浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

「新しい地平を」

2024-06-22 21:59:09 | 

 今日の『東京新聞』書評欄に、珍しく、マルクスの『経済学・哲学草稿』が、出ていた。同社の記者が推薦したものだ。

 高校生から大学生にかけて、また歴史研究に従事するなかで、私も同じ世代の人びとと同じように、マルクスやエンゲルス、レーニンを読んできたし、またマルクス主義に関わる著作もたくさん読んできた。社会科学に関心のある者は、マルクス、エンゲルス、レーニン、さらにマックス・ウエーバーをも読みこなしていた。

 私は高校時代、社会科学研究会(社研)という、高校に認可されていないサークルの一員であった。主に、私より一年上の学年の人たちがそこには集まっていた。彼らにはいろいろなことを教えられた。なかでも、Kさんは、個人個人に貸し与えられたロッカーにベトナム戦争関連の本を入れていて、自由に読んでくださいと、いつもあけていた。

 私たちがマルクスなどを読んだ背景には、アメリカによる容赦ないベトナムへの侵略戦争があったと思う。私も、ベトナム戦争反対の運動に関わり、当初はバートランド・ラッセル平和財団のシールなどを購入していたが、のちに浜松ベ平連にも関わるようになった。板屋町にあった喫茶店のマスターなどが中心にいた。

 本稿は、そういう昔話をするためのものではなく、『地平』創刊号に掲載されている酒井隆史の論文の紹介である。「“過激な中道”に抗して」という表題である。

 アメリカには、Nationという雑誌がある。以前は私もアクセスしていたが、最近はまったく見てもいなかった。左派系の良心的な雑誌である。2022年、社長に32歳のバスカー・サンカラが就任したという。同誌も出版部数が減っていたが、サンカラが社長になってから復活したという。

 サンカラは、それ以前、2010年Jacobin(ジャコバン)という雑誌を創刊していた。サンカラは、2009年ジョージワシントン大学で歴史学を学んでいたが、体調が悪化したことから一年間、西洋マルクス主義と社会主義文献をひたすら読んだ。そして発刊したのが、Jacobinであった。そこでは「なによりもマルクシズムをベースとしながら大衆運動とそこから生まれた知的模索の歴史がいくども検証され、現代化する努力がつづけられていた。」このJacobinの論調に、酒井は全面的に賛同は出来ないとしながら、「学ぶべきものは多い」としている。

 サンカラは、Jacobinは「中道」ではなく、「親しみやすさ」と「政治的真剣さ」をあわせもった、ポスト資本主義としての「ソーシャリズム」を打ちだした、という。

 1990年代のイギリスのブレア政権以降の「リベラリズム」の政治は、「過激な中道」といわれる。実質的には「現存の経済・政治システムの保全に貢献する」新自由主義で、みずからを「穏健」と見せながら(みずからを「穏健」だと信じこんでいる!)、実際には「全体主義」的な様相を呈している。

 現在の日本も、以前の「左翼」は、「リベラル」と呼ばれることを喜ぶようになっている。「穏健」とみられたいという欲望が広汎に広がっている、というのが酒井の見たてである。

 立憲民主党を「リベラル」とする人が多い。もし新自由主義的な政策を積極的に打ちだす立憲民主党が「リベラル」なら、私はリベラルではない。対米隷属を是とする立憲民主党が「リベラル」なら、私は対米自立を志向するから、私は「リベラル」ではない。私は、「リベラル」と呼ばれるより、「左翼」と呼ばれたい。

 『地平』の創刊特集は、「コトバの復興」である。「左翼」という呼称も、「復興」したいと思う。

 アメリカでは、Jacobinに若い世代が参加して、マルクス主義などをベースにこの腐臭を放つ資本主義のその先に、「ソーシャリズム」を展望しているという。いいじゃないか。私も、『経済学・哲学草稿』を読み直してみようか。

 

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