「大エルミタージュ美術館展」 国立新美術館

国立新美術館
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」
4/25-7/16



国立新美術館で開催中の「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」のプレスプレビューに参加してきました。

かつてはエカチェリーナ2世が直接美術品を収集し、現在は約300万点にも及ぶ作品を所有するというロシア・サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館。

コレクションは時に「美の百科事典」とまで称されることもあるそうですが、今、その中から選ばれた約90点の絵画が国立新美術館へとやって来ています。


右:ピエール=ナルシス・ゲラン「モルフェウスとイリス」1811年
左:ルイ=レオポール・ボワイー「ビリヤード」1807年


展覧会の構成は以下の通りでした。

1.16世紀 ルネサンス:人間の世紀
2.17世紀 バロック:黄金の世紀
3.18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀
4.19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀
5.20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀


古くは16世紀のルネサンス絵画に始まり、バロック、ロココから印象派、そして20世紀のマティスやピカソへと進む流れとなっています。約400年の西洋絵画の歴史を一挙に辿ることが出来ました。

現地では常設として展示されている作品も多いということで、まさに選りすぐりのエルミタージュ展と言えますが、その分、見どころも非常に多岐にわたっています。


右:ソフォニスバ・アングィソーラ「若い女性の肖像」16世紀末
左:ジュリオ・カンビ「男の肖像」16世紀前半


冒頭、ルネサンスで一目惚れしたのがソフォニスバ・アングィソーラの「若い女性の肖像」です。頭部を横に曲げた肖像の構図は当時としてやや珍しいそうですが、ともかくも細部、首飾りや服のレースが極めて精緻に描かれています。

当初、ナポレオンの妻の所蔵品だった時、モデルはマティルダ王妃だとされていましたが、確かに品格のある様相は絵画からもよく伝わってきました。

またルネサンスではもう一つ、スケドーニの2作品にも要注目です。


バルトロメオ・スケドーニ「風景の中のクピド」16世紀末-17世紀初め
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012


ともかくスケドーニといえばかつての西美のパルマ展で見た「キリストの墓の前のアリアたち」が忘れられませんが、国内では展示機会の少ないスケドーニを見られただけでも来た甲斐があったというものではないでしょうか。

また現在、Bunkamuraで開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」でも多く出ている通称モナリザ・モチーフ、レオナルド・ダ・ヴィンチ派の「裸婦」も展示されていました。

バロックへ進むと西美の常設でもお馴染みのテニールスから「厨房の猿」が目を引きます。


右:ダーフィト・テニールス(2世)「厨房の猿」1640年代半ば
左:ダーフィト・ライカールト(3世)「農婦と猫」1640年代


文字通り、画中に描かれているのは全て猿ですが、中にはリンゴをおもむろに取っていたり、また一匹だけ高い場所にいたりと、人間の原罪や社会的序列を示唆する、寓話、また教訓的な意味合いをも持ち得ているそうです。


レンブラント・ファン・レイン「老婦人の肖像」1654年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012


また思わず足を止めて見入ったのはレンブラントの「老婦人の肖像」でした。いわゆる工房作であるとの議論もあり、帰属に関しては確定していませんが、それでも女性の哀愁に満ちた表情、そして何よりも年期を重ねたゴツゴツとした手、またその重みは圧倒的だと言えるのではないでしょうか。

さらにレンブラントの闇ならぬ、画中の光と影の表現で素晴らしいのは、クロード=ジョゼフ=ヴェルネの「月夜」とライト・オブ・ダービーの「外から見た鍛冶屋の光景」に他なりません。


左:クロード=ジョゼフ=ヴェルネ「パレルモ港の入口、月夜」1769年

ヴェルネはエカチェリーナ2世在位当時、名声の頂点を極めたそうですが、この神々しいまでの月明かり、そして明晰な風景描写には素直にひかれます。


ライト・オブ・ダービー(本名ジョゼフ・ライト)「外から見た鍛冶屋の光景」1773年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012


またダービーの明暗の対比表現はさらに鮮烈です。背景の月明かりはあくまでも淡く描かれている一方、手前の鍛冶場は煌煌と灯り、白く放たれた光は人々の顔に反射して当たっていました。

さて印象派の時代に入って嬉しいのは、偏愛のシスレーから一点、「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」が展示されていたことです。


右:クロード・モネ「霧のウォータールー橋」1903年
左:アルフレッド・シスレー「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」1872年


得意とする枝垂れの木立、そして緑を照らした明るい水面、また岸辺の家々へ溶け込むかのように配された人物などは、まさにシスレーならではの巧みな風景描写と言えるのではないでしょうか。ちなみにエルミタージュには同じ地点から描いたシスレー作が3点ほどあるそうです。いずれはそちらも拝見出来ればと思いました。


ポール・セザンヌ「カーテンのある静物」1894頃-1895年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012

また印象派、後期印象派ではセザンヌの「カーテンのある静物」も見どころの一つになるかもしれません。


右:ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ「ローマの廃墟で説教する聖パウロ」1744年
左:ユベール・ロベール「古代ローマの公衆浴場跡」1798年


奇しくも国立新美術館ではセザンヌ展が行われていますが、先に触れたモナリザ・モチーフの裸婦像や、西美で回顧展を開催中のユベール・ロベールなど、この展覧会では今、他で話題の画家を美術史の文脈の中に置くことが出来ます。その辺も楽しみ方の一つとなりそうです。

20世紀に入ると衝撃の一枚と出会いました。それが日本では約30年ぶりの公開となったアンリ・マティスの「赤い部屋(赤のハーモニー)」です。

「マティスの絵本/結城昌子/小学館」

諸事情により図版、写真が載せられないのが残念ですが、ともかくその魔力的なまでな赤にぐっと心掴まれる方も多いのではないでしょうか。そして紋様的でかつ平面性を帯びた空間表現はいかにもマティスと言ったところですが、これ一点だけでも行く価値があるとしても過言ではありません。

ちなみにこの作品を前にして、2005年、都美館のプーシキン展での「赤い金魚」を見た時に強い感銘を受けたことを思い出しました。以来、マティスは私にとって非常に重要な画家の一人となりましたが、その時と同じくらいの強烈なマティス体験です。ここは痺れました。


会場展示風景

会期中、各種講演の他、映画の上映会が行われます。

【記念講演会・シンポジウム】
・5月12日 (土)  14:00-15:30(開場13:30)
 千足伸行 (本展監修・成城大学名誉教授)
 「北国の美の宮殿:エルミタージュ美術館の名画を見る」
・6月3日(日)14:00-16:00(開場13:30)
 沼野充義(東京大学教授、ロシア・東欧文学者)、鴻野わか菜(千葉大学准教授、ロシア文学者)
 司会・進行:青木保(国立新美術館長)
 シンポジウム「現代ロシアとエルミタージュ美術館」
・6月9日(土)14:00-15:30(開場13:30)
 中野京子(ドイツ文学者・早稲田大学講師)
 「エルミタージュ 女帝の時代」

【上映会】
・5月6日(日)14:00-15:45(開場13:30)
 「エルミタージュ幻想」上映会(上映時間96分)
 *上映前にアレクサンドル・ソクーロフ監督が語るエルミタージュ美術館ミニ・インタビュー映像があります。
・6月10日(日)14:00-15:30(開場13:30)
 「チェブラーシカ」(ロマン・カチャーノフ監督)上映会 (上映時間73分)
 *上映前に沼野充義による、ミニ・トークがあります。

嬉しいことに全て観覧券があれば無料です。監修の千足先生や「怖い絵」でもお馴染みの中野先生の講演会は特に注目を集めそうです。

ミュージアムショップで人気なのはチェブラーシカです。もちろんこの展覧会のオリジナルグッズもあります。


ミュージアムショップ

またチェブラーシカでは専用ポストも見逃せません。会場出口にあるポストへ投函すると何とチェブラーシカの消印をおしていただけます。


会場特設「チェブラーシカ消印ポスト」

GW以降はかなり混雑してくるのではないでしょうか。大型展は何事も早めがベストです。また毎週金曜日は20時まで(入館は30分前まで)開館しています。

「すぐわかる西洋絵画よみとき66のキーワード/千足伸行/東京美術」

7月16日まで開催されています。

「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」 国立新美術館
会期:4月25日(水)~7月16日(月・祝)
休館:火曜日。但し5月1日は開館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )