1985年に発刊された本で、今まで書庫に眠っていた。花粉症などの薬が切れたので、病院に行く必要が生じ、しかし病院では最低でも一時間は待たされるので本を持っていこうと目についたのがこれ。
日本の女性画家は、上村松園、ラグーザ・玉、山下りんの三人が紹介されている。山下りんはロシア正教会のイコンを描いた画家として知っていたし、また上村松園は有名でこの人の絵は何度も見ている。知らなかったのはラグーザ・玉である。ただ、知っているといっても詳しくは知っていないので、新たに教えられたことも多い。
上村松園は独身であるが子どもがひとりいたこと、宮尾登美子が松園のことを新聞小説で書いたこと、「日本は一貫して個人には興味がな」く、作者は女性を「性的対象として興味を」もつのだが、松園の美人画は、「性的対象」としてではなく、「はじめて生活している女を描」いた。松園の絵は、「彼女が、生きられなかった女の生を描いている」という。
ラグーザ・玉は、西欧彫刻を教えに来たラグーザと結婚し渡欧。玉は、絵画の才能を花開かせ、数々の受賞歴をもつ。1927年夫が亡くなったことから帰国を考えるがローマの日本大使館は拒否、それが契機となって日本語を失う。1933年に帰国した。
全部で12人の女性画家が紹介されているが、私はケーテ・コルヴィッツに関心を持った。彼女にとって「美しいもの」とは、貧しき人びと、労働者、老人などであり、決してイデオロギーで描いたのではない。若桑は「イデオロギーが先行するとき、芸術は死ぬ。芸術とは恐ろしく人間的なものであり、徹底して美的なものである」と書くが、ケーテ・コルヴィッツが版画で描いた人たちを、彼女は「美しいもの」ととらえ、だからこそ描いた。彼女の版画は、韓国や中国の抵抗の版画などにつながっている。
一冊の本を読むだけで、いろいろなことを教えられる。知らなかったことを知るようになる。若桑は『ケーテ・コルヴィッツ』という本を書いている。読んでみようと思う。
とても良い本である。
山下りんは、