2022年12月3日、半蔵門のシェアオフィス「パズル一番町」とオンラインのハイブリッドで行われた、第19回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました。
今回は、上智大学、法科大学院、および社会人向け講座で交渉学を教授しておられる森下哲朗先生より、「大学対抗交渉コンペティションから見た交渉スキルの課題と交渉教育の必要性について」と題してお話しいただきました。
まず「大学対抗交渉コンペティション」についてですが、意外にも歴史は古く、2002年から行われているそうです。現在でもそうですが、日本の大学において交渉学が教えられているケースは少なく、交渉に対する社会に関心を高めると共に、学生が交渉を学ぶ動機付けとするため設立されました。
つい最近第21回大会が行われましたが、年々そのレベルは高まっているそうです。コンペは日本語の部と英語の部があり、海外を含む27大学が参加。4名~6名から成るチームで競われます。チームを一つの会社と見立て、役割分担し、国際ビジネスを題材としたロールプレイを準備から本番まで約2ヶ月にわたって行います。
ビジネスプランの発表会ではないので、交渉の内容そのものに重点を置いて審査がなされます。具体的には、目標設定、交渉方針、相手方についての理解、説得の仕方、交渉戦略、相手との関係、合意、チームワーク、交渉態度、自己評価が優れたものであったか基準とされます。(合意バイアスや経験不足など)若さや学生であることが影響してか、過去の大会では交渉態度、目標設定、チームワークなどは安定して高い評価を得ている一方、相手との関係については大会ごとの参加者によってバラツキがあるようです。逆に一貫して評価が低いのは戦略、合意、提案など。特に日本の学生は合意内容を明確にするのが苦手なようです。
『ハーバード流交渉術』で交渉理論の成果を広く一般に普及することに貢献したロジャー・フィッシャーは、あらゆる交渉に含まれる、相互に関連した以下の7つの要素(交渉の7要素)を特定し、交渉をより広い視野で捉え、質の高い合意をするための縁としました。学生にも基本的にこの7要素に沿って交渉が教えられています。
1.関心(Interests)
2.代替案(Alternatives)
3.関係(Relationship)
4.選択肢(Options)
5.正当性(Legitimacy)
6.コミュニケーション(Communication)
7.コミットメント(Commitment)
一方、交渉を学んだ学生が抱いている課題には、次のようなものが浮かび上がっています。
1. どのように相手から情報を得、どの程度自分の情報を開示すればよいのか?
2. 効果的な相手への伝え方。
3. 譲歩の仕方、タイミング。
4. どの水準で合意すればよいのか?
5. 交渉プロセス、相手との関係。
6. 戦略。
7. ハード・ネゴシエーターへの対処。
これらの課題は、実務交渉を積んでいる社会人であっても多くの人に共通するのではないでしょうか?しかし、残念ながら交渉に「これでなければ」という答えはありません。判断の基準として原則を抑えること、原則はコンテクストに応じて順用も逆用もあり得るということを「当然」だと思うことが大事だと思います。普遍的な答えがないから無意味だということにはなりません。
交渉学はアートとサイエンスの両方を含む学問であるがゆえ、そこに教える際の難しさがあるようです。しかし、交渉学が有益であるのは、2500年の時代を超えてなお『孫子』が現代のビジネスマンにとって有益であるのと同じだと思っています。例えば、『孫子』に「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを睹ざるなり(作戦篇)」とあります(例えば、1991年の湾岸戦争)。しかし、これは兵力優勢である場合の「原則」であることを心得ておく必要があります。仮に自分が劣勢である場合、それこそ「兵の勝つは、実を避けて虚を撃つ(虚実篇)」とあるように、持久戦に持ち込むことで相手の「実」を「虚」とすることもあり得るのです(例えば、1955年~75年のベトナム戦争)。何故なら状況が違うからです。
交渉学を学び、現実に活かす場合にも同じことが言えるのです。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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