「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」 世田谷美術館

世田谷美術館世田谷区砧公園1-2
「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」
10/7-12/10(会期終了)



会期最終日に見てきました。アンリ・ルソーと素朴派、さらにはそれ以降ルソーにシンパシーを抱いていた日本人画家を紹介する展覧会です。作品展示数全150点のうちルソーが約20点と、ルソーだけを目当てにすると少々物足りない印象も受けましたが、展覧会自体は非常に良く出来ていました。

既に会期も終えているので、内容について細々と書くのは遠慮したいのですが、今回、ルソーや素朴派らの印象を吹き飛ばしてしまうほど衝撃的な画家に出会うことが出来ました。それが第3章、「ルソーに見る夢 日本近代美術家たちとルソー(1)洋画」にて紹介されていた松本竣介(1912-1948)です。主に1941年から44年までに制作された7点の絵画が展示されていましたが、どれも迸る才能を感じる、非の打ち所のない素晴らしい作品でした。天才の息吹すら感じます。



松本の描く都市風景は、その物悲しさが雄弁に語り出す心象風景です。くすんだ色でありながらも丁寧に塗りこめられたマチエールに反して、描かれた光景はとても寂し気で、また荒んでいました。急坂を歩く一人の男が描かれた「並木道」(1943)は絶品です。背の高い並木道が画面を二分割し、幅広い道路と左奥へ延びる坂道が窮屈におさまっています。そして坂道に面する分厚い壁が、まるで男の行く手を阻むかのように狭まっていました。また男の足取りは幾分軽やかですが、全体のズシリとのしかかるような重々しい空気と、まるっきり人気のない場の寂寥感は並大抵のものではありません。戦中の時代の気配を伝えていると一言で片付けてしまうにはあまりにも勿体ない、時代と場を超えた、人の孤独な生き様とその儚さが普遍的に表現された作品かと思います。コンクリートの冷たい感触、凍り付いたような木々の揺らめき。この表現力は驚異的です。

数点のバージョンがあるとされる「Y市の橋」(1944)もまた強い魅力を放っている名品でした。「並木道」の坂の壁に似た重厚なコンクリート壁が橋を支え、その向こうには幾何学的なフォルムの鉄柱が立っています。画面全体を覆うセピア色の侘しさは極めて叙情的です。静かに流れ行く川を見やりながら、その欄干の上にしばし立ち止まってみたい作品でした。画中へ思わず吸い込まれそうになります。

「松本竣介/新潮社」

多くの展覧会へ行っても、心へ突き刺さるような印象深い作品にはなかなか出会えませんが、今回は久々に魂を揺さぶられるような感動を味わいました。ルソーの展覧会にて見た松本竣介の稀な才能。是非まとまった形で拝見したいです。(12/10鑑賞)
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