「琳派から日本画へ」 山種美術館

山種美術館
「琳派から日本画へ 和歌のこころ・絵のこころ」
2/9~3/31



山種美術館で開催中の「琳派から日本画へ 和歌のこころ・絵のこころ」のプレスプレビューに参加してきました。

同館では三番町時代の2008年以来となる琳派展。今回は所蔵品だけでなく、東博や東近美、それに文化庁など、他館の作品も登場し、実に充実した展示となっています。


本阿弥光悦「摺下絵古今集和歌巻」17世紀(江戸時代)
紙本・墨書 東京国立博物館


しかしながら何も最大の特徴は他館の作品が展示されていることではありません。

ずばり本展は『琳派時代拡張型』。平安古筆より江戸絵画、さらには近代日本画までを幅広く俯瞰することで、「和歌」と「装飾」、言い換えれば日本人が古来より大切にしてきた歌や絵のこころを探っていこうとする企画なのです。

琳派のエッセンスを1000年もの時間軸に広げてみる日本美術。最近の同館ならではの複眼的な視点の光る展覧会でした。

では早速、展示へ参りましょう。まずは藤原定信の「石山切(貫之集下)」から。


藤原定信「石山切(貫之集下)」重要美術品 12世紀(平安時代)
紙本金銀泥絵・墨書 山種美術館(前期展示)


いずれも華麗な料紙装飾に流麗な書体と、その色に形の美しさからして見惚れてしまいますが、何とこれらの古筆コレクションは15年ぶりの公開だとか。

蔵の深い山種美術館、まだまだ名品をお持ちです。琳派のデザインにも連なるかざりの妙味。まさか平安古筆で味わえるとは思いませんでした。

続いては本丸の琳派、まずは大御所の宗達です。ここではまたまた超レアな作品が。この「源氏物語図 関屋・澪標」に他なりません。


俵屋宗達(款)「源氏物語図 関屋・澪標」17世紀(江戸時代)
(前期展示)


ここで「いや、そんなことはないだろう。」というお声を頂戴するのも致し方ないところ。言うまでもなく宗達の同名の屏風は静嘉堂文庫に納められ、国宝指定を受けている超一級品。レアではありません。では、今回出ている同じ屏風仕立ての作品は何なのか。


*参考図版 俵屋宗達「源氏物語図 関屋・澪標」17世紀(江戸時代)
静嘉堂文庫美術館(本展非出品)


やや込み入った話にはなりますが、実は今回公開の「源氏物語図」。今から遡ること約35年、昭和52年刊行の琳派全集に一度モノクロで図版が掲載されたものの、実際に一度も公開されたことのない別バーションの作品なのです。

もちろん伝来には議論があり、本展でも厳密には「俵屋宗達(款)」として紹介。しかしながら反り返った太鼓橋になだらかな山の稜線などはいかにも宗達風。金地ではなく素地が金泥、また人物描写などに相違点あるものの、全体として似通っているのは事実です。


「源氏物語図 関屋・澪標」短冊(スライドより)
右から 相見香雨 前田青邨 奥村土牛 安田靫彦 小林古径 (前期展示)

 
また本作では付属品として短冊が残され、そこには前田青邨、奥村土牛、小林古径といった名だたる日本画家の極書、ようは一種の鑑定書が記されているのも興味深いところ。展示初公開の「「源氏物語図 関屋・澪標」、かの国宝作との関係は如何なるものなのか。本展をきっかけにまた議論されていくに違いありません。


酒井抱一「秋草鶉図」重要美術品 19世紀(江戸時代)
紙本金地・彩色 山種美術館(前期展示)


さて山種の琳派と言えば我らが酒井抱一。お馴染みの「秋草鶉図」もご覧の通り。やまと絵風の可憐な秋草に一転しての中国画風の精緻な鶉、そして眩い金に黒く重い月。様々なエッセンスを無理なく画面に落とし込んだ抱一の鋭い機知を伺うことも出来ます。


酒井抱一「月梅図」19世紀(江戸時代)
絹本・彩色 山種美術館(前期展示)


また抱一では「月梅図」も優品です。何気ない月と梅との取り合わせにも見えますが、墨の濃淡、かすれを活かしての梅の溌剌とした描写は見事なもの。

江戸絵画のラストは是真から「波に千鳥図」です。もちろんこれは得意の漆絵。かつて根津美術館の是真展でも引用がありましたが、是真は光琳伝の硯箱を写すなど、琳派を意識している面が多分にあります。時代の区切りに相応しい作品でした。

それでは後半の近代日本画。これが大観に観山に古径に御舟に又造と怒濤のラインナップです。


下村観山「老松白藤」1921(大正10)年
紙本金地・彩色 山種美術


まずは観山から。「木の間の秋」の例を挙げるまでもなく、近代の琳派変奏を語る上では外せない画家ではありますが、今回は「老松白藤」が出品。画面を支配する松の力強さは琳派というよりも、桃山の狩野派の巨木様式を思わせる面があるかもしれません。


菱田春草「月四題」1909-1910(明治42-43)年
絹本・墨画淡彩 山種美術館


また同じく近代の琳派の系譜として挙げられる機会の多い春草からは「月四題」が。実は本作は私が日本画を見始めた頃、一番好きになった作品。満月の夜の茫洋たる情景美。どことない物悲しさ。改めて心に響きました。

さて最後に私の一推しを。川端龍子の「八ツ橋」です。


川端龍子「八ツ橋」1945(昭和20)年
絹本金地・彩色 山種美術館(前期展示)


八ツ橋、燕子花のモチーフといえば琳派の王道。光琳の名品を挙げるまでもなく、抱一以降にも度々登場して受け継がれてきました。

山下先生をして曰く『野蛮な燕子花』。確かにこれでもかと群れ、またむせ返るほどに咲く燕子花はもはや過剰です。そしてそれが逆に龍子一流のアクの強さ、言わばギラギラとした表現だからゆえの魅力を伝えています。

まさに衝撃の燕子花でした。是非ともお見逃しなきようおすすめします。


「琳派から日本画へ」オリジナル和菓子(PDF)

さて本展はスペースなどの都合もあり展示替え多数。前後期合わせて一つの展覧会です。

前期展示:2/9~3/3 後期展示:3/5~3/31 出品リスト(PDF)

なお前期観覧券の半券を提示すると後期は200円引(大・高校生は100円引)で入場出来ます。半券は要保存です。*「琳派から日本画へ」お得な割引サービスのご案内

琳派・近代日本画ファンはもちろん、古筆ファンにもおすすめしたいと思います。

「美術手帖2008年10月号/琳派/美術出版社」

前期展示は3月3日まで、展覧会は3月31日までの開催です。

「琳派から日本画へ 和歌のこころ・絵のこころ」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:2月9日(土)~3月31日(日) 前期:2/9~3/3 後期:3/5~3/31
休館:月曜日(但し2/11は開館、翌日は休館。)
時間:10:00~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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