11月21日、WBN(早稲田ビジネスネット横浜稲門会)の分科会に参加してきました。今回の講師は早稲田大学OBで、そしがや大蔵クリニックの中山久徳さん。実は早稲田大学には医学部がありません。しかし、同大卒の医師からなる「稲門医師会」には150名ほどの会員がいらっしゃるそうです。そう言えば僕の後輩も第一文学部から医師になっていますので、意外と身近にいるのかもしれません。
さて、今回のテーマは表題にもある通り、「働き盛りのみなさんにおくる健康と医療の話」。医療の側から見た、現在の高齢化社会について。そして「健康長寿社会」実現に向け、今心がけるべきことについてお話しいただきました。働き盛りと言っても20年~30年もすれば高齢者になる我々にとって、むしろ「今聞くべき」お話でした。
言うまでもなく、我が国の平均寿命は1947年以降一貫して伸び続け、今や男女ともに世界第二位の長寿国となっています(女性:86.61歳、男性:80.21歳。因みに一位は香港)。そして、先進国ではスペイン、イタリアに次ぐ高齢化国でもあります。しかし、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる「健康寿命」という観点で見ると、女性74.21歳、男性71.19歳で、平均寿命との比較で女性が約12歳、男性が約9歳の開きがあります。不可避の高齢化社会にあっては、我々がいかに元気で長く生きられるかという「健康寿命」に着目することが重要なようです。
この数字を裏付けるように、「要介護認定」は2003年から10年で1.54倍に増加しています(グラフをクリックすると拡大します)。
そしてその主な原因は、脳卒中17%、認知症16%、骨折・転倒12%、関節疾患11%となっています(グラフをクリックすると拡大します)。脳卒中に次いで割合の高い認知症ですが、2013年現在認知症患者は462万人おり、内6割がアルツハイマー型(海馬が委縮する)と言われています。先日参加した、「第7回筆跡アドバイザーマスターズ研究会」でも話題になったのですが、認知症の早期発見に筆跡診断を役立てることができないか、個人的に関心を持っているところです。また、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβ蛋白質の除去には質の良い睡眠と、それを導入する適度な運動が大切だということです。もちろん、人とのふれあいも大切です。
主要な死因は長年、悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患と言われてきましたが、2011年以降、肺炎が脳血管疾患を抜いています(グラフをクリックすると拡大します)。癌は医療技術の進歩により、種類によって治る病気となってきており、早期の発見と治療が大切だということです。また、癌の外的発生要因としては、食事(食品添加物やトランス脂肪酸の過剰摂取は別枠)が35%、喫煙が30%、感染症(ピロリ菌、B型肝炎など)が10%で、これら3つで全体の75%を占めています(ただし、外的要因は癌全体の35%と言われています)。食事は何よりバランスよく、偏らないことが大切だということです。データによれば外的要因として紫外線を浴びることの割合は非常に低く、そう考えると紫外線を極端に忌避する昨今の風潮は行き過ぎなのではないかと、個人的に考えてしまいます。
肺炎の増加は、これも高齢化が進んでいることの表れのひとつだと思いますが、現在抗生物質の過剰処方が問題となっているようです。抗生物質とは細胞膜を破壊することによって病気を抑える薬なので、そもそも細胞膜を持たないウィルスには効かない、それどころか抗生物質に耐性をもつウィルスを増やす悪循環に繋がっているそうです。
上のグラフは、人口10万人単位の年齢階級別死因(上位10位)です(グラフをクリックすると拡大します)。悪性新生物、心疾患、肺炎、脳血管疾患が多いのは先ほど見た通りですが、注目すべきは20代から60代にかけての自殺(赤色)の多さです。上位10位までとはいえ、特に30代に至っては死因の実に42%に達しています。今回のタイトルに「働き盛り」とありますが、まさにこの働き盛りの世代に自殺が多いのは深刻な社会問題と言わざるを得ません。
国民医療費が42兆円、一人当たり33万円に達している現在。人々が長く生きるだけでなく「健康に生きる」ための社会的課題は実に多くかつ複雑なようです。医療の立場からだけでも、基礎医学、医療経済、医療倫理、介護・障碍者医療、医療教育、治療技術など、様々な課題に直面しているのが、我が国の現状であるということでした。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした