都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「名物刀剣展」 根津美術館
根津美術館
「名物刀剣 宝物の日本刀」
8/27-9/25
かつて名だたる武士たちがこぞって蒐集した日本刀の名物を総覧します。根津美術館で開催中の「名物刀剣 宝物の日本刀」のプレスプレビューに参加してきました。
実のところ私自身、これまで日本刀の魅力になかなか気がつかないでいましたが、今回の展覧会ではじめて虜になったとしても過言ではありません。作品はもとより、また展示環境から鑑みても、おそらくは日本刀の決定版と言うべき展覧会です。国宝9件、重文22件を含む、計50件の名刀は、定評のある根津美術館の美しい空間にずらりと勢揃いしていました。
さてまずはその効果的な展示、とりわけ照明について触れないわけにはいきません。同美術館では今回、例えば細やかな刀文など、日本刀の繊細な美しさを引き出すために新たな照明装置を導入しました。
光ファイバーによって直接に刀へ当てた新しい照明は、簡単に言えば表面の質感、ようは刀の物質感を引き立たせることに成功しています。こればかりは実際の会場で確認していただくしかありませんが、時に青白くも光る刀の美しさには息をのむほどでした。
またもう一つ、大きな特徴として挙げておきたいのが、独立ケースによる展示です。アクリルケースの中には一振りの刀が置かれていますが、それを360度の好きな角度から楽しむことが出来ます。
「短刀 無銘 正宗 名物日向正宗」(付属:黒漆塗葵唐草文刻鞘小サ刀拵)鎌倉時代 三井記念美術館
また透明台の上に載せられているという点も見逃せません。刀を横から眺めることで、その薄さに改めて驚かされるものがありますが、例えば屈んで下から見上げると、あたかも刀身が宙に浮かんでいるかのような錯覚さえ与えられます。
「短刀 無銘 正宗 名物庖丁正宗」鎌倉時代 徳川美術館
また一部の刀には透かしの彫りがありますが、それも裏から見上げることで初めて確認することが出来ました。
さて展覧会の構成です。(出品リスト)
1.名物刀剣の発生
2.名物刀剣の展開
3.名物刀剣の焼失
4.享保名物帳の編纂
5.御家名物
平安末期から南北朝期に成立した日本刀の歴史をひも解きながら、いわゆる「名物刀剣」はなんぞやということを問いただす構成となっていました。
そもそも「名物刀剣」とは現在、一般的には徳川吉宗の編纂した「享保名物帳」に記された刀剣を指しますが、そこへ至るまでは長い来歴がありました。
「太刀 銘三条 名物 三日月宗近」 平安時代 東京国立博物館
それはもちろん刀剣の謂れです。日本刀の創成期である平安時代の名工、三条宗近によって打たれた「太刀 銘三条 名物 三日月宗近」はは、詳細こそ明らかではないものの、おそらくは室町幕府か周辺に伝わり、後に秀吉の妻の高台院から秀忠へと渡ったという来歴を持っています。
かつての日本では中国刀、つまりは直剣が使われていましたが、平安時代になって貴族文化の高まりとともに日本刀が作られるようになりました。緩やかな曲線が生み出す優美な表情こそ、この時期の太刀の典型的な和の様式と言えるかもしれません。
名物刀剣の成立過程で重要人物として挙げられるのが、戦国の雄、織田信長です。信長は華やかな太刀を好んだと伝えられていますが、鎌倉期の長い太刀はあまり好きではなかったのか、それを短くして詰めて用いていました。
「刀 金象嵌銘 光忠/光徳(花押)」鎌倉時代 個人蔵
信長の佩刀として名高い「刀 金象嵌銘 光忠/光徳」もそのように詰められた刀の一つです。
右「刀 金象嵌銘 永禄三年五月十九日 名物義元左文字」 南北朝時代 個人蔵
さらに有名な桶狭間の合戦で今川義元からぶんどった「刀 金象嵌銘 永禄三年五月十九日 名物義元左文字」も、その謂れに注目が集まる一品ではないでしょうか。
そもそもこの刀は義元が信玄から譲り受け、それを信長が摂取、また短く詰めて用いたそうですが、彼の没後は秀吉へ移り、後に秀頼から家康へと渡ったという、まさに歴史の証人のような経緯を辿っています。またさらには明暦の大火で火を被り、明治になって再刀されたというエピソード付きです。一振りの刀に秘められた歴史の物語をひも解いていくのも、刀を愛でる悦びの一つなのかもしれません。
本来的には黒い鉄をいかに青く澄ませるかが名工たちの腕の見せ所だそうです。その地鉄の青みを存分に味わえる展覧会であることは間違いありません。
9月25日まで開催されています。おすすめします。 *東京展終了後、以下のスケジュールで巡回。
富山県水墨美術館(富山市) 2011/9/30~10/16
佐野美術館(三島市) 2011/10/22~12/18
徳川美術館(名古屋市) 2012/1/4~2/5
「名物刀剣 宝物の日本刀」 根津美術館
会期:8月27日(土)~9月25日(日)
休館:毎週月曜日 *但し9月19日(月・祝)は開館。翌20日(火)は休館。
時間:10:00~17:00
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
「名物刀剣 宝物の日本刀」
8/27-9/25
かつて名だたる武士たちがこぞって蒐集した日本刀の名物を総覧します。根津美術館で開催中の「名物刀剣 宝物の日本刀」のプレスプレビューに参加してきました。
実のところ私自身、これまで日本刀の魅力になかなか気がつかないでいましたが、今回の展覧会ではじめて虜になったとしても過言ではありません。作品はもとより、また展示環境から鑑みても、おそらくは日本刀の決定版と言うべき展覧会です。国宝9件、重文22件を含む、計50件の名刀は、定評のある根津美術館の美しい空間にずらりと勢揃いしていました。
さてまずはその効果的な展示、とりわけ照明について触れないわけにはいきません。同美術館では今回、例えば細やかな刀文など、日本刀の繊細な美しさを引き出すために新たな照明装置を導入しました。
光ファイバーによって直接に刀へ当てた新しい照明は、簡単に言えば表面の質感、ようは刀の物質感を引き立たせることに成功しています。こればかりは実際の会場で確認していただくしかありませんが、時に青白くも光る刀の美しさには息をのむほどでした。
またもう一つ、大きな特徴として挙げておきたいのが、独立ケースによる展示です。アクリルケースの中には一振りの刀が置かれていますが、それを360度の好きな角度から楽しむことが出来ます。
「短刀 無銘 正宗 名物日向正宗」(付属:黒漆塗葵唐草文刻鞘小サ刀拵)鎌倉時代 三井記念美術館
また透明台の上に載せられているという点も見逃せません。刀を横から眺めることで、その薄さに改めて驚かされるものがありますが、例えば屈んで下から見上げると、あたかも刀身が宙に浮かんでいるかのような錯覚さえ与えられます。
「短刀 無銘 正宗 名物庖丁正宗」鎌倉時代 徳川美術館
また一部の刀には透かしの彫りがありますが、それも裏から見上げることで初めて確認することが出来ました。
さて展覧会の構成です。(出品リスト)
1.名物刀剣の発生
2.名物刀剣の展開
3.名物刀剣の焼失
4.享保名物帳の編纂
5.御家名物
平安末期から南北朝期に成立した日本刀の歴史をひも解きながら、いわゆる「名物刀剣」はなんぞやということを問いただす構成となっていました。
そもそも「名物刀剣」とは現在、一般的には徳川吉宗の編纂した「享保名物帳」に記された刀剣を指しますが、そこへ至るまでは長い来歴がありました。
「太刀 銘三条 名物 三日月宗近」 平安時代 東京国立博物館
それはもちろん刀剣の謂れです。日本刀の創成期である平安時代の名工、三条宗近によって打たれた「太刀 銘三条 名物 三日月宗近」はは、詳細こそ明らかではないものの、おそらくは室町幕府か周辺に伝わり、後に秀吉の妻の高台院から秀忠へと渡ったという来歴を持っています。
かつての日本では中国刀、つまりは直剣が使われていましたが、平安時代になって貴族文化の高まりとともに日本刀が作られるようになりました。緩やかな曲線が生み出す優美な表情こそ、この時期の太刀の典型的な和の様式と言えるかもしれません。
名物刀剣の成立過程で重要人物として挙げられるのが、戦国の雄、織田信長です。信長は華やかな太刀を好んだと伝えられていますが、鎌倉期の長い太刀はあまり好きではなかったのか、それを短くして詰めて用いていました。
「刀 金象嵌銘 光忠/光徳(花押)」鎌倉時代 個人蔵
信長の佩刀として名高い「刀 金象嵌銘 光忠/光徳」もそのように詰められた刀の一つです。
右「刀 金象嵌銘 永禄三年五月十九日 名物義元左文字」 南北朝時代 個人蔵
さらに有名な桶狭間の合戦で今川義元からぶんどった「刀 金象嵌銘 永禄三年五月十九日 名物義元左文字」も、その謂れに注目が集まる一品ではないでしょうか。
そもそもこの刀は義元が信玄から譲り受け、それを信長が摂取、また短く詰めて用いたそうですが、彼の没後は秀吉へ移り、後に秀頼から家康へと渡ったという、まさに歴史の証人のような経緯を辿っています。またさらには明暦の大火で火を被り、明治になって再刀されたというエピソード付きです。一振りの刀に秘められた歴史の物語をひも解いていくのも、刀を愛でる悦びの一つなのかもしれません。
本来的には黒い鉄をいかに青く澄ませるかが名工たちの腕の見せ所だそうです。その地鉄の青みを存分に味わえる展覧会であることは間違いありません。
9月25日まで開催されています。おすすめします。 *東京展終了後、以下のスケジュールで巡回。
富山県水墨美術館(富山市) 2011/9/30~10/16
佐野美術館(三島市) 2011/10/22~12/18
徳川美術館(名古屋市) 2012/1/4~2/5
「名物刀剣 宝物の日本刀」 根津美術館
会期:8月27日(土)~9月25日(日)
休館:毎週月曜日 *但し9月19日(月・祝)は開館。翌20日(火)は休館。
時間:10:00~17:00
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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