都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ルオーと音楽」 松下電工汐留ミュージアム 1/8
松下電工汐留ミュージアム(港区東新橋1-5-1)
「ルオーと音楽 -悪の華/回想録- 」
2005/12/17~2006/1/29
汐留の松下電工ミュージアムにて開催中の、「ルオーと音楽」展です。展示作品は、同ミュージアムのルオーコレクションから出された約数十点の油彩や版画などですが、その内容は、タイトルの「ルオーと音楽」よりも、むしろ副題の「悪の華/回想録」の方が適切に表します。やや誤解を与えそうなタイトルです。
ルオーと音楽の直接的な関係については、キャプション等で簡単に説明されていました。ルオーに芸術一般を教授したというルオーの祖父アレクサンドル、そしてピアノのニス塗り職人であったという父、さらにはピアノ教師としてルオーにもピアノを教えたというその妻マルト、そして楽器の嗜みこそなけれども、創作の際にはいつもバッハやモーツァルトを聞いていたというルオー自身。また会場では、ルオーの版画が表紙等に印刷された、当時の世俗歌の楽譜が数点展示されています。(その楽譜から起こしたという歌も、スピーカーより流されていました。)ただ、この他には、ルオーと音楽の関係を示すものはあまりありません。強いて言えば、ルオーが挿絵集を手がけたボードレールの「悪の華」が、「詩の音楽的特質を捉えたもの」という説明がなされている程度です。ルオーと音楽との繋がりについての展示には、やや物足りなさを感じます。
展示の後半にあたる「回想録」シリーズと、ボードレールの「悪の華」の挿絵集が、この展覧会のハイライトでした。「回想録」では、ルオーが手がけたボードレールの肖像画、その名もズバリ「ボードレール」(1926)が一番見応えがあります。少し前屈みとなって、やや憂鬱そうに見つめるボードレール。彼の写真と並べて展示されていますが、版画においてもその雰囲気が巧みに伝わっていることが分かります。顔の部分の、立体的に陰影の付けられた表現も見事でした。
「悪の華」では、パンフレット表紙でも紹介されている「骸骨」(1926)が特に魅力的に見えます。ルオーの版画はどちらかと言うと、生き生きとした表現で人物を捉えた作品よりも、その人となりを静かに、重々しく、しかし優しく伝えてくるものの方が、私にとってはより感動的(まさに「ボードレール」のように。)なのですが、この作品の滑稽さは、それに負けないほどの魅力がありました。骸骨がそれはもう嬉しそうに、ピョンピョンと飛び跳ねているかのような様子。もちろん表情も生き生きとして、人間をあざ笑うかのようにこちらを見ています。版画では一押しの作品です。
版画集では、「ユビュ爺の再生」シリーズも興味深い作品です。アレフレッド・ジャリ(1873-1907)原作の「ユビュ」は、植民地支配下の苦しい黒人生活と「搾取」に励む白人の対比という、社会的テーマを含んだ作品とのことですが、ルオーの描く黒人たちの姿は、それこそ「骸骨」に繋がるかように、どれも生気に満ちあふれて描かれています。アニメーション的な動きを思わせるほど躍動感に満ちた、「バンブーラの踊り」(1928)や「解放された黒人」(1928)などに惹かれました。
油彩画では、お馴染みのサーカスのシリーズなど、前回見た「ルオーと白樺派」の展示と重なる作品も多く並んでいましたが、一目見ただけではルオーとは分からないような、初期の作品の「ゲッセマニ」(1892年)には驚かされました。これは、国立美術学校時代の作品とのことですが、ルネサンスを思わせるような画風や、師のモローを連想させるタッチが面白く、また独特な油彩の厚塗りも見られません。主題こそ、後のルオーの関心の所在を示すようですが、この味わいは新鮮でした。
15日にはレクチャーコンサート等も予定されているそうです。今月29日までの開催です。
「ルオーと音楽 -悪の華/回想録- 」
2005/12/17~2006/1/29
汐留の松下電工ミュージアムにて開催中の、「ルオーと音楽」展です。展示作品は、同ミュージアムのルオーコレクションから出された約数十点の油彩や版画などですが、その内容は、タイトルの「ルオーと音楽」よりも、むしろ副題の「悪の華/回想録」の方が適切に表します。やや誤解を与えそうなタイトルです。
ルオーと音楽の直接的な関係については、キャプション等で簡単に説明されていました。ルオーに芸術一般を教授したというルオーの祖父アレクサンドル、そしてピアノのニス塗り職人であったという父、さらにはピアノ教師としてルオーにもピアノを教えたというその妻マルト、そして楽器の嗜みこそなけれども、創作の際にはいつもバッハやモーツァルトを聞いていたというルオー自身。また会場では、ルオーの版画が表紙等に印刷された、当時の世俗歌の楽譜が数点展示されています。(その楽譜から起こしたという歌も、スピーカーより流されていました。)ただ、この他には、ルオーと音楽の関係を示すものはあまりありません。強いて言えば、ルオーが挿絵集を手がけたボードレールの「悪の華」が、「詩の音楽的特質を捉えたもの」という説明がなされている程度です。ルオーと音楽との繋がりについての展示には、やや物足りなさを感じます。
展示の後半にあたる「回想録」シリーズと、ボードレールの「悪の華」の挿絵集が、この展覧会のハイライトでした。「回想録」では、ルオーが手がけたボードレールの肖像画、その名もズバリ「ボードレール」(1926)が一番見応えがあります。少し前屈みとなって、やや憂鬱そうに見つめるボードレール。彼の写真と並べて展示されていますが、版画においてもその雰囲気が巧みに伝わっていることが分かります。顔の部分の、立体的に陰影の付けられた表現も見事でした。
「悪の華」では、パンフレット表紙でも紹介されている「骸骨」(1926)が特に魅力的に見えます。ルオーの版画はどちらかと言うと、生き生きとした表現で人物を捉えた作品よりも、その人となりを静かに、重々しく、しかし優しく伝えてくるものの方が、私にとってはより感動的(まさに「ボードレール」のように。)なのですが、この作品の滑稽さは、それに負けないほどの魅力がありました。骸骨がそれはもう嬉しそうに、ピョンピョンと飛び跳ねているかのような様子。もちろん表情も生き生きとして、人間をあざ笑うかのようにこちらを見ています。版画では一押しの作品です。
版画集では、「ユビュ爺の再生」シリーズも興味深い作品です。アレフレッド・ジャリ(1873-1907)原作の「ユビュ」は、植民地支配下の苦しい黒人生活と「搾取」に励む白人の対比という、社会的テーマを含んだ作品とのことですが、ルオーの描く黒人たちの姿は、それこそ「骸骨」に繋がるかように、どれも生気に満ちあふれて描かれています。アニメーション的な動きを思わせるほど躍動感に満ちた、「バンブーラの踊り」(1928)や「解放された黒人」(1928)などに惹かれました。
油彩画では、お馴染みのサーカスのシリーズなど、前回見た「ルオーと白樺派」の展示と重なる作品も多く並んでいましたが、一目見ただけではルオーとは分からないような、初期の作品の「ゲッセマニ」(1892年)には驚かされました。これは、国立美術学校時代の作品とのことですが、ルネサンスを思わせるような画風や、師のモローを連想させるタッチが面白く、また独特な油彩の厚塗りも見られません。主題こそ、後のルオーの関心の所在を示すようですが、この味わいは新鮮でした。
15日にはレクチャーコンサート等も予定されているそうです。今月29日までの開催です。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )