2月1日、第2回燮読書会に参加しました。オンラインでの開催で、今回も東京、神奈川、岐阜、石川、長野など各地から参加がありました。
さて、第2回はローレンス・E.サスカインド著、『ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術---信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則』(ダイヤモンド社、2015年)の後半です(前半については、前回の記事をご覧ください)。
第4章:交渉相手の勝利宣言を思い描け-自分にとって最高の条件を、相手に納得してもらう
第5章:交渉にファシリテーションを活用せよ-自分の立場を守り、合意が崩れないようにする
第6章:組織の交渉力を高める-常に交渉を有利に進められる企業になるには?
今回もファシリテーターの波戸岡さんがサマリー資料を作って下さいました。お忙しい中、本当にありがとうございます。
これを元に、早速ブレイクアウト・ルームに分かれてディスカッションを行いました。
・アメリカでは、調停者がビジネスとして成り立っている。この点は日本と違う。
・大企業では確かに内部交渉に多大な労力がかかる。
・嘘を嘘であると指摘することが本当に良いことなのか?
・全体として内容がとりとめもない。
等々、様々な感想が飛び交いました。ここでのディスカッションの良い点は、参加者が持つ様々な交渉経験を共有できることです。
つづいて、今回の範囲に関連する交渉理論面の補足を行いました。今回のトピックは、
・対立する利害関係者間の調整プロセスをいかに構造化するか?
激しく対立する交渉を進めるのに、中立的第三者による調停を提案している交渉の本は数多くあります。また、具体例として単一交渉草案(SNT)のような手法が取り上げられることもあります。しかし、具体的に調停者がどのようなプロセスを辿って対立する利害関係者を交渉テーブルに着けたのか、あるいは合意に結び付けたのかを構造的に説明したものは、今のところ出会えていません。
そこで、今回はL.キーニーの1994年の論文” Creating Policy Alternatives Using Stakeholder Values”より、キーニーらが”PrOACT”と呼ばれる意思決定フレームワークを用いて、いかにして対立する利害関係者を交渉テーブルに着かせたのかについて、お話ししました。
なお、論文中ではキーニーが”PrOACT”を使用したとは明示されていません。しかし、その内容が”PrOACT”のプロセスに即したものであること、キーニー自身が”PrOACT”の提唱者の一人であることなどから、キーニーが”PrOACT”を用いたと考えても差し支えないと思っています。“PrOACT”については、「第42回燮会」で採り上げました。また、「交渉アナリストニュースレター 2020年2月号~8月号」でも採り上げておりますので、詳しくはそちらをご覧ください。
2020年2月号
2020年4月号
2020年6月号
2020年8月号
キーニーらが中立的第三者として手掛けたのは、1991年、東マレーシア・サバ州に残る原生林「マリアウ・ベイシン」で発見された石炭鉱脈の開発をめぐり、その予備調査をどのように行うかというものでした。彼らが優れていたのは、考えられる全ての利害関係者の代表を意思決定プロセスに参加させ、“PrOACT”に則って各利害関係者の持つ関心を深く洗い出し、誰ものけ者にすることのない代替案を創出する下地を整えたことです。
もちろん、全ての利害関係者を参加させることが常に正解とは限りません。1996年、北アイルランド和平交渉にあたり、調停者のジョージ・ミッチェルはあえて過激な右派と左派を外すことによって大多数の中道連合を形成し、和平を実現させました。しかし、ミッチェルとキーニーのアプローチで共通しているのは、対立する利害関係者に共同作業を行わせ、そのコミュニケーションの過程で、共同で問題を解決しようという雰囲気を作り上げたことです。この点が、今回のポイントになります。
個人的な話ですが、僕は仕事でサバ州を訪れたこともあるので、その意味でもこの論文は興味深いものでした。
第2回も参加された皆さんからは、
・書籍の内容をきっかけに皆さんの体験が共有できて良い
・交渉の書籍を読むこと自体が良い
・自分では気づかない交渉の方法が得られる
・もう少し読む範囲を分けても良い
といった感想が寄せられました。
第3回は2022年4月開催予定、本も2冊目に入り最近翻訳が出されたばかりの、この本が選ばれました。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした