都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ベルリン国立美術館展」 国立西洋美術館
国立西洋美術館
「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」
6/13-9/17
国立西洋美術館で開催中の「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」へ行って来ました。
ともかくチラシ表紙しかり、メインビジュアルの「真珠の首飾りの少女」が目立つベルリン美術館展。
もちろん日本初公開となったフェルメールの傑作が素晴らしいのは言うまでもありませんが、単にそれ一点豪華的な展覧会でないのが、今回の大きな魅力かもしれません。
まずは冒頭、意外なほどに充実しているのは、聖母子像をはじめとする15世紀のドイツやイタリアの彫像です。
ルーカ・デッラ・ロッビア「聖母子」1450年頃 ベルリン国立美術館彫刻コレクション
実はこの展覧会、絵画よりも彫刻の方が出品数が多いのも重要なポイントですが、とりわけ木彫に見逃せない優品が多くあります。
中でもまるで飛鳥仏の台座を思わせるかの如く彫りの深い着衣が面白い「聖母の誕生」(聖ヨアキムと聖アンナの彫刻家。1450年頃。)や、菩提樹を素材に極めて細やかな髪を示した「受胎告知」(ハンス・ヴィディツ。1510年頃。)などは、特に魅力的な作品と言えるのではないでしょうか。
ティルマン・リーメンシュナイダー「龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス」1490-95年頃 ベルリン国立美術館彫刻コレクション
北方の彫刻によるもはや過剰とまで言える陰影表現は実に個性的です。展覧会で彫刻というと脇役という感もしないではありませんが、今回はむしろ主役です。他にも剣を振り下ろすゲオルギルスを象った「龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス」(ティルマン・リーメンシュナイダー。1490年頃。)など、見どころは豊富でした。
一方、同時代の絵画では「洗礼者聖ヨハネ」(エルコレ・デ・ロベルティ。1490年頃。)が忘れられません。
真に迫る痩せ細ったヨハネ、その姿も痛々しいものですが、背景を見やると何やら象徴派を思わせる幻想的な景色が広がっています。 朝焼けとも月明かりとも見えるセピア色の風景、とても神秘的でした。
ルーカス・クラーナハ(父)の工房「マルティン・ルターの肖像」1533年頃 ベルリン国立絵画館
続いての肖像画のセクションではともかくデューラーとクラーナハが圧倒的です。
特に画家と同い年のモデルを描いたという「ヤーコプ・ムッフェルの肖像」(アルブレヒト・デューラー。1526年)の迫力は並大抵ではありません。
眉間による皺、眼球の周囲の筋肉の隆起はもとより、白髪が皮膚に絡みつく様子など、言わばその肉々しくも迫真的な表現はもはや神業ではないでしょうか。
また帽子の金のラインの点描表現も驚くほど細かく示されています。単眼鏡が必要なほどでした。
さて第三章「マニエリスムの身体」で再び彫刻を俯瞰した後は、お馴染みベラスケス、カラッチ、ロイスダールなどの揃う17世紀絵画へと到達します。
ここでは何と言ってもヤーコプ・ファン・ロイスダールの「滝」(1670-1680年頃)です。
やや逆光気味に後ろから光の当たる物質感のある雲、また左手の木立からぐるっと回って前へと落ちる水の力強い流れ、そして白い飛沫、さらには丸太を跨ぐ水の透明感など、どこか普遍的ともいえるロイスダールならでの自然が広がっていました。
なお絵画のセクションはもちろん、先に触れた彫刻しかり、当然ながら国や地域で大きく表現が異なっています。
サブタイトルは「学べるヨーロッパ美術」です。西美ニュースにも記載されていましたが、例えば優美なイタリアと迫真の北方の絵画や彫刻の比較、またマニエリスムの展開などを意識すると、より深い見方が出来るのかもしれません。
さていよいよ本丸、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」(1662-1665年頃)です。
他の展示室とは異なる特別室風のスペース中央に掲げられているので、思わず吸い寄せられてしまいますが、その右手前、レンブラントの「ミネルヴァ」(1631年頃)も見逃すことは出来ません。
深い闇に浮かび上がるミネルヴァ、特に顔の表現は神々しいほどの美しさに満ち溢れています。
メデューサの頭部を描いたという盾など、背景に関してはやや強めの照明にもよるのか、うまく見えませんでしたが、髪にかかる月桂樹の冠などの繊細な描写は絶品です。ずばり展覧会中で最もこの感動したのはこの一点でした。
さて「真珠の首飾りの少女」です。
ヨハネス・フェルメール「真珠の首飾りの少女」1662-65年 ベルリン国立絵画館
今更私が語るまでもない名品ですが、まず感心したのは画家の得意とする光の表現、特に壁における光の移ろいです。
窓から差し込む光、上部がやや陰っていますが、その影がうっすらと少女の方へ延びることで、一見なんら変哲のない壁こそが光を最も表していることがよく分かります。
また右手前の椅子もポイントです。ハイライトとして描かれる光の粒は窓から入ってきた光を確実に受けている上、手前に椅子が置かれたことで、空間へ奥行きが与えられました。
それによってフェルメールに特有の鑑賞者が画中の日常を覗き込むかのような構図が完成するわけです。
また黄色の衣服、いわゆるモフモフして見える毛皮の部分、どれほど目を凝らしても特に細かな線が入っているようには見えません。
毛羽立って描かれていないのにも関わらず、そう見えてしまう部分、これもフェルメールの高い画力の成せる業なのかと感心しました。
ちなみにこの一角にある唯一の木彫、イグナーツ・エルハーフェンの2点の作品、「イノシシ狩り」と「シカ狩り」も異様な迫力です。お見逃しないようご注意下さい。
通常企画展ではハイライトとして使われる機会の多い地下の展示室は全て素描です。そしてこれがまた充実していて一点も見て飛ばすことが出来ません。
中でも対照的な二点、ボッティチェリとミケランジェロは強い印象を与えます。
ミケランジェロ・ブオナローティ「聖家族のための習作」(1503-1504年頃) ベルリン国立素描版画館
自身の姿を聖ヨセフに投影したとも言われるミケランジェロの「聖家族のための習作」(1503-1504年頃)はともかく密な線、そしてそれが生み出す面としての迫力、強いては人物の立体感へと繋がる様子が見事だといえるのではないでしょうか。
サンドロ・ボッティチェッリ「ダンテ『神曲』写本より『煉獄篇第31歌』」1480-95年頃 ベルリン国立素描版画館
一方でのボッティチェリの2点、ダンテの神曲をモチーフとした素描はともかく細やかで滑らかな線に見惚れます。
まるで水に流れるかのような線の動きを見ていると、不思議にも今、東京国立近代美術館で回顧展が行われている吉川霊華の日本画の線を思い出してなりませんでした。
それにしても素描は如何せん近くに寄らないと楽しめません。どうしても多少の列が出来るかとは思いますが、ここは並んでもじっくり見たいところでした。
ラストは18世紀絵画です。これまでの流れからするとやや弱いかもしれませんが、ティエポロの「聖ロクス」(1730-1735年頃)の他、今秋に三菱一号館で回顧展が予定されているシャルダン(展覧会WEBサイト)などは見応えもありました。
なお最後の展示室にあるロールカーテンをくぐるとすぐさまフェルメールのスペースへ戻れます。係りの方にお声がけすれば大丈夫なようなので、見納めということで、再度フェルメールにレンブラントを楽しんでも良いかもしれません。
ベルナルディーノ・ピントゥリッキオ「聖母子と聖ヒエロニムス」1490年頃 ベルリン国立絵画館
西美の大型展、しかも日本初公開のフェルメールとくれば混まないはずもありません。
私は既に会期第一週と二週目の日曜、それぞれ午後3時過ぎから二度ほど鑑賞しましたが、その時の印象では16時半を過ぎるとかなり人が引けてくるような気がしました。
ただ懸念はもう一つの真珠、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を擁するマウリッツハイス展が今週末より都美館で始まることです。
上野でのフェルメール祭りということで、今後より一層混雑してくること間違いありません。
9月17日までの開催です。なお東京展終了後は九州国立博物館(10/9~12/2)へと巡回します。
「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」 国立西洋美術館
会期:6月13日(水)~9月17日(月祝)
休館:月曜日。但し7月16日、8月13日、9月17日は開館、7月17日は休館。
時間:9:30~17:30 *毎週金曜日は20時まで開館。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」
6/13-9/17
国立西洋美術館で開催中の「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」へ行って来ました。
ともかくチラシ表紙しかり、メインビジュアルの「真珠の首飾りの少女」が目立つベルリン美術館展。
もちろん日本初公開となったフェルメールの傑作が素晴らしいのは言うまでもありませんが、単にそれ一点豪華的な展覧会でないのが、今回の大きな魅力かもしれません。
まずは冒頭、意外なほどに充実しているのは、聖母子像をはじめとする15世紀のドイツやイタリアの彫像です。
ルーカ・デッラ・ロッビア「聖母子」1450年頃 ベルリン国立美術館彫刻コレクション
実はこの展覧会、絵画よりも彫刻の方が出品数が多いのも重要なポイントですが、とりわけ木彫に見逃せない優品が多くあります。
中でもまるで飛鳥仏の台座を思わせるかの如く彫りの深い着衣が面白い「聖母の誕生」(聖ヨアキムと聖アンナの彫刻家。1450年頃。)や、菩提樹を素材に極めて細やかな髪を示した「受胎告知」(ハンス・ヴィディツ。1510年頃。)などは、特に魅力的な作品と言えるのではないでしょうか。
ティルマン・リーメンシュナイダー「龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス」1490-95年頃 ベルリン国立美術館彫刻コレクション
北方の彫刻によるもはや過剰とまで言える陰影表現は実に個性的です。展覧会で彫刻というと脇役という感もしないではありませんが、今回はむしろ主役です。他にも剣を振り下ろすゲオルギルスを象った「龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス」(ティルマン・リーメンシュナイダー。1490年頃。)など、見どころは豊富でした。
一方、同時代の絵画では「洗礼者聖ヨハネ」(エルコレ・デ・ロベルティ。1490年頃。)が忘れられません。
真に迫る痩せ細ったヨハネ、その姿も痛々しいものですが、背景を見やると何やら象徴派を思わせる幻想的な景色が広がっています。 朝焼けとも月明かりとも見えるセピア色の風景、とても神秘的でした。
ルーカス・クラーナハ(父)の工房「マルティン・ルターの肖像」1533年頃 ベルリン国立絵画館
続いての肖像画のセクションではともかくデューラーとクラーナハが圧倒的です。
特に画家と同い年のモデルを描いたという「ヤーコプ・ムッフェルの肖像」(アルブレヒト・デューラー。1526年)の迫力は並大抵ではありません。
眉間による皺、眼球の周囲の筋肉の隆起はもとより、白髪が皮膚に絡みつく様子など、言わばその肉々しくも迫真的な表現はもはや神業ではないでしょうか。
また帽子の金のラインの点描表現も驚くほど細かく示されています。単眼鏡が必要なほどでした。
さて第三章「マニエリスムの身体」で再び彫刻を俯瞰した後は、お馴染みベラスケス、カラッチ、ロイスダールなどの揃う17世紀絵画へと到達します。
ここでは何と言ってもヤーコプ・ファン・ロイスダールの「滝」(1670-1680年頃)です。
やや逆光気味に後ろから光の当たる物質感のある雲、また左手の木立からぐるっと回って前へと落ちる水の力強い流れ、そして白い飛沫、さらには丸太を跨ぐ水の透明感など、どこか普遍的ともいえるロイスダールならでの自然が広がっていました。
なお絵画のセクションはもちろん、先に触れた彫刻しかり、当然ながら国や地域で大きく表現が異なっています。
サブタイトルは「学べるヨーロッパ美術」です。西美ニュースにも記載されていましたが、例えば優美なイタリアと迫真の北方の絵画や彫刻の比較、またマニエリスムの展開などを意識すると、より深い見方が出来るのかもしれません。
さていよいよ本丸、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」(1662-1665年頃)です。
他の展示室とは異なる特別室風のスペース中央に掲げられているので、思わず吸い寄せられてしまいますが、その右手前、レンブラントの「ミネルヴァ」(1631年頃)も見逃すことは出来ません。
深い闇に浮かび上がるミネルヴァ、特に顔の表現は神々しいほどの美しさに満ち溢れています。
メデューサの頭部を描いたという盾など、背景に関してはやや強めの照明にもよるのか、うまく見えませんでしたが、髪にかかる月桂樹の冠などの繊細な描写は絶品です。ずばり展覧会中で最もこの感動したのはこの一点でした。
さて「真珠の首飾りの少女」です。
ヨハネス・フェルメール「真珠の首飾りの少女」1662-65年 ベルリン国立絵画館
今更私が語るまでもない名品ですが、まず感心したのは画家の得意とする光の表現、特に壁における光の移ろいです。
窓から差し込む光、上部がやや陰っていますが、その影がうっすらと少女の方へ延びることで、一見なんら変哲のない壁こそが光を最も表していることがよく分かります。
また右手前の椅子もポイントです。ハイライトとして描かれる光の粒は窓から入ってきた光を確実に受けている上、手前に椅子が置かれたことで、空間へ奥行きが与えられました。
それによってフェルメールに特有の鑑賞者が画中の日常を覗き込むかのような構図が完成するわけです。
また黄色の衣服、いわゆるモフモフして見える毛皮の部分、どれほど目を凝らしても特に細かな線が入っているようには見えません。
毛羽立って描かれていないのにも関わらず、そう見えてしまう部分、これもフェルメールの高い画力の成せる業なのかと感心しました。
ちなみにこの一角にある唯一の木彫、イグナーツ・エルハーフェンの2点の作品、「イノシシ狩り」と「シカ狩り」も異様な迫力です。お見逃しないようご注意下さい。
通常企画展ではハイライトとして使われる機会の多い地下の展示室は全て素描です。そしてこれがまた充実していて一点も見て飛ばすことが出来ません。
中でも対照的な二点、ボッティチェリとミケランジェロは強い印象を与えます。
ミケランジェロ・ブオナローティ「聖家族のための習作」(1503-1504年頃) ベルリン国立素描版画館
自身の姿を聖ヨセフに投影したとも言われるミケランジェロの「聖家族のための習作」(1503-1504年頃)はともかく密な線、そしてそれが生み出す面としての迫力、強いては人物の立体感へと繋がる様子が見事だといえるのではないでしょうか。
サンドロ・ボッティチェッリ「ダンテ『神曲』写本より『煉獄篇第31歌』」1480-95年頃 ベルリン国立素描版画館
一方でのボッティチェリの2点、ダンテの神曲をモチーフとした素描はともかく細やかで滑らかな線に見惚れます。
まるで水に流れるかのような線の動きを見ていると、不思議にも今、東京国立近代美術館で回顧展が行われている吉川霊華の日本画の線を思い出してなりませんでした。
それにしても素描は如何せん近くに寄らないと楽しめません。どうしても多少の列が出来るかとは思いますが、ここは並んでもじっくり見たいところでした。
ラストは18世紀絵画です。これまでの流れからするとやや弱いかもしれませんが、ティエポロの「聖ロクス」(1730-1735年頃)の他、今秋に三菱一号館で回顧展が予定されているシャルダン(展覧会WEBサイト)などは見応えもありました。
なお最後の展示室にあるロールカーテンをくぐるとすぐさまフェルメールのスペースへ戻れます。係りの方にお声がけすれば大丈夫なようなので、見納めということで、再度フェルメールにレンブラントを楽しんでも良いかもしれません。
ベルナルディーノ・ピントゥリッキオ「聖母子と聖ヒエロニムス」1490年頃 ベルリン国立絵画館
西美の大型展、しかも日本初公開のフェルメールとくれば混まないはずもありません。
私は既に会期第一週と二週目の日曜、それぞれ午後3時過ぎから二度ほど鑑賞しましたが、その時の印象では16時半を過ぎるとかなり人が引けてくるような気がしました。
ただ懸念はもう一つの真珠、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を擁するマウリッツハイス展が今週末より都美館で始まることです。
上野でのフェルメール祭りということで、今後より一層混雑してくること間違いありません。
9月17日までの開催です。なお東京展終了後は九州国立博物館(10/9~12/2)へと巡回します。
「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」 国立西洋美術館
会期:6月13日(水)~9月17日(月祝)
休館:月曜日。但し7月16日、8月13日、9月17日は開館、7月17日は休館。
時間:9:30~17:30 *毎週金曜日は20時まで開館。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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