「フレンチ・ウィンドウ展」 森美術館

森美術館
「フレンチ・ウィンドウ展 デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」
3/26-8/28



「フランスの現代アートシーン」(チラシより引用)を概観します。森美術館で開催中の「フレンチ・ウィンドウ展」へ行ってきました。

一部が出品取りやめになるなど、東日本大震災の影響を受けた本展覧会ですが、それでもフランスのコレクター団体「ADIAF」選定による約30名弱の現代アーティストの作品が一同に介しています。ジャンルも森美の広いスペースを利用してのインスタレーション、大型の立体、それに映像、絵画に写真と盛りだくさんでした。

さて単なる最新のフランスのアートシーンを並べただけでないところが、今回の面白い点かもしれません。

「ADIAF」はフランスで「マルセル・デュシャン賞」を主催していますが、展示でも冒頭に実際のデュシャンの作品がいくつか登場しています。


マルセル・デュシャン「フレッシュ・ウィドウ」1920年/1964年

それらはいずれもが当然ながらレディメイドと呼ばれるものばかりですが、とりわけ重要なのは「フレッシュ・ウィドウ」です。これはフランス窓を革で覆って見えなくしてしまった作品ですが、現代アーティストの作品でも以降、そうした本来的な価値の反転、また物事のあるべき見方を変化させるような系譜のものが次々と登場しています。

キーワードは窓から広がる様々な異界です。窓に限らず、作品を通して、まだ見ぬ場所や時間を旅しているかのような体験が出来ました。


マチュー・メルシエ「無題」2007年

ずばり窓そのものを通してデュシャンに応答したのは、マチュー・メルシエです。ここでメルシエはデュシャンと同じくフランス窓を用いていますが、何と今度は窓おろか枠までが透明で、これまた窓の本来的な機能を喪失させています。

この透明な窓の向こうには東京の景色も広がっていました。見えるものと見えないものとが対比された、デュシャンとメルシエの視点の違いもまた興味深い部分かもしれません。


ニコラ・ムーラン「ノヴォモンド71」1996-2001年

「時空の窓」と題されたセクションが秀逸です。ニコラ・ムーランは無人のSF的世界を実景を織り交ぜてCGで再現します。

「アスキアタワー」では巨大な二等辺三角形のビル、平壌の柳京ホテルを荒野に移設しました。

またシプリアン・ガイヤールは17世紀のオランダ銅版画の中に現代の高層ビルなどを組み込みます。

ともに現代文明の象徴ともいえるそうした建築物が本来の場所と時間を失った時、取り残された廃墟のようにみえるのが不思議でなりませんでした。

さてそうした半ば架空の景色の一方、今度は実景をあたかもフィクショナルなものとして提示するのが、フィリップ・ラメットです。


フィリップ・ラメット「合理的浮上」2002年

彼は自らを撮影した作品を展示していますが、それがいずれも驚くべき姿をとって登場しています。

海の上を歩き、宙を駆けるラメットはまるでマジシャンです。作り込みはかなり細かく、種を明かされないと一体どのようにして写されたか分かりませんでした。

異界ならぬ冥界へと観客を誘うのが、サーダン・アフィフの「どくろ」です。


サーダン・アフィフ「どくろ」2008年

床面に転がるいくつかのステンレス鋼球には見る人の姿とともに、モザイク状になった髑髏が写り込んでいます。 仕掛けは天井にありましたが、上からのしかかるように写る髑髏からはそれこそ死を強く連想しました。

ラストはコレクターのアパルトマンの再現展示です。リビングやバスルームなどの空間に作品が飾られています。

それまでの文脈からするとやや蛇足気味かもしれませんが、ここにも窓が登場していました。もちろん今度は普通の窓でしたが、デュシャンの窓に始まる一連の流れを締めくくるのに相応しい展示だったのかもしれません。


リシャール・フォーゲ「無題」1996-2004年

点数こそ少なめでしたが、私としては予想以上に楽しめました。

夏休み中でしたが、館内はさほど混雑していませんでした。

8月28日まで開催されています。

「フレンチ・ウィンドウ展 デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」 森美術館
会期:3月26日(土)~8月28日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00(月・水~日)、10:00~17:00(火)
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より徒歩5分(コンコース直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅徒歩7分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅徒歩10分。
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