窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

連合の理論-第55回燮(やわらぎ)会

2022年06月19日 | 交渉アナリスト関係


 6月18日、第55回燮会を開催しました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。2016年から始まった横浜での開催(2020年は中止)、今回で6回目となります。過去の横浜開催の内容については、下記をご覧ください。

【過去の横浜開催】
第48回燮会
第42回燮会
第37回燮会
第32回燮会
第27回燮会



 さて、通常の燮会(2時間)より時間の取れる横浜開催(4時間)。第1部は、第49回燮会でもお話しいただいた、1級会員の篠原祥さん。交渉そのものを生業とされている篠原さんから、「実践的交渉戦術と実例」と題し、最近の燮読書会で取り上げたロジャー・ドーソン著『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』、また昨年の第48回燮会で取り上げた、『キッシンジャー超交渉術』で説かれている交渉術やフレームワークの具体的事例をお話しいただきました。



 事例1のテーマは、「決定権を持たない人への対応」。『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』からのキーポイントは、

1.自分が決定権を持っていることを相手に知られてはいけない。
2.あなたの高次権威は、個人ではなく漠然とした組織であるべき。

の2つでした。

 事例2のテーマは、「相互利益の交渉術」。海外のシンクタンクとの協力関係に関する事例で、キーポイントは、

1.相互利益とは、双方が等しく譲歩することでも、双方が等しく得ることでもない。
2.お互いに相手が負けたと思っていても、双方が勝ったと思えば、相互利益である。
3.相手が自分と同じものを望んでいると思い込まないこと。
4.交渉中に最も重要な思考は、「相手に何を与えてもらえるか」ではなく、「自分の立場を崩さず、相手にとって価値のあるものは何か」である。相手が望むものを与えれば、相手もあなたが望むものを与えてくれるだろう。

の4つでした。



事例1のテーマは、「広角的な見方を取り入れる」。第48回燮会でお話しした「3D交渉」の事例です。『キッシンジャー超交渉術』からのキーポイントは、

1.戦略を立てる際には「広角レンズ」を使って、関連が予想される関係者すべてを分析しよう。
2.交渉の準備をする時には、面前の相手だけではなく、交渉の成功率を上げてくれそうな他社に注意を向けよう。
3.有能な交渉者は、戦略的枠組みから「ズームアウト」する能力を育むと同時に、交渉相手に鋭く「ズームイン」する習慣を身につけるべきだ。そうすれば、ミクロの視点とマクロの視点が生産的な方向で連携できるようになる。

 3D交渉の提唱者、ジェームズ・セベニウスが推奨する通り、視野を広げて「全当事者相関図」を描き、「逆方向マッピング」によって、交渉目的を達成するための交渉順序を組み立てる。この非常に高度な交渉についての具体的なお話は大変興味深いものでした。



 休憩を挟み、第2部に入る前に、日本交渉協会名誉理事、国際基督教大学名誉教授の土居弘元先生より、昨年お亡くなりになった日本の交渉学の祖、藤田忠先生のお話と交渉学の歴史的流れについてお話しいただきました。先生からは実務家の立場からの交渉学を深めていって欲しいとの言葉を頂きました。



 続いて第2部は、毎回担当している「交渉理論研究」。第17回のテーマは、「連合形成」。最初に3人の交渉者が連合形成と、連合によって得られる得点の分配を決める交渉のロールプレイを行いました。



 二者間交渉と比べ、たった一人のプレイヤーが増えるだけで交渉は格段に複雑になります。30分の交渉を終えた後、各グループの結果を見ながら、以下のようなテーマで振り返りを行いました。

1.各グループでは、プレイヤーのパワーをどのように捉えていたのか?
2.その認識が交渉にどのような影響を及ぼしたのか?
3.(利己的に考えれば二者連合の方が得になるのに)三者連合を選択した理由は?
4.得点の配分は誰がどのように決めたのか?



 このロールプレイは各自が自己利益の最大化だけを追求すれば、二者連合の方が得点が多くなるように設計されています。しかし、今回の場合、全てのグループが三者連合で合意しました。分配については、1つのグループを除いて各プレイヤーのパワー関係に応じて得点が決められたようです。二者連合の過当競争に陥らないよう、最初に三者連合目指すことに合意したグループ、最もパワーを持っているプレイヤーがそのパワーを自己利益の最大化ではなく、平等を基準とした分配に他のプレイヤーを合意させるために行使したグループ、最もパワーが弱いと思われたプレイヤーがキャスティングボードを握ることによってパワーを行使したグループ。グループによってさまざまな交渉の形がみられました。

 この「交渉のパワー」は、ロールプレイから学ぶ重要ポイントの一つです。多数者間交渉におけるパワーの源泉として、以下のようなもの重要であるとロールプレイを通じて実感できたのではないかと思います。

1.パワーに対する認識
2.コミュニケーション
3.客観的基準
4.BATNA
5.明確かつ具体的なコミットメント



 最後に、上記の得点配分における「客観的基準」について、”Negotiation Analysis”で取り上げられている幾つかの解決策についてお話ししました。

1.安定した配分
2.シャープレイ値
3.H.ライファの折衷案





 今回は3年ぶりに懇親会も開催(乾杯撮影用にマスクを外しています)。おかげさまで大変有意義な時間を過ごすことができました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
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