2020年8月25日(火)35度超えの猛暑が少しだけ収まった夏休みの終わり近く、久々に公園を訪れてみると姦しいほどの蝉の大合唱。その驟雨の響きの真ん中で心を開いてみると、何種類もの違った鳴き声が四方八方から耳を襲う。頭蓋の中で木霊するD#の音は、決して騒音や雑音ではなく、かといって楽音でもない。空気の振動を伴なって鼓膜を震わせることで神経に届くとはいえ、これは大自然の念動力というしかない。大地に深く根を下ろす神の樹木の幹や枝や葉が俺に何かを伝えている。俺はそいつの聴こえない言葉にフルートのリードを噛んだ甲高い音で応えようとする。何の返事もなければ聴こえた素振りすら見せやしない古木の頑固さに、俺はしかし人間の力が遥かに及ばない森の生き物の頑固なまでの生への執着を感じ、マウスピースを噛み締める口唇から一筋の体液の涎が滴り落ちるのを黙って見つめことしか出来なかった。半世紀以上生きてきて初めて幸せとは何か知った頭(かぶり)になった。
神の糸
手繰りよせては
音擦れる
▼2020年5月6日の小金井公園