「日本の美術館名品展」(Vol.2・全体の印象) 東京都美術館

東京都美術館台東区上野公園8-36
「美連協25周年記念 日本の美術館名品展」
4/25-7/5



学芸員氏のレクチャーをまとめたVol.1に続きます。私感ながら、展示で興味深かったポイントなどを羅列してみました。

・展示はフロア別に分かれています
 厳密に言うと西洋と日本の二部構成ですが、一階に西洋絵画と彫刻、二階に日本近代の洋画、三階に日本画と版画と、各階毎にジャンルの異なる作品が並べられています。

・会期途中に展示替えを挟みます
 西洋画に関してはほぼ通期で展示されますが、日本画、及び版画はその4割程度が途中で入れ替わります。ご注意下さい。(展示リスト
 前期:4/25-5/31 後期:6/2-7/5

・キャプションは必見です
 まるで娘の結婚を前にした父親の心境です。通常ありがちな学術的解説は影を潜め、「本作は一番貸し出し要請の多いものである。」や「これは当館の看板娘。」などと言った素直な作品自慢(?)から、「これ以降の画家の作品は当美術館まで足を運び下さい。」から「ご来館の際は合わせて城下町の散策も如何でしょうか。」など、思わず笑ってしまうようなセールストークまでが書かれていました。

・画家の基準作も登場します

エゴン・シーレ「カール・グリュンヴァルトの肖像」

 もちろん全てとは言えませんが、画家の代表作として挙げ得る作品も展示されていたのではないでしょうか。ミレー「ポーリーヌ・V・オノの肖像」(山梨県立美術館)、バーン=ジョーンズ「フローラ」(郡山市立美術館)、またボナール「アンドレ・ボナール嬢の肖像」(愛媛県美術館)やエゴン・シーレ「カール・グリュンヴァルトの肖像」(豊田市美術館)など、隣の西美常設にも負けない良作を楽しむことが出来ました。

・ご当地の作家、作品に注目です

牛島憲之「邨」

阪神モダニズムの長谷川三郎から「芦屋浜風景」(芦屋市立美術博物館)、府中市美の記念館でも知られる牛島憲之の「邨」(府中市美術館)、そして群馬出身の山口薫の「花子誕生」(群馬県立近代美術館)や『河童の芋銭』こそ小川芋銭の「涼気流」(茨城県立美術館)など、郷土の画家の競演も見所の一つです。

・各所蔵館の特色あるコレクションからの一点も見逃せません

オノレ・ドーミエ「ドン・キホーテとチョ・パンサ」

 ご当地の画家とも重なりますが、記念館を併設した秋田市立千秋美術館より岡田謙三、再現アトリエのある群馬県美館林美術館からポンポン、1800点を超える版画を所蔵する伊丹市立美術館よりドーミエと、各美術館の自慢となるコレクションから名品が集うのも本展ならではのことかもしれません。

・意外にも近現代の絵画、彫刻も展示されています

ジャクソン・ポロック「無題」

 こうした名品展では省かれることの多い近現代絵画が登場するのもまた嬉しいところです。まさかこの展覧会でポロックのアクションペインティングを見られるとは思いませんでした。

・未知の作家(あくまでも私にとっての)に度肝を抜かれました



 上の図版は斎藤真一の「星になった瞽女」(倉敷市立美術館)です。岡山出身の画家だそうですが、その特異な画風には驚かされるものがありました。意外な作家、意外な作品を探すのもまた楽しみ方の一つではないでしょうか。

・残念ながら巡回はありません
 もちろんこれだけの規模をそのままでというわけにはいきませんが、史上初の公立美術館名品展を上野だけで開催するのはあまりにも勿体ないように思えました。今更、東京一極集中の状況を批判しても仕方ありませんが、出品美術館への感謝の意味もこめ、有力美術館への巡回があってもしかるべきだったかもしれません。

・照明はかなり暗めです
 とりわけ西洋絵画に関しては最近流行りの暗室、強めのライトでの展示です。一部、照明が作品に反射してしまい、画肌を見るのに難儀するものもありました。

・200点超の展示品は相当にボリュームがあります
 ひょっとすると現在、上野界隈で開催中の展示で一番鑑賞に時間がかかる展覧会かもしれません。実際、私も先日、そう力を入れて見たわけではありませんが、それでも二時間弱はかかりました。

・図録、ミュージアムショップ、及び混雑の状況
 図録は辞書並みの重さで2500円です。図版はそれほど鮮明ではありませんでしたが、国内美術館所蔵品の総合カタログとして一冊あっても良いのではないでしょうか。
 また混雑については、最近の都美の展示としては比較的空いていたと思います。(会期二日目の印象として。)
 各美術館へ行かないと購入出来ないグッズもありましたが、全体としてミュージアムショップは都美の大型展としてはもう一つでした。

・記念映画会



 GW中にクリムト、ポロックなどに関する映画鑑賞会が企画されています。

もちろん名品展ということで総花的な面は否めませんが、それでも初回の試みでよくぞこれまでと感心するような内容ではなかったでしょうか。また展示も簡潔な構成ながら、関連の作家同士の作品を並べるなど、随所にメリハリをつける工夫が見られました。前もって思っていた以上に楽しめたのは間違いありません。

長くなりました。個々の作品の感想はVol.3に廻します。

*関連エントリ
「日本の美術館名品展」(Vol.1・レクチャー)/(Vol.3・マイベスト)

*展覧会基本情報*
名称:美連協25周年記念 日本の美術館名品展
場所:東京都美術館
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。
会期:2009年4月25日(土)ー7月5日(日)
時間:午前9時~午後5時(入室は午後4時30分まで)
休館:月曜休室(ただし4月25日~5月10日まで無休)
料金:一般1400円、学生1200円、高校生700円、65歳以上800円
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