都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「冒険王・横尾忠則」 世田谷美術館
世田谷美術館(世田谷区砧公園1-2)
「冒険王・横尾忠則」
4/19-6/15

膨大なる横尾忠則の画業を「冒険」に準えて概観します。世田谷美術館での「冒険王・横尾忠則」を見てきました。

全館規模の横尾の回顧展ということで覚悟はしていましたが、その一点一点を最後までじっくり見るだけの集中力はさすがに保ちません。60年代の雑誌やポスター原画から近作のY字路や温泉シリーズまで、全700点にも及ぶ作品が、美術館をさながら横尾の『冒険の館』へと仕立て上げています。横尾の「旅や人生は冒険の隠喩」(キャプションより。)と捉えるコンセプトは極めて明快です。終始、氏のパワフルな世界に圧倒されっ放しでした。
ルソーにモチーフを借りた冒頭の連作からして見応えがあります。ルソーの有名な自画像を正しい寸法で表した、その名も「正確な寸法で描かれたルソー像」(2008)は、横尾らしい換骨奪胎の技の冴える作品です。パレットと絵筆の浮くシュールな空間の下に、小さなルソーがこれまたパレットを握りしめて立っています。またルソーの有名な二枚の絵(牧場と椅子製造工場)を一つに合わせた「ルソーのY字路」(2007)でも、多様なイメージを難無く一つの空間へはめ込めていました。無限に沸き出す横尾の想像力に名画の力が加わり、また一歩突き抜けた絵が完成しています。

上でも触れたY字路と温泉シリーズも数多く出品されていました。まず前者では「宮崎の夜 - 台風前夜」(2004)が印象的です。闇に包まれた例の街角のY字路を、赤々としたケバケバしい、どこか不安感を煽り立てる色彩にて表しています。また温泉では「金の湯」(2005)がマイベストです。金色の星屑の舞う夜の下で、湯につかる人々がシルエット状に描かれています。またここでも目に飛び込んで切るのは鮮烈な赤色です。横尾最大の決め台詞ならぬ決め色は、この『赤』にあるのかもしれません。有無を言わさない赤に飲み込まれます。
あっけらかんとした性への表現にも臆するないのが横尾流です。中でも感心したのは、神秘的な宇宙を思わせる広大な空間を母体に見立て、その下に示された陰部より赤ん坊がまさに扉を開いて出てくる「星の子」(1996)でした。そしてここでも空間には赤が用いられていますが、この赤ん坊はこれから人生の冒険を歩もうとする横尾の自画像なのかもしれません。生命の源でもある炎に祝福され、逞しく足を踏み出しています。

丁寧に紹介された初期作のイラストなどの展示も充実していました。率直なところ、横尾は私の好みの範囲外にありますが、この濃厚な世界を前にすると自分の嗜好の方向すらどうでもよくなってしまいます。
「芸術新潮 2008年6月号/ 新潮社」
次の日曜、15日までの開催です。
「冒険王・横尾忠則」
4/19-6/15

膨大なる横尾忠則の画業を「冒険」に準えて概観します。世田谷美術館での「冒険王・横尾忠則」を見てきました。

全館規模の横尾の回顧展ということで覚悟はしていましたが、その一点一点を最後までじっくり見るだけの集中力はさすがに保ちません。60年代の雑誌やポスター原画から近作のY字路や温泉シリーズまで、全700点にも及ぶ作品が、美術館をさながら横尾の『冒険の館』へと仕立て上げています。横尾の「旅や人生は冒険の隠喩」(キャプションより。)と捉えるコンセプトは極めて明快です。終始、氏のパワフルな世界に圧倒されっ放しでした。
ルソーにモチーフを借りた冒頭の連作からして見応えがあります。ルソーの有名な自画像を正しい寸法で表した、その名も「正確な寸法で描かれたルソー像」(2008)は、横尾らしい換骨奪胎の技の冴える作品です。パレットと絵筆の浮くシュールな空間の下に、小さなルソーがこれまたパレットを握りしめて立っています。またルソーの有名な二枚の絵(牧場と椅子製造工場)を一つに合わせた「ルソーのY字路」(2007)でも、多様なイメージを難無く一つの空間へはめ込めていました。無限に沸き出す横尾の想像力に名画の力が加わり、また一歩突き抜けた絵が完成しています。

上でも触れたY字路と温泉シリーズも数多く出品されていました。まず前者では「宮崎の夜 - 台風前夜」(2004)が印象的です。闇に包まれた例の街角のY字路を、赤々としたケバケバしい、どこか不安感を煽り立てる色彩にて表しています。また温泉では「金の湯」(2005)がマイベストです。金色の星屑の舞う夜の下で、湯につかる人々がシルエット状に描かれています。またここでも目に飛び込んで切るのは鮮烈な赤色です。横尾最大の決め台詞ならぬ決め色は、この『赤』にあるのかもしれません。有無を言わさない赤に飲み込まれます。
あっけらかんとした性への表現にも臆するないのが横尾流です。中でも感心したのは、神秘的な宇宙を思わせる広大な空間を母体に見立て、その下に示された陰部より赤ん坊がまさに扉を開いて出てくる「星の子」(1996)でした。そしてここでも空間には赤が用いられていますが、この赤ん坊はこれから人生の冒険を歩もうとする横尾の自画像なのかもしれません。生命の源でもある炎に祝福され、逞しく足を踏み出しています。

丁寧に紹介された初期作のイラストなどの展示も充実していました。率直なところ、横尾は私の好みの範囲外にありますが、この濃厚な世界を前にすると自分の嗜好の方向すらどうでもよくなってしまいます。

次の日曜、15日までの開催です。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )