッタンのダウンタウン在住。サウンドアーティスト。彫刻家と しての訓練を受け、自身が作成した自作のオルガンなど手製の楽器を演奏するだけでなく、ソ連製のシンセサイザーでも演奏を行っている。
ソロプロジェクト、「Eliza and Parry 」は「複写された発熱夢」の音楽である。「Plant Migration」と 自分自身のレーベル「Wild Flesh Productions」を通じて2014年に二つの新しい「Eliza and Parry」のカセットをリリースする予定。
音楽だけではなく、マンハッタンのギャラリー「Cage」のアーティスト·イン·レジデンスでもあり、サウンドのイベントを主催し、フェミニストの視点からサウンドアートの歴史を研究している。
さらに、Cecilia Corrigan 、MacGregor Cardとのコラボレーションである進行中のプロジェクト「Full Disclosure」においてミュージシャンであり、女優でもある。
【CAUTION!】3月6日木曜日、六本木にて「ジュンコvs.サチコ」ガチンコ対決実現!!!!!!!!!