ナカノ株式会社にとって、7月は大事な節目の月です。つまり7月は創業月であり、会計年度は4月からでありながら、当社では辞令交付など様々なイベントがこの7月に合わせて行われます。2010年に始まった「キックオフミーティング」もその一つです。
キックオフミーティングは、社員のみが一同に会することのできる貴重な機会です。そのため、社員同士の親睦を深められるような様々なイベントを毎年企画しています。最近は僕もこの7月を越えなければ何となく落ち着かない気がしてくるようになりました。
さて、2016年度は『ボーナンザ』というドイツ生まれのカードゲームを行いました。ボーナンザについては、当ブログでも「ボーナンザ(BOHNANZA)-遊びながら交渉を体感する」でご紹介していますが、一言でいえば手持ちの札と山から引いた札をうまく使いながら、畑で豆を育て収穫し、コインに換金することで獲得コイン数を競うゲームです。
シンプルに見えますが、独特の制約があるため理解するまでに結構苦労します。練習ラウンドを設け、やりながら理解するというのが良いと思います。とりわけこのゲームの特徴は、豆を育てるにあたって他のプレイヤーとの交渉が避けられないという点にあります。したがって、プレイヤーには必然的にコミュニケーションが求められます。
練習ラウンドの後、今回は2回の本番ラウンドを行いました。第1ラウンドは、元のルール通り、チーム内で個々のコイン獲得数を争いました。
続いて第二ラウンド。基本的なルールは同じですが、今度は一つだけ条件を付けました。個々でコインの獲得数を競いつつも、チームとしての総獲得数も評価に加えるというものです。
交渉と言うと、一般にはできる限り情報を秘匿し、自分の利益を最大化するように相手を説得すること、というイメージを持たれることが多いかと思います。これは「分配型交渉」と呼ばれる交渉の一形態です。しかし、それとは別に交渉には「統合型交渉」と呼ばれる形態もあります。
分配型交渉が基本的にパイの奪い合いであるのに対し、統合型交渉は交渉を通じてお互いの利益を増やす道はないか、つまりパイそのものを大きくすることはできないのかということを模索します。
そのために、交渉当事者は自分が何を求めているのかを開示しながら互いに協力行動をとる必要があります。しかし、たとえ統合型交渉とは言っても、個人成績も評価対象となっているため、お互いに魅力ある提案を出せなければ交渉は容易には成立しません。
問題は、果たしてこの「統合型交渉」によって、本当にパイは増えるのか?ということです。1チーム4名または5名構成の11チーム、合計52名でプレイしたその結果は、11チーム中10チームで第2ラウンドの方がコインの獲得数が増えました。全体では、第1ラウンドのコイン獲得総数429枚に対し、第2ラウンドでは514枚と約20%の増加でした。中には、第1ラウンドと第2ラウンドでコインを倍に増やしたチームもありました。
もちろん、この結果にはゲームに対する慣れということも影響していると思います。しかし、第1ラウンドと第2ラウンドのコイン配分の不平等を計測したジニ係数は、0.193から0.182へと改善しており、個々の獲得コイン数の格差もわずかですが縮小していたのです。もし、コインの増加が習熟による影響であり、協力とは言っても本音では各々が自己の利益を追求していたのだとすれば、ジニ係数が拡大していてもよさそうなものです。
当社の行動指針に「他利自得」という言葉があります。読んで字の如くですが、後で感想文を読むと、多くの社員が第2ラウンドの条件を提示された時点で統合型交渉とは「他利自得」のことであると理解していたようでした。
「個人も大事だが、チームとして協力して成果を出すと達成感があって楽しい」という声も多くありました。実際、社会的関係における感情の働きについて調べたRillingらによる2002年の実験によれば、自分と相手が相互に協力し、どちらも得点を獲得できた場合に、快感情と関係が深い腹側線条体に強い活動が測定されたのだそうです。
また、このゲームを通じて当社の役職名となっている変革、同人、大観、琢磨、和声につながる気付きを得た社員も大勢いたようでした。その一部をご紹介したいと思います。
「このゲームは、独自にルールを設定することで別の楽しみ方も可能なのではないか?」、この視点は「変革」と言えます。
「チームのまとまりが良くても、良い成果を出すためには方向性や方針を示すリーダーが必要」、この視点は「同人」と言えます。
「目先の利益ばかりを追うのではなく、チームとして成果があげられるよう長い視点で考える」、この視点は「大観」と言えます。
「自分を知り、相手を知る。魅力を感じてもらえるような提案を工夫し、相手に自分にない良い視点があれば取り入れる」、この視点は「琢磨」と言えます。
「個人の利益を追求しつつ、チームとしての成果を上げるため、メンバーと協力しなければならない」、この視点は「和声」と言えます。
半日研修の後は、場所を移しての懇親会。新入社員の紹介や辞令交付なども行われました。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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