「福田平八郎と日本画モダン」 山種美術館

山種美術館
「福田平八郎と日本画モダン」
5/26-7/22



山種美術館で開催中の「福田平八郎と日本画モダン」のプレスプレビューに参加してきました。

一面の瓦に滴り落ちる雨粒の軌跡、湿り気すら立ち上がる「雨」こそ、日本画家・福田平八郎の傑作として知られる一枚であることは言うまでもありません。


展示室風景

この平八郎を中心に、単純化された構図、効果的なトリミングなど、言わば「日本画モダン」と呼ぶべきスタイルを持つ画家を紹介する展覧会が山種美術館で始まりました。

私自身、平八郎というと2007年の京都国立近代美術館の回顧展に接して以来、かけがえのない画家の一人となりましたが、まずは東京でこうした平八郎の展示が行われることだけでも感無量でした。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1章 福田平八郎
第2章 日本画モダン
 琳派へのオマージュ
 主題の再解釈
 大胆なトリミング、斬新なアングル
 構図の妙
 風景のデザイン化


冒頭は平八郎一色です。「筍」にはじまる山種美術館のコレクションはもとより、京近美、京市美などからやって来た平八郎作品、約20点が一堂に会しています。

まず目を引くのが画業初期の「桃と女」です。


奥、右側:福田平八郎「桃と女」1916年(大正5年) 絹本・彩色 山種美術館

豊かに実る桃を持つ女性が二人、木の前で微笑む光景が描かれていますが、一見何ら変哲のないようでも、やや濃厚な顔の表現などは、いわゆる京都画壇の雰囲気を良く残しているのではないでしょうか。

実はこの作品、文展に出品して落選してしまったという曰く付きのものですが、所蔵の山種美術館でも1995年以来、十数年ぶりの展示となったそうです。

ちなみに本展では同館所蔵の平八郎作品が全て出品されています。この見慣れない「桃と女」を含め、改めて同館の「蔵の深さ」を伺い知れる展示と言えるかもしれません。

濃厚さという点において、一つの頂点と言うべきなのが、お馴染みの「牡丹」ではないでしょうか。


左:福田平八郎「牡丹」1924年(大正13年)  絹本・彩色 山種美術館

裏彩色の技法を用いたせいか、どこか妖しげな光をたたえたこの作品は、強い陰影の表現を含め、劉生や御舟にも連なる大正期の「デロリ」を画風を見ることが出来ます。

またこの作品は平八郎が中国の宋元画、特に元時代の牡丹の絵画を京博で見て描いたのではないかという指摘もあるそうです。

中期以降のシンプルな構図をとる作品群とは似ても似つかないこの香しき牡丹の妖気、改めて堪能出来ました。


福田平八郎「花菖蒲」1934年(昭和9年) 絹本・彩色 京都国立近代美術館 *前期展示(5/26~6/24)

さて一転、平八郎は瞬く間にこうした表現を卒業し、いわゆる平八郎様式、そして日本画モダンと呼ばれるシンプルでかつ斬新な作品を次々と生み出していきます。

その最大の成果が「漣」(前期)に他なりません。


福田平八郎「漣」1932年(昭和7年) 絹本・彩色 大阪市立近代美術館建設準備室 *前期展示(5/26~6/24)

彼は鮎をたくさん描いたことでも知られるように、釣りを大変好み、頻繁に琵琶湖へと足を運んで湖面を見つめていました。

銀地の上に揺れる群青の線、ただそれだけにも関わらず、さも水面を撫でる光を表したように見える作品ですが、実は本作、単に平八郎が湖面を見て描いたのではなく、写真の引用があったのではないかという意見もあります。

その写真とは平八郎とも親交のあった植物、動物写真家の岡本東洋の写真で、何と琵琶湖を撮影した写真を平八郎に手渡していたというエピソードも残っているそうです。

また作品の下地にも要注目です。この深みのある銀の煌めき、実はとある偶然的な仕掛けによって生み出されています。


参考資料:「箔見本」 大阪市立近代美術館建設準備室

展示ではその部分に関しても資料で解説しています。是非ともその秘密をお見逃しなきようご注意下さい。

さて後半、第2章「日本画モダン」こそ、この展覧会の核心であると言えるかもしれません。

と言うのも、ここには良くありがちな単に同時代の画家を展示しているのではなく、あくまでも平八郎に影響を与え、また逆に画風を受け継ぎ、さらには変容させた画家たちが紹介されているのです。


俵屋宗達、本阿弥光悦「四季草花下絵和歌短冊帖」17世紀前半(江戸初期) 紙本・金銀泥 山種美術館

初めの宗達と光琳の「四季草花下絵和歌短冊帖」は、狭い縦長の短冊での図柄の展開というトリミング効果を挙げるまでもなく、平八郎の琳派的な志向との関連を裏付けています。


福田平八郎「芥子花」1940年(昭和15年頃) 紙本・彩色 山種美術館

一方、菊を数本のみ取り出して描いた青邨の「菊」は平八郎の「芥子花」を、それに芋の茎と葉をクローズアップした神泉の「芋図」は、同じく平八郎の「青柿」のセンスを受け継いでいるのではないでしょうか。


徳岡神泉「芋図」1943年(昭和18年) 絹本・彩色 東京国立近代美術館 *前期展示(5/26~6/24)

また面白いのは平八郎の斬新でかつモダンな構図を思わせる牧進の「寒庭聖雪」です。

画面の下部のみに雀とカタバミを配し、上部の広い余白には大胆にも雪の結晶の模様を描いています。

ラストは平八郎の殆ど唯一の弟子と呼ばれる正井和行です。


正井和行「流水」1975年(昭和50年)、「庭」1971年(昭和46年) 紙本・彩色

二点、「庭」と「流水」が展示されていますが、いわゆるカラリストとしての平八郎の性格こそ受け継いでいないものの、白や淡いブルーで広がる景色には、どこか平八郎的な単純化された構図の妙味を感じてなりません。

さて関連の情報です。山種美術館では本展にあわせ、これまでにはなかった様々な企画を行っています。

「福田平八郎と日本画モダン」関連動画の配信を開始しました。
 第一部:山下裕二が語る「福田平八郎の魅力」(聞き手:山崎妙子)(9分)
 第二部:特別対談 山下裕二×鈴木芳雄(12分)


「福田平八郎と日本画モダン」特設対談ページ

「福田平八郎と日本画モダン」展フォトコンテスト 応募:Facebookページ

フォトコンテストは会期末(7/22まで)までの受付、またFacebookに限らず、郵送、メールでも応募可能です。また同館の公式ツイッター(@yamatanemuseum)では何と山崎館長自ら作品の解説などをつぶやかれています。こちらも要フォローです。


展示室風景

また会期中、一部作品については展示替えがあります。 詳細は下記リンク先、出品リストをご覧ください。

「福田平八郎と日本画モダン」展出品作品リスト(PDF)
 前期:5/26~6/24 後期:6/26~7/22
 

図録のテキストにも記載されていましたが、同館顧問の山下裕二先生が十代の頃、初めて美術展で購入したのが、1975年に京都国立近代美術館で行われた福田平八郎展の「雨」をモチーフとした図録だったそうです。


福田平八郎「雨」1953年(昭和28年) 紙本・彩色 東京国立近代美術館 *後期展示(6/26~7/22)

その「雨」に感動した山下先生は次に「漣」にカッコ良さを感じ、以来平八郎に強い思いを持ち続けました。


プレス内覧時にスライド解説を行う山種美術館顧問の山下裕二先生

そもそも「日本画モダン」という用語自体、平八郎のスタイルを表すために作られた造語ですが、本展はそのような山下先生の約40年越しの平八郎への熱い想いを一つの形として結実させたものだと言えるのではないでしょうか。


特製和菓子「華の王」と「さざなみ」

平八郎に始まり、影響を受けた「日本画モダン」の画家たちを比較、最後には弟子で締める展開、非常に説得力がありました。

*関連エントリ
「福田平八郎と日本画モダン」展でフォトコンテスト開催!(コンテストについてまとめてあります。)
根津美術館と山種美術館を結ぶ「美術館通り」が開通!(徒歩約15分弱にて行き来出来ます。)

7月22日まで開催されています。もちろんおすすめします。

「福田平八郎と日本画モダン」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:5月26日(土)~7月22日(日)
休館:月曜日(但し7/16は開館、翌火曜日は休館。)
時間:10:00~17:00(入館は16時半まで)
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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