昨年8月19日に川崎市東扇島東公園で予定され、当日の集中豪雨で中止になったライヴ・ストリーミング・メディア「DOMMUNE」主催の"東日本大震災復興支援イベント"FREEDOMMUNE 0<ZERO>のリベンジ公演。今回は会場を天候に左右されない屋内の幕張メッセに変更。6月に発表された出演者第一弾が故・夏目漱石というので大きな疑問符と共に話題になったが、その後正式なアーティストが順々に発表され、最終的には総勢105組のアーティスト参加の一大イベントとなった。
個人的にはクラウトロックの巨人マニュエル・ゲッチング、不失者、非常階段、メルツバウ、大友良英、タコといったカルト系アーティストの出演が目当だったのは言うまでもない。開催3日前に発表になったタイムテーブルを見ると、上手く調整されていてこれらのアーティスト全てを観ることが出来る。オールナイトは辛いが若者達に負けず頑張ろう。
開場の17:00前に幕張メッセに到着。掲示板の本日のイベント一覧には、恐竜王国2012、トミカ博、ゲーム「戦国BASARA」のイベント=バサラ祭2012~夏の陣~だけでFREEDOMMUNEは載っていない。それっぽい人たちについて行くとバサラ祭の客だった。暫く迷ったあげくスマホでDOMMUNEのサイトを調べ開催展示ホールを確認し、やっと到着。100人くらい集まっているが、そこにもFREEDOMMUNEの掲示やポスターはない。待つこと1時間、やっと列が出来る。1時間押しで開場したが、昨年のチケット提示で混乱なくスムーズに入れた。暗闇に未来的なオブジェが並びどこがどのステージか判りにくいが、とにかくメインのMAKUHARI BUDOKANへ。ステージではまだタコのサウンドチェックをやっており、ホールに入るまでまた待たされる。45分くらい待って、やっと入場。かなり広い。ステージは30mくらいあって、客席は1000人以上入るだろう。当然最前列を確保。
最初はやくしまるえつこ嬢のYAKUSHIMARU BODY HACK。身体に計測器をつけて詩を朗読する。心拍音・血流音などが電気変調されてノイズを奏でる。最近やくしまる嬢は歌よりもこうしたコンセプチュアル・パフォーマンスでの活躍が多い。
そのまま続けてタコ。女性がステージへ走り出てきて何やら泣き叫ぶ。そこへ宇宙人を名乗る男性、宇宙人ハンターの男性が出てきて寸劇を行う。彼らが楽器を持ち、いよいよ山崎春美氏の登場。一見下町の八百屋のおっさん風のルックスだが独特のオーラを発している。満員の観客から大歓声が上がる。当初は山崎氏+佐藤薫氏+JOJO広重氏のトリオと発表されていたが、鎖帷子レイコ嬢(vo)、藤井海彦氏(g)、多門伸氏(ds)、まんぷく丸氏(b)による新生タコ・バンドの演奏だった。パンキッシュなロック演奏に山崎氏が早口でがなり立てる。レイコ嬢は戸川純ちゃん風に絶叫からロリータ・ヴォイスまで変幻自在な歌で絡む。「仏の顔は今日も三度までだった」「宇宙人の春」「嘔吐中枢は世界の源」などピナコテカ1stアルバムの曲中心の演奏。途中で佐藤薫氏(vo.erectro)を呼び込む。佐藤氏は「な・い・し・ょのエンペラーマジック」で坂本龍一氏が真似た昭和天皇のパートを歌う。続いてJOJO広重氏がゲスト参加、珍しくストラトを使用。広重氏の「お前ら行くぜ!」という煽りに観客が一気にヒートアップ。ガセネタの「父ちゃんのポーが聞こえる」の過激な演奏。広重氏は次に非常階段で出演するのに、もはやパワー全開の暴れっぷり。バンドの演奏が普通にそこそこ上手かったのには若干拍子抜けしたが、レイコ嬢のキャラが故・ロリータ順子嬢と被り楽しめるステージだった。山崎氏の痙攣パフォーマンスがなかったのが残念。
▼80'sアングラ・トリオ。L to R:山崎氏、遠藤ミチロウ氏、佐藤氏
そのまま最前列柵に留まり非常階段を待つ。結構知り合いがいてUFO CLUBかJAMかEARTHDOMの雰囲気だが、後ろを見れば人の波。アングラ音楽にこんなに多くの観客が集まるのには驚きである。メンバーが出てきて機材のセッティングを始める。この日はドラムの岡野太氏も参加、フルメンバーでの演奏だ。サウンドチェックでJUNKOさんがひと言「キャーッ」と叫んだだけで観客に大ウケ。血の気の多い若者が前列に集まってきた。冒頭で広重氏が「ノイズだぜ!」と叫ぶと「ウオーッ」という大歓声。「判ってるだろうが、このイベントの趣旨は"No Nukes"だ。必ず献金しろよな」と演奏に似合わず真面目なMCが広重氏ならでは。「行くぞー!」と叫ぶといつもの爆裂混沌演奏がスタート。ギターを振り上げて煽る広重氏に呼応して観客も暴れ回る。コサカイ氏が長髪細身になっていて驚いたが、あとでコサカイ氏欠席で代理のナスカ・カー氏だったことが判明。美川俊治氏、JUNKO嬢、岡野氏は演奏面担当。10分くらいで広重氏がストラトをステージに叩きつけ破壊パフォーマンス。なるほど破壊用のギターだった訳だ。その後いつものSGを弾き始めるが、ここで予期せぬスペシャル・ゲストが登場。福島原発を皮肉ったキャラクターのもんじゅ君の着ぐるみである。凶悪ノイズ+ゆるキャラのミスマッチが素晴らしい。踊ったり広重氏と抱き合ったりして楽しいステージ。No Nukesの趣旨に相応しい「もんじゅ階段」のライヴだった。
▼これがもんじゅ君だ
メインステージの次はsalyu x salyuだったが、ここでメルツバウを観にEXTREAMZEROへ移動。ピアミッド状の演奏スペースでYMOのサウンドプログラマー松武秀樹氏=Logic Systemが演奏中だった。アンティークな巨大シンセを操り心地よいダンスエレクトロ演奏。外人客が多い。彼の演奏後、前の客が離れたのでこちらも最前列に。セッティング済だったので間髪入れず大音量でハーシュノイズが溢れ出す。前身黒尽くめの秋田昌美氏は広い会場でもいつも通りの淡々とした風情で演奏。ピラミッドの両側から放たれるレーザー光線が幻惑的で空間を震わせる電子雑音を効果的に彩る。
メインステージへ戻るとsalyu x salyuが演奏中だった。坂本慎太郎氏が歌詞提供したことしか知らなかったが、女性4人組のコーラス・グループでバックにコーネリアスの小山田圭吾氏がギターで参加している。歌がうまくてハイファイセットの女性版という感じ。後ろの方で持参の折りたたみ椅子に座って一休み。
salyu~が終わると一斉にはける客を掻き分けて最前列へ。個人的に最大のメインアクト不失者のライヴだ。灰野さんのライヴを観るのは5月24日以来2ヶ月半ぶり。その間もライヴの打ち上げやDOMMUNEでのトーク、そして映画「ドキュメント灰野敬二」を2回観たから久しぶりという気はしない。法政大学学生会館が無くなって以来、大きな会場で灰野さんを観ることが適わなかっただけにこの大舞台には大いに期待していた。メンバーは新生"ロングヘアー"不失者=亀川千代氏(b)+Ryosuke Kiyasu氏(ds)とのトリオ。6月の映画前夜祭は観れなかったので、このトリオによる不失者は初めて。昨年2月の不失者になる前の3者のセッションや「ドキュメント灰野敬二」で観た演奏はかなりハードなパワーロックだったが、不失者になってから何度もスタジオ入りして鍛え上げた演奏は、1970年代終わりに不失者が結成されて以来の灰野さん独特の音楽論を継承し、ひとつひとつの音に拘った禁欲的かつ高度な次元のサウンドを聴かせ、その完成度の高さに驚愕した。ピリピリとした緊張感と時に爆発する演奏が、他のバンドとは全く違う唯一無二の世界を産み出しており、1時間が24時間にも1秒にも感じられる特別な空間を現出した。灰野さんが激しいアクションをキメると観客から歓声が上がるのも新鮮だった。最前列にいたので客席の状況は判らなかったが、後ろで観ていた灰野さんのスタッフの話では最後尾までギッシリ満員だったとのこと。恐らく国内では灰野さんの歴史上最大の動員だったのではなかろうか。
会場で出会った知り合いの方数人から何故ブログで「ドキュメント灰野敬二」の感想を書かないのか訊かれたが、それはあの映画のことを言葉にするのは自分には不可能だからである。単なる感想文やネタバレの作品解説で言葉を濁す訳には行かない。地方公開も決まったようだから観れる方は是非その目で確認してほしい。そうすればこの新生不失者の秘密も判る筈である。
不失者の次は小室哲哉氏なので女性客が一挙に前列へ押し寄せてきた。大友良英氏を観にBROADJへ移動。TOKYO NO.1 SOULSETの川辺ヒロシ氏の4つ打ビートのノリノリのDJプレイに客が踊りまくっている。80年代からクラブのノリって変わっていないな、と暫し郷愁に浸る。しかしだんだん飽きてきたのも事実。もうクラブで踊る歳じゃないな、と実感。大友氏にスイッチした途端にムードは一変。クラブDJとターンテーブル奏者とは使う機材は同じでも演奏家としては全く別モノである。大友氏のターンテーブル演奏を観るのは7年ぶりだが、鉄板をターンテーブルに擦り付けたり、ターンテーブルを持ち上げてテーブルに叩きつけたり、ヴァイオリンの弓でレコードを弾いたり、尋常じゃない演奏で爆音ノイズを放出する。彼のギタープレイと出て来る音が同質なのが面白い。さっきまでフィーヴァー(死語)していた観客が意外にも大友氏の演奏をじっと眺め、大きな歓声で迎えたのが嬉しかった。
最後の目当のマニュエル・ゲッチングまで時間が空いたので会場をひと回りする。フェスのもうひとつの目玉、夏目漱石の「NATSUME SOSEKI/THE UNIVERSE」を観る。警備員に挟まれて漱石のホルマリン漬けの脳が展示してある。男女の漱石作品の朗読が流れ厳かな雰囲気。
▼NATSUME SOSEKI/THE UNIVERSE
フード屋台は会場の外に並んでいた。主宰者の宇川直宏氏直々のリクエストだというウミガメカレーを食す。味は普通のカレーと変わらなかったけど美味かった。
▼ウミガメカレー
もう夜中の3時過ぎ。会場のあちこちに横たわって寝ている人がいる。メインステージに戻ると七尾旅人氏が演奏中。数年前に灰野さんとの共演を観て以来、今ひとつ好きなれないでいたし、メディアで高く評価される理由が判らなかった。しかし昨年の震災に対する積極的な活動や、オーケストラTOKYO-FUKUSHIMAで接したり、坂田明さんのライヴで出会ったりするうち、なかなか熱心で才能ある若者じゃないかと見直してきた。彼の音楽はそんなに好きじゃないが、所謂メインストリームじゃない音が評価されるのもいいと思う。ゲストで出演した太田朱美嬢のフルートが素晴らしくて聴き入った。最後のラップ・グループのやけのはらとの共演はちょっと勘弁だが。
旅人氏が終わるとまた最前列へ。アシュ・ラ・テンペルのリーダー、マニュエル・ゲッチングが制作30周年を迎えた名作「E2-E4」を再演するのだ。このアルバムはマニュエルがギターとエレクトロニクスで作り上げたソロ作で、ミニマル/テクノ/アンビエントの先駆的名作として90年代に高く評価された。灰野さんと同い年で今年還暦を迎えるマニュエルはMETAMORPHOSEなどテクノ・フェスで何度か来日しているが観る機会が無かったので、今回は絶好のチャンス。PowerBookとシンセを並べたテーブルの前に座る彼のルックスは70年代当時とそんなに変わっていない。静かにスイッチを入れるとミニマルなエレクトロ・ビートが流れ出す。その心地よい繰り返しに身を委ねていると、時間が時間だけに意識が遠のきふらっと倒れそうになる。彼がトレードマークのSGを手にすると歓声が上がる。ジェリー・ガルシアを思わせるクリア・トーンの流麗なフレーズの奔流。文字通り天にも昇る気持ちよさ。それにしても広重氏、灰野さん、マニュエルとSG弾きが3人同じステージに立つというのも面白い。約1時間の「E2-E4」が終わるとアンコールに応え1977年アシュラ名義で発表されたSGジャケが印象的なアルバム「ブラックアウツ」から「Midnight on Mars」、さらに「Oyster Blues」という新曲を披露。90分の演奏をたっぷり堪能した。
終わったのは6時半。晴れ渡った外気が気持ちいい。目当のアーティストを全て最前列で観られたし会場や観客の雰囲気も良かった。震災支援の募金をして会場を後にした。
フリードミューン
楽しみ電車
寝過ごした
発表によるとイベント動員は1万数千人、YouTube/Google+での同時配信の総視聴者数は72万人という大成功。TwitterやUstreamといった最新メディアだけでこれほどの成功が収められるという世界的にも素晴らしいお手本になった。