「横浜トリエンナーレ2011」(前編・横浜美術館) 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫

「横浜トリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」
横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)
8/6-11/6



「横浜トリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」のプレビューに参加してきました。

初回より10年経過し、今年で4度目を迎えた横浜トリエンナーレですが、今回はメイン会場を初めて横浜美術館へ移し、BankARTなどとあわせて、計77名/組のアーティストによる約300以上もの作品が一同に介しています。


ライアン・ガンダー「本当にキラキラするけれど何の意味もないもの」

まさに日本最大級の国際美術展です。私感ながら過去に開催されたトリエンナーレよりもやや小粒な印象も否めませんが、それでも多様なジャンルの作品を追っかけているだけでも全く飽きません。二会場で計4時間程度の鑑賞でしたが、見終えた後の何とも言えない充足感はさすがに他の現代アート展を超えていました。

さて先に触れたようにメインの会場は二つ、横浜美術館とBankARTです。拙ブログではそれぞれの感想を前編(横浜美術館)と後編(BankART)にわけ、展示の様子をご紹介したいと思います。


ジェイムス・リー・バイヤース「ダイヤモンドの床」

冒頭は光り物です。入口からエスカレーターをあがり、順路に沿った初めの展示室に待ち構えるのは、ジェイムス・リー・バイヤースによるクリスタルが用いられた作品でした。暗室には5つのクリスタルが妖しい光を放ちながら転がっています。その煌めきはどこか神秘的でした。


手前:ウィルフレド・プリエト「one」 奥:冨井大裕「ゴールドフィンガー」

一方で同じく光り輝く素材を用いたのはウィルフレド・プリエトです。床面に転がるのは何と2800万個の模造ダイヤですが、うち一つだけ本物が含まれています。そしてそのシルバーにも光る輝きと、それを受けて立つかのように並ぶ冨井大裕の画鋲のゴールドの瞬きは不思議にも調和していました。

さて今回のトリエンナーレに限らず、巨大吹き抜け空間や通路部分しかり、時に空間自体に散漫な印象を受ける横浜美術館ですが、それを逆手にとったのが田中功起のインスタレーションでした。


田中功起「美術館はいっぺんに使われる」

まだ設営中の資材が転がっていると思ってしまったら早くも田中の術中にはまっていると言えるのではないでしょうか。実際、これらは全て美術館の備品とのことでしたが、半ばそれをぶちまけるように広げた様子は、このどこか堅苦しい箱自体を半ば巧みに解体していました。

ところで今回の横浜トリエンナーレではこれまでとかなり異なった趣向がとられています。それが常設作品とコンテンポラリーのコラボレーションです。


手前:コンスタンティン・ブランクーシ「空間の鳥」 左奥:石田徹也「屋上へ逃げる人」 中奥:ポール・デルヴォー「階段」 右奥:ハン・スンピル「天国への階段」

お馴染みのブランクーシとデルヴォーやマグリットに、石田徹也とハン・スンピルが邂逅します。そのシュールな幻想世界は時代を超えて一つのストーリーを描いていました。


金理有「組換輪我」他

はじめのクリスタルの部屋同様、暗室の用い方が効果的です。黒光りする金理有の陶のオブジェが闇をさらに引き立てます。出品数も多く、作品自体の重みと存在感はとても際立っていました。


マイク・ケリー「シティ6」(カンドールシリーズより)他

そしてその黒とは一転、暗がりの中でカラフルな作品を展開したのがマイク・ケリーの「カンドール」シリーズです。これはスーパーマンの故郷である架空の宇宙都市カンドールを象ったものでしたが、ともかくその蛍光色に彩られたミニチュア風のオブジェには目を奪われます。煌めく色に酔いしれました。


奥:イサム・ノグチ「真夜中の太陽」 手前:八木良太「VIDEO SPHERE」

そしてその宇宙を連想させる空間と言えば、奥にイサム・ノグチの「真夜中の太陽」を据え、田口和奈のプリント連作、そして八木良太のレコードを使った作品などを並べた展示が忘れられません。


田口和奈「失ったものを修復する」

田口の星空を眺めつつ、八木の球体のオブジェからイサム・ノグチの太陽の登る様子を見るのは何とも圧巻でした。全てが成功しているとは言い難いものの、浜美会場は全体としてキュレーションが練られている感がありますが、こうした展示からもお分かりいただけるのではないでしょうか。ここは素直に感心させられました。


左:杉本博司「放電場128」 

さてキュレーション云々以前に、作り込まれた空間自体に唸らされるのは、杉本博司の「神秘域」です。


杉本博司「海景五輪塔」/「スペリオル湖」

古美術から自作の写真までが、デュシャンへのオマージュというコンセプトの元、杉本自身のプロデュースによる濃密な空間で展示されています。あえて設営された狭い通路、そして鋭角的に切り取られた空間そのものも、浜美の別の場所とは完全に一線を画していました。


右:マッシモ・バルトリーニ「オルガン」 左:ダミアン・ハースト「知識の木」他

一方で浜美ならではの天井高のある空間を活かしたのはマッシモ・バルトリーニとダミアン・ハーストのコラボレーションです。


マッシモ・バルトリーニ「オルガン」

パイプを高く組み上げた「オルガン」からは某SF映画を思わせる神秘的なオルガンの調べが轟き、その横にはハーストの蝶を張り合わせた「知識の木」などがあたかもステンドグラスの輝きを放つかのように並べられています。そして振り返ればエジプトの原始キリスト教徒が制作したというコプト裂も展示されていました。その様子はまさに教会そのものです。あの展示室がこれほど神聖な空間に見えたのは初めてでした。


荒木経惟「古希ノ写真」他

さて空間はともかくも、出品作家としてやはり存在感があったのは、一展示室を使って相当数の写真を出品していた荒木経惟と、「黒いY字路」シリーズを展示した横尾忠則です。


横尾忠則「黒いY字路」

アラーキーこそやや大人しい展示でしたが、それこそ闇夜の中を不気味に浮き上がるY字路の並んだ横尾のブースはかなり迫力がありました。それこそY字路からどこか冥界の中へ迷い込んだ感じがしたのは私だけではないかもしれません。

資生堂の個展の印象が未だ頭を離れない今村遼佑も一展示室での展開です。残念ながら周囲の雑踏にかき消され、点滅するLEDやパタンと落ちる紙くずなどの細やかなインスタレーションの妙味を味わえるほどではありませんが、あの巨大な浜美のスペースでも来場者の感性を呼び起こすスタンスに全くぶれはありませんでした。


岩崎貴宏「アウトオブディスオーダー」他

繊細と言えば、広大な吹き抜け空間にてあえて目立たない作品を展示した岩崎貴宏も良かったのではないでしょうか。望遠鏡を覗いて見える小さなタワーなどには思わずにやりとさせられました。


手前:ライアン・ガンダー「何かを描こうとしていていたまさにその時に私のテーブルからすべり床に落ちた一枚の紙」 奥:リヴァーネ・ノイエンシュワンダー「テナント」

浜美というまさに美術館そのもののスペースでの展開だからか、また繰り返すようにキュレーションの効果なのか、一部を除けばとても収まりの良い展示だという印象を受けました。ただ逆に言えばトリエンナーレに特有な高揚感、またカオス感はあまりありません。

一通りは浜美を見た後は、循環バスでもう一つのメイン会場であるBankARTへと移動しました。その様子は以下のエントリでまとめてあります。宜しければご覧ください。

「横浜トリエンナーレ2011」(後編・日本郵船海岸通倉庫)

11月6日までの開催です。

「ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR - 世界はどこまで知ることができるか?」 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域
会期:8月6日(土)~11月6日(日)
休館:8月、9月の毎週木曜日、及び、10月13日(木)、10月27日(木)
時間:11:00~18:00
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区海岸通3-9(BankART)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口徒歩5分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅6番出口徒歩4分(BankART)。会場間無料バスあり。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。なお本展は一部作品を除き、会期中も写真の撮影が可能(フラッシュ、動画不可)です。
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