「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」 川村記念美術館(Vol.2・レクチャー)

川村記念美術館千葉県佐倉市坂戸631
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
2/21-6/7



ロスコ展が始まってから早くも二ヶ月が経とうとしています。少し時間があいてしまいましたが、展示風景を写真でお伝えしたVol.1に続き、今回はプレスプレビュー時に行われた同館学芸員、林寿美氏によるレクチャーの様子を簡単にまとめてみました。

[今展覧会の開催について]

・テートモダンとの協力によって成り立った一期一会のロスコ展
 →それぞれ門外不出の「シーグラム壁画」を両館が貸し出し合うことで企画が実現。
  1970年、シーグラム壁画がテートに収められて以来、40年経って初めてその半数が邂逅した。
・ロスコの子息、クリストファー・ロスコ氏の全面協力を受けている。著作権の問題も比較的容易にクリアした。


(作品の前で語るクリストファー・ロスコ氏)

[展覧会の構成]

1.シーグラム以前と「赤の中の黒」

「赤の中の黒」(1958)

・「赤の中の黒」(1958)
 シーグラム壁画と同時代の作品。50年代に到達した典型的なスタイル。大画面の中に抽象性の高い色面がシンプルに配置される。
・ロスコの画業の変遷
 ロシア生まれのロスコは当初、シュールレアリスムの影響を受けるが、画業後半を迎えるにつれて具象的な形は消え、色面構成に力点を置いた作品を描くようになった。
・『色の力』とインスタレーション的志向
 ロスコの色には見る者の心を捕まえて離さない力がある。絵の中に吸い込まれる感覚を味わうのではなかろうか。
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 とは言え、ロスコ自身は色の「良さ」のみを言われるのをあまり好まなかった。
 =当初、ロスコは黄色やオレンジなどの明るい色を用いていたが、色の奇麗さを賞賛されるあまり、逆に暗い黒や茶色を使うようになった。それが後、精神性という言葉でも括られるようになる。
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 また色の変遷とともに、空間を絵画でコントロールすることを望むようにもなった。その時期にちょうどシーグラム壁画の注文が舞い込んできた。

2.シーグラム壁画~前史より~

・シーグラムビルからテートへ
 NYのシーグラムビル内、フォー・シーズンズレストランの壁面を飾るための作品の制作を依頼される。=コンセプトは料理とともに、「一流」の芸術を紹介するというもの。
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 ロスコは自分のための空間を作れると注文を受諾。1958年秋より翌年秋の約一年間にて構想、そして完成へと至った。しかしうち30点ほど描き終えた時点でレストランを下見したロスコは、自分がイメージしていた場所と違うと展示を拒否。他の場所で展示することを模索するようになる。
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 約7年後の1965年、ロンドンのテートに作品が収蔵。展示が実現。



・ノーマン・リード(テート館長)との書簡集
 作品収蔵のため、約4年間にもわたってロスコとリードの間に手紙のやり取りがあった。
 手紙からは揺れるロスコの心のうちを読み解くことが出来る。
 60年代後半は健康状態も芳しくなかったせいか、筆の乱れたものも多い。


「テート・ギャラリーのシーグラム壁画展示のための模型」(1969)

 模型はロスコが構想したテートの一室。シーグラム壁画と同時期のスケッチも展示。
・収蔵、そして謎の死
 1969年、テートの一室にシーグラム壁画を寄贈したその日、ロスコは腕を斬って自殺した。

3.シーグラム壁画展示室


(c) Kawamura Memorial Museum of Art 2009

 シーグラム壁画全30点のうち15点が展示されている。
 テートモダンよりの巡回展であるものの、その展示方法はあえて変えている。ロスコのイメージにより近い形を理想とした。
 高さ
  通常より展示位置が高い。床面より約120センチの場所に設置。
 幅
  作品同士を5センチの距離に近づけた。(ロスコの残した構想によっている。)上への繋がりよりも横へのそれを意識していたのではないか。



 天井の窓:自然光を取り込む工夫。外の天気によって照度が変わって来る。
 中央の椅子:腰掛けてじっくりとロスコの作品を味わって欲しい。
 音声ガイドに収められたロスコの愛したモーツァルトの音楽を聴きながら見るのもおすすめしたい。

4.もう一つの「ロスコ・ルーム」(1964)



 ヒューストンの「ロスコ・チャペル」に極めて近い。
 これらが注文を受けて作られたものでもなく、またそもそも連作(全9点が確認され、うち4点が展示されている。)であるのかすら分かっていないが、空間を黒で支配しようとしたロスコの意識を垣間見ることが出来る。
 「シーグラム壁画」であった窓のような外枠の面はなく、シンプルな黒が静かに迫り来る作品。
  黒の中にはマットな部分とツヤのある部分に分かれ、一概に黒とは言えども複雑な表情を見せている。
 この時期席巻していたポップ・アートの動向に対し幾分迷いもあったというロスコは、改めて自らの精神性についてこれらの作品で問い直していたのではないだろうか。

5.最晩年の「無題」(1969)

「無題」(1969)

 ロスコが非業の死を遂げた1969年作の一枚。
 上部に黒と深い茶色が、また下部にグレーの色調が配され、周囲に白い縁が描かれている。
 この時期のロスコは健康上の問題から、大作の制作を医者にとめられていた。その中で描かれた作品でもある。
 黒とグレーというと暗く否定的なイメージもあるが、今作に関しては必ずしもそうはとれないのではないか。奥へ伸びゆく広がりも感じられる。ロスコの新たな境地を示した作品かもしれない。

以上です。



 「MARK ROTHKO」

なお本展示の図録でもあり、日本で初の本格的作品集でもあるという「マーク・ロスコ」(淡交社)が、先日より全国の書店で発売されました。シーグラム壁画を中心に全100点の作品図版、及び資料、また上のレクチャーを担当した林氏の論文やロスコの評伝などが全200ページ超のボリュームで掲載されています。ロスコファン必見の一冊です。まずは書店でご覧下さい。

「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」は6月7日まで開催されています。

*展示基本情報*
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
場所:川村記念美術館
交通:京成、JR佐倉駅より無料シャトルバス。(バス時刻表)無料駐車場あり。
会期:2009年2月21日(土)~6月7日(日)
時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館:月曜日(ただし5/4は開館)、5/7(木)
料金:一般1500円、学生・65歳以上1200円、小中高校生500円。

*写真の撮影、掲載については全て主催者の許可をいただいています。

*関連エントリ
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」 川村記念美術館(Vol.1・プレビュー):報道内覧会時の会場写真など。
春うらら@川村記念美術館:川村記念美術館付属の庭園風景。
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