都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「誰が袖図 描かれたきもの」 根津美術館
根津美術館
「コレクション展 誰が袖図 描かれたきもの」
11/13-12/23

根津美術館で開催中の「コレクション展 誰が袖図 描かれたきもの」を見て来ました。
「色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖ふれし宿の梅ぞも」 古今和歌集
いわゆる衣桁(室内で衣類を立て掛ける道具)や屏風に多くの衣装を掛けた姿を描いた「誰が袖図」。おそらくは遊里の室内空間をモチーフとしていた。主に江戸時代のはじめ、17世紀の前半に多く制作されたそうです。
その「誰が袖図」を紹介する展覧会です。表題の屏風3点を含む全17点余。いずれも館蔵の近世風俗画を展示しています。
さて3点のうちの1つの「誰が袖図屏風」、6曲1双の金地の大画面です。大きな衣桁に男女の衣服が掛けられています。そして無人です。ゆえに誰の袖かも分かりません。静物画の様相すら呈しています。

「誰が袖図屏風」(左隻) 江戸時代 17世紀 根津美術館
まず感心するのは衣装の模様の多様さです。桜や亀甲のつなぎと艶やか。いずれの描き込みも精緻極まりありません。また背景も面白い。障子です。そこには朝顔の垂れる様が描かれています。手前は畳でしょう。緑色の面が横に広がっています。そしておもむろに置かれた机には硯箱や冊子が並んでいる。右には双六盤もありました。無人ながらも、どこか人の気配を感じさせる面も否めません。
もう一つの「誰が袖図屏風」は趣きが異なりました。と言うのも背景は一面の金地、先の屏風に描かれていたような障子や机もありません。ただ衣桁にかかる袖のみが描かれています。(ただし桁に関しては先の作品と同様、右が蒔絵的なもの、左が青竹です。)言わば人工的世界、より抽象的とするのは言い過ぎでしょうか。袖なりの模様が際立ってきます。一つのデザインとして捉えても興味深いものがあります。

「誰が袖美人図屏風」(左隻) 江戸時代 17世紀 根津美術館
3点のうち唯一、人の描かれているのが「誰が袖美人図屏風」です。右隻は無人ですが、左隻に二人の人物がいます。禿と遊女です。互いに細い手を差し出していますが、これは禿が遊女に文を渡す仕草とのこと。また本作では香炉や香合、それに男性の刀などの小道具が多いのも特徴です。しかも視点はほか2作とは異なり、吹抜け、つまり斜め上から覗いています。さらに松や桜、それに野山といった自然も介入しています。構図からしても明らかに異なっていました。
そもそも「誰が袖図」において人物が登場する作品は少ないそうです。袖の持ち主しかり、場の背景しかり、どこか謎めいた「誰が袖図」。まさに三者三様です。互いの差異に注意して比べるのも鑑賞のポイントになりそうです。

「風俗図」 江戸時代 17世紀 根津美術館
「誰が袖図」のほかには「風俗図」に惹かれました。遊女と禿、さらには二人を伺う男のみが描かれた三幅対の作、人物の軽快な動きも魅惑的ですが、とりわけ遊女の小袖の意匠が面白い。文字でしょうか。それに水流の紋を組み合わせている。派手でもあります。
また背景の金地、金砂子でしょうか。人物の周囲だけでなく、さも何らかの情景を作るように散っています。特に一番左の場面です。左斜め上から下方向へ直線が引かれ、そこで金が分断しています。まるで風が強く吹き込んでいるかのようでした。
角度を変えて下から見ると金が美しく光りました。ここは着物だけでなく、背景にも目を向けてみてください。
同時開催の「婚礼衣装」も見事です。旧竹田宮家より寄贈された江戸から明治期の婚礼衣装がずらり。武家だけでなく町人用の花嫁衣装も展示されています。

「桜下蹴鞠図屏風」 江戸時代 17世紀 根津美術館
「これは誰の袖なのか。」色々と持ち主に関しての空想を膨らませるのも楽しいかもしれません。
12月23日まで開催されています。
「コレクション展 誰が袖図 描かれたきもの」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:11月13日(木)~12月23日(火・祝)
休館:月曜日。但し11月24日(月・休)は開館し、翌日休館。
時間:10:00~17:00。入場は16時半まで。
料金:一般1000円、学生(高校生以上)800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
「コレクション展 誰が袖図 描かれたきもの」
11/13-12/23

根津美術館で開催中の「コレクション展 誰が袖図 描かれたきもの」を見て来ました。
「色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖ふれし宿の梅ぞも」 古今和歌集
いわゆる衣桁(室内で衣類を立て掛ける道具)や屏風に多くの衣装を掛けた姿を描いた「誰が袖図」。おそらくは遊里の室内空間をモチーフとしていた。主に江戸時代のはじめ、17世紀の前半に多く制作されたそうです。
その「誰が袖図」を紹介する展覧会です。表題の屏風3点を含む全17点余。いずれも館蔵の近世風俗画を展示しています。
さて3点のうちの1つの「誰が袖図屏風」、6曲1双の金地の大画面です。大きな衣桁に男女の衣服が掛けられています。そして無人です。ゆえに誰の袖かも分かりません。静物画の様相すら呈しています。

「誰が袖図屏風」(左隻) 江戸時代 17世紀 根津美術館
まず感心するのは衣装の模様の多様さです。桜や亀甲のつなぎと艶やか。いずれの描き込みも精緻極まりありません。また背景も面白い。障子です。そこには朝顔の垂れる様が描かれています。手前は畳でしょう。緑色の面が横に広がっています。そしておもむろに置かれた机には硯箱や冊子が並んでいる。右には双六盤もありました。無人ながらも、どこか人の気配を感じさせる面も否めません。
もう一つの「誰が袖図屏風」は趣きが異なりました。と言うのも背景は一面の金地、先の屏風に描かれていたような障子や机もありません。ただ衣桁にかかる袖のみが描かれています。(ただし桁に関しては先の作品と同様、右が蒔絵的なもの、左が青竹です。)言わば人工的世界、より抽象的とするのは言い過ぎでしょうか。袖なりの模様が際立ってきます。一つのデザインとして捉えても興味深いものがあります。

「誰が袖美人図屏風」(左隻) 江戸時代 17世紀 根津美術館
3点のうち唯一、人の描かれているのが「誰が袖美人図屏風」です。右隻は無人ですが、左隻に二人の人物がいます。禿と遊女です。互いに細い手を差し出していますが、これは禿が遊女に文を渡す仕草とのこと。また本作では香炉や香合、それに男性の刀などの小道具が多いのも特徴です。しかも視点はほか2作とは異なり、吹抜け、つまり斜め上から覗いています。さらに松や桜、それに野山といった自然も介入しています。構図からしても明らかに異なっていました。
そもそも「誰が袖図」において人物が登場する作品は少ないそうです。袖の持ち主しかり、場の背景しかり、どこか謎めいた「誰が袖図」。まさに三者三様です。互いの差異に注意して比べるのも鑑賞のポイントになりそうです。

「風俗図」 江戸時代 17世紀 根津美術館
「誰が袖図」のほかには「風俗図」に惹かれました。遊女と禿、さらには二人を伺う男のみが描かれた三幅対の作、人物の軽快な動きも魅惑的ですが、とりわけ遊女の小袖の意匠が面白い。文字でしょうか。それに水流の紋を組み合わせている。派手でもあります。
また背景の金地、金砂子でしょうか。人物の周囲だけでなく、さも何らかの情景を作るように散っています。特に一番左の場面です。左斜め上から下方向へ直線が引かれ、そこで金が分断しています。まるで風が強く吹き込んでいるかのようでした。
角度を変えて下から見ると金が美しく光りました。ここは着物だけでなく、背景にも目を向けてみてください。
同時開催の「婚礼衣装」も見事です。旧竹田宮家より寄贈された江戸から明治期の婚礼衣装がずらり。武家だけでなく町人用の花嫁衣装も展示されています。

「桜下蹴鞠図屏風」 江戸時代 17世紀 根津美術館
「これは誰の袖なのか。」色々と持ち主に関しての空想を膨らませるのも楽しいかもしれません。
12月23日まで開催されています。
「コレクション展 誰が袖図 描かれたきもの」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:11月13日(木)~12月23日(火・祝)
休館:月曜日。但し11月24日(月・休)は開館し、翌日休館。
時間:10:00~17:00。入場は16時半まで。
料金:一般1000円、学生(高校生以上)800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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