六本木Super Deluxeに灰野敬二さんのソロライヴを観に行ってきました。今回は「エレクトロニクス&ハーディーガーディー」ソロということでギターは弾きません。前半はAir FX&Air Synth(アンテナのないテルミンみたいな円盤状の楽器。写真を参照して下さい)を各2台ずつ、ドラムマシンを2台使ったエレクトロニクスパフォーマンス。円盤の上にかがみこんで手の動きで音を変化させていくAir FX & Air Synthはまさにマジシャンの音。宇宙からの信号音、大地の叫び、町の雑踏、咽び泣く女、赤ん坊の泣き声、、、様々なイメージが広がります。
続いてハーディーガーディーの演奏。この楽器は中世ヨーロッパに起原を持つ昔の楽器で、ハンドルを回して弦を擦って音を出します。勿論灰野さんのこと、まともに演奏するわけはなく、弦をアルミホイルでくるんだりしてひたすらノイジーにギイギイと、下手なヴァイオリンの様な音を持続させ変化させていきます。以前灰野さんのハーディーガーディーライヴで眠ってしまって、例えようもない悪夢を実際に見たことがありますが、だいぶ慣れました。
最新の電子楽器でも中世の古楽器でも灰野さんが演奏すると灰野さんの世界になるのはさすがだと思います。
過去50年間、サックス奏者であり作曲家でもあるオリヴァー・レイクは、即興演奏と作曲の世界でリーダー的存在であり続けている。セントルイスの有名なブラック・アーティスト・グループ(BAG)の共同創立者であり、60年代後半から70年代初頭にかけてのブラック・アート・ムーブメントの一員として、レイクは芸術分野を超えた黒人実験主義者たちのパフォーマンスを組織する上で重要な役割を果たした。俳優、詩人、ダンサー、ミュージシャンなどがBAGに参加している。組織が解散した後も、レイクは人気の高いワールド・サックス・カルテットでジュリアス・ヘンフィル等のBAG卒業生と活動を続けている。レイクは今でも様々なグループとのコラボレーションを行っており、彼のビッグバンドでラッパーのOutkastやMystikalの曲を再解釈したり、今月開催されたBang On A Canマラソンでは完全即興セットで演奏したりしている。
『Right Up On』は、彼のインディペンデント・レーベルPassin' Thruからの最新作。このアルバムは、しばしば別ものとして考えられている伝統を融合させる彼のユニークな方法を強調している。このアルバムには、過去20年間に現代古典派ストリングスグループFLUXカルテットのために書かれた作品を収録。これらの作品の中で、レイクはスリリングで多様なアプローチを探求している。このグループのために書かれたスコアの中には、伝統的な書き出しのものもあれば、即興演奏を可能にするために図式的に表記されたセクションを持つものもある。
アルバムの3曲でレイク自身が弦楽四重奏団に参加しており、オープニングの「Hey Now Hey」、アヴァンギャルド・ブルースの「5 Sisters」、そしてラストナンバー「Disambiguate」で、すぐにそれとわかるアルト・サウンドを披露している。先日、ニュージャージー州モンクレアの自宅にレイクを訪ねた。リビングルームはアートや音楽の本に囲まれ、レイク自身の絵画が飾られていた。彼のアート作品は『Right Up On』のCDジャケットにもなっている。
A. セントルイスに住んでいた頃、ブラック・アーティスト・グループの後期に弦楽四重奏曲を書き始めました。その後、ニューヨークに引っ越してきて、リロイ・ジェンキンスと知り合い、デュオ・コンサートを何度もやっていました。私の心に響いたのは弦楽器というより、バイオリンだったと思います。リロイと出会い、一緒に演奏するようになってからは、そのことが前面に出てくるようになりました。
A. いいえ、「Hey Now Hey」は1998年に書きました。最も最近の曲は「2016」で、「Sponge」も同じく昨年書きました。「Einstein 100」は2005年に書きましたが、その年はアインシュタインが相対性理論を発表してから100周年にあたります。「5 Sisters」は2013年に作曲しました。曲から曲へと色彩を考えました。インストゥルメンタルの色の変化を意図したのです。1998年に書いた「Hey Now Hey」はFLUXが以前にコンサートで演奏したことがありましたが、レコーディングしたのは今回が初めてです。
Q. FLUXはその曲をあなたが参加しなくても演奏できるんですか?
A. ええ、私がいない時も時々演奏します。でも幾つかの四重奏曲では、敢えて私は参加しません。例えば「Einstein 100」のような曲は全く私は演奏しません。弦楽四重奏だけの表現を求めたからです。
Q. どのような文脈であれ、これらの曲では、演奏していなくても、あなたの音楽だとすぐわかりますね。
A. まあ、それは私の音楽の系統の一部であり、すなわちブルースだと思います。弦楽四重奏であろうと、4本のサックスであろうと、バンド「トリオ3」であろうと、ソロであろうと、私がすることすべてで私のサックスの音はブルースのラインを持っています。そして、自分の好きな様々なことをやって、それがアイデアから始まって、完成した作品となって終わるのを見ていると、とても成功していると感じるんです。私にとってそれは成功に等しい。経済的・金銭的な意味ではありませんが(笑)。また『Matador of 1st & 1st』という演劇の音楽を手がけた時もありました。
Q. レコーディング作品は知っています。強烈です。でも、演劇作品だったとは!?
A. 衣装替えやBGMや舞台設定がありました。ビデオがネットのどこかにあると思います。私はキャリアの中で、このように様々なプロジェクトをやってきましたが、とても楽しかったです。
Q. BAGを立ち上げた時は何歳だったのですか?
A. 30歳くらいでした。大学を卒業するのに時間がかかりました。何度も通い続けました。最終的に大学を卒業した時には、セントルイスの公立学校で教鞭をとり、小学校で3年間音楽を教えました。その頃ブラック・アーティスト・グループが始まったのです。
Q. 『Matador of 1st & 1st』のような、音楽と演劇が融合した作品は、BAGのアプローチの延長線上にあるのではないでしょうか?
A. そうですね、僕の大学、アーティストとしての大学はブラック・アーティスト・グループだったと思います。そこでやっていたことはすべて、自分のキャリアに繋がっています。「Put All My Food on the Same Plate(すべての食べ物をひとつの皿に盛る)」という詩を書きました。それは私のクリエイティビティの哲学というか、いろいろなプロジェクトをやり、自分のサウンドを爆発させるための異なるオーバーレイをもつことで、この社会の中で私がどのように機能しているかということを表しているのです。
A. ええ、同じ詩ですね。ジャンルが分断されていて、そのために観客も分断されていることについて述べています。それは良くないことですよね(笑)。なぜなら、全て一つのものであり、全ては一つのソースから来ているからです。創造性には、完全で正直なコミュニケーションが必要なんです。ジャズと呼ばれる音楽はそういうものだし、素直なコミュニケーションをしてはじめて、オーディエンスもそれを感じることができるのです。個々の表現のスタイルは本当は重要ではないと思います。ただ、それが自分の心の表現であるかどうかが重要なんです。
Q. BAGを立ち上げようと思ったきっかけは、AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)を立ち上げたシカゴのミュージシャンたちを訪ねたことですよね?
A. そうです。AACMに出会う前、セントルイスでほぼ毎日我々ミュージシャンのグループが集まってジャム・セッションをしていました。10人か15人くらい。セントルイスのフォレスト・パークという公園に美術館があって、その前で演奏していました。66年か67年頃のことです。私たちは組織化されてはいましたが、それはゆるやかな結びつきのようなものでした。その後、AACMに出会って、彼らがとても正式に組織されているのを見て、いいアイデアだと思いました。「僕等もグループがあるのに、自分たちの存在をアピールすることもなく、ただジャム・セッションをしているだけじゃダメだ」と思ったんです。
A. ええ、BAGは正式には3年か3年半くらいしか続きませんでした。私は1972年にパリに引っ越して、2年間滞在しました。そのあと1974年にニューヨークに移ったのです。
Q. アンソニー・ブラクストンのアリスタのアルバム『New York, Fall 1974』にジュリアス・ヘンフィルを一緒にサックス・カルテットの一員として参加したのはその時ですね。
A. そうです!それがワールド・サクソフォン・カルテット(WSQ)を始めるきっかけになったのか?と聞かれたことがありますが、実は、WSQを始めたきっかけは、ニューオリンズのキッド・ジョーダンというサックス奏者でした。彼は我々の4つのグループの演奏を聴して、我々全員を招聘したいと言ってきました。でも4つのグループを全部呼ぶ予算がなかったのです。そこで彼は「ニューオーリンズに来て、ニューオーリンズのリズム・セクションと一緒に演奏してくれ」と言いました。そして私たちはそうしました。
A. ええ、もちろんありますよ。最初に思い浮かぶのは、(ブルックリンの会場の)ルーレットですね。彼らこそ実例、事件です!(笑)。グループには、以前に起こったこと、そして今も起こり続けていることまでの連続性があります。AACMや黒人アーティストグループから、ビジェイ・アイアー Vijay Iyerのような若いミュージシャンまで。彼はトリオ3とレコーディングをしましたし、何度か一緒にライヴをしたことがあります。彼はミュージシャンズ・ミュージシャンで、細部にまでこだわりを持っています。レコーディングでは、ミックスの面で彼が重要な役割を果たしてくれました。彼の作曲、または我々の作曲につけ加えたものは何でも、クリエイティブで、とてもオープンなんです。
自己のグループCP Unitの最新作『One Foot On The Ground Smoking Mirror Shakedown』でハードコアジャズの新たな領域へと踏み込んだニューヨーク即興シーンの若手サックス奏者クリス・ピッツィオコスは他のミュージシャンとのセッションやコラボも精力的に行っており、その成果としてのレコーディング作品がデジタルオンリーでリリースされている。日本に於いてはフィジカルリリース(レコード,CD,カセット)がないとなかなか紹介される機会がないので、新作リリースに合わせてまとめて紹介しよう。最初の2作はBandcampでデジタルアルバムを購入できるのに加えてSpotify等サブスクリプションで配信されている。3番目はリンク先でDL可能。
⇒JazzTokyo CD Review『CP Unit / One Foot On The Ground Smoking Mirror Shakedown』
Devin Gray - Drums
Chris Pitsiokos - Alto Sax
Luke Stewart - Bass
1. Blast Beat Blues
2. Data Points Nowhere
3. Internet Explorer
4. Subtle Bully
5. Nevins all the way
Recorded May 11th 2019 by Juanma Trujillo at Douglass Recording, Brooklyn NY
Produced by Devin Gray & Zach Herchen (edit, mix & mastering)
Art work: Jussi Jääskeläinen
All compositions by Devin Gray (VonerMusic-BMI)
David Leon (Left Channel) - alto saxophone, piccolo, game calls, homemade instruments
Asher Kurtz (Center) - guitar
Chris Pitsiokos (Right Channel) - alto saxophone
1. Fixation 1
2. Fixation 2
3. Fixation 3
4. Fixation 4
Engineered by Zubin Hensler
Mixing and Mastering by Asher Kurtz
Recorded at Lethe Lounge on February 24, 2019.
Kikanju Baku - Drums on 1-3, Bass/Cello on 4
Chris Pitsiokos - Alto Sax/Percussion on 1-3, San Shin on 4
Luke Stewart - Double Bass on 1-3, Electronics on 4
1. Mountain Village Spry and Lissome (redux revise version)
2. Careen and Flit
3. Slink of the Jaguar
4. Leanan-Sidehe Love Lash
Recorded Jan, 2018 in a London living room
Produced by Kikanju Baku
1979年高校生の頃サンフランシスコの匿名音楽コンボ、ザ・レジデンツと出会い夢中になった。特に愛聴したアルバムは『ノット・アヴェイラブル Not Available』(78)だった。N.セナダという前衛音楽家の「曖昧性理論」に基づき74年に制作され、制作者がこの作品の存在を完全に忘れるまでリリースされない(アルバム『ザ・サード・ライヒンロール The Third Reich 'N' Roll』ライナーノーツより)とされていた作品である。N.セナダの存在自体がレジデンツの創作ではないかと噂され、リリース制限も「やらせ」っぽい気がするが、初期レジデンツの作品中で最も哀感のあるメロディと夢の中を彷徨うような朦朧としたサウンドが産み出す訳の分からなさは、聴くたびに展開を見失う健忘症状をもたらし、初体験とノスタルジアの軋轢で脳の一部が機能放棄する無明の悦楽に耽れる。それこそ「曖昧性理論」の本質だと感じた。80年代半ばまでレジデンツを追っていたが、85年の初来日公演を観てから、なんとなく聴かなくなってしまった。筆者が求める「曖昧性」のベールが剥がれてしまった気がしたのかもしれない。
The Residents - Not Available - 2CD pREServed edition
そんな悦楽の旅に誘ってくれる現行アーティストを某レコードショップのサイトで見つけた。「不思議の国の森林状況レポート」とコメントされたケミアリセット・イスタヴァト Kemialliset Ystävät(ケミカル・フレンズ=化学の友人)という覚えにくい名前の音楽ユニット。1995年にフィンランドの地方都市タンペレ出身のミュージシャン、ヤン・アンデルセン Jan Anderzénを中心に結成された。ギター、マンドリン、バラライカ、ハンド・パーカッション、ハルモニウム、玩具、サン・ラやシュトックハウゼンのサンプリング、ポエトリー、エレクトロニクス等様々な楽器を使って産み出すサウンドは途轍もなくカラフルでストレンジな手工業音楽。曲によってはレジデンツやスロッビング・グリッスル、大竹伸朗よりもポール・モーリアやふきのとうに近いラヴリーポップなメロディも飛出し、一筋縄では語れない迷宮入りの音楽性と曲と曲の繋がりすら暮夜けてしまう躊躇い溢れる展開は「曖昧性理論」の源流を遡って進化した異形のスピリット(精霊)が息づいている。サウンドにさらなる曖昧模糊のスパイスを振りかけるのがビデオクリップ。
『Kemialliset Ystävät / Sunroof! – Split Series #19』
(FatCat Records – 12FAT076 / 2008)
A1 –Kemialliset Ystävät : Taivaassa On Loivemmat Mäet(天国のなだらかな丘)
A2 –Kemialliset Ystävät : Hyvällisen Tähdellistä(よくやった)
A3 –Kemialliset Ystävät : Yöllä Tulen Ja Raapasen Tulen Karvoihin!(夜に髪に火を点けてひっかけ!)
A4 –Kemialliset Ystävät : Pirtua Raamatun Kansissa(聖書の糞野郎)
A5 –Kemialliset Ystävät : Tässä Maassa Kun Näin Makailen(あなたが横たわるこの地球で)
B1 –Sunroof! : Little Ornamental Lake Of Death
B2 –Sunroof! : Spiritual Forgery
B3 –Sunroof! : Extinction Fantasy