「東山魁夷 わが愛しのコレクション展」 日本橋三越本店新館7階ギャラリー

日本橋三越本店新館7階ギャラリー
「東山魁夷 わが愛しのコレクション展~美しきを知り、美を拓く」 
2014/12/26-2015/1/19



日本橋三越で開催中の「東山魁夷 わが愛しのコレクション展~美しきを知り、美を拓く」を見て来ました。

東山魁夷展とありますが、単に魁夷の絵画のみで構成された展覧会というわけではありません。

というのもタイトルに「わが愛しのコレクション」とあるように、魁夷の蒐集した美術品もあわせて展示しているのです。

出品は全114点。うち魁夷画が60点ほどです。残りは魁夷の蒐集した美術品(ほか資料含む)でした。


伝俵屋宗達 「伊勢物語図色紙 第九十八段 梅の造り枝」 江戸時代前期(17世紀)

いきなり伝宗達です。雅やかな「伊勢物語図」の色紙、そして伝光悦の「黒茶碗」と並びます。実は魁夷、ドイツ留学時に西洋と日本の美術を学びましたが、特に桃山時代の美術に大きな関心を寄せています。自身が絵を付けた「白地精好波に松島図の打掛」も「松島図」のモチーフです。白地に金泥の波しぶきがあがっています。

留学の際は旅費を節約するため、大連から貨物船に乗ってドイツへと向かったそうです。途中、シンガポールに立寄り、スエズを経由して地中海へと入る。ハンブルクまでは2ヶ月の長旅でした。


東山魁夷「スエズ紀行 水汲み」 1933年

その時に描いた「スエズ紀行」が数点出ています。そして渡欧時の作品で驚くのはあのホドラーを参照していることです。

例えば「『ミューレンから見たユングフラウ山』の模写」(1934)は、魁夷がスイスの美術館で見て描いたという、文字通りホドラーの模写です。ちなみに元となるホドラーの絵画は現在、西洋美術館で開催中のホドラー展に出品中です。あのチラシ表紙を飾った力強い山岳画と言えばお分かりいただけるのではないでしょうか。

それに「秋思」(1954)も興味深いもの。白樺でしょうか。草地にのびる一本の木を描いていますが、ホドラーにも同じような構図の作品があります。「小さなプラタナス」です。それにしてもまさか魁夷展でホドラーが引用されているとは思いませんでした。

3点揃いの「自然と形象」(1941)が一つのハイライトかもしれません。「早春の麦畑」、「秋の山」、「雪の谷間」と並んでいますが、中でも一推しは「雪の谷間」です。雪の降り積もった小川の景色、トリミングしたような構図感が独特です。雪の質感も美しい。惹かれるものがあります。

戦後の出発も風景画です。「夕照」(1947)、「郷愁」(1948)、「道(試作)」(1950)と続きます。うち「郷愁」は幻想的な一枚です。魁夷の古里の景色でしょうか。山々の連なる田園風景、手前には小川も流れています。そして低い土手。誰もいません。静寂です。うっすらと水色を帯びた霞が覆っていました。


東山魁夷「冬支度」 デンマーク 1975年

魁夷は旅の画家でもあります。とりわけ知られているのは北欧への旅。「スオミ」(1963)は現地に広がる針葉樹林を俯瞰した構図で描いた作品です。流れる川の水面は銀色に輝いています。冷たく、また凍り付いたかのような空気感。その気配までをも巧みに表していました。


伝尾形乾山「梅花図黒茶碗」 江戸時代

魁夷の美術コレクションが実に多様で驚きました。古代エジプトからローマ、ペルシャ時代の考古品、そしてガンダーラ仏に中国の漢の青銅壺、さらには日本の奈良や平安期の経典までをも網羅しています。またルドンやルオーや清方に村上華岳といった絵画もコレクションしているのです。


「梨型細瓶」 シリア 1~2世紀

1~2世紀頃のシリアの細瓶と魁夷画との関連を伺う展示がありました。接点は色です。というのも魁夷の得意とした青、それが細瓶の放つ青い光と重なり合います。魁夷は青について「精神、孤独、悲哀、鎮静を示し、絶えず心の奥に秘められて、達することの出来ない願望の色である。」と語っています。


東山魁夷「秋映」 1955年

そのほか愛用のイーゼルに絵具や絵筆、また渡欧時に蒐集した民芸品なども展示されています。スケッチや小品も多く、大作ばかりというわけではありませんが、魁夷がどのような美術に関心を持っていたのかを垣間見られる展示とも言えるのではないでしょうか。意外な切り口で楽しめました。

[東山魁夷 わが愛しのコレクション展 巡回予定]
美術館「えき」KYOTO(ジェイアール京都伊勢丹) :2015年2月28日(土)~3月29日(日)

なお日本橋三越の次回展は「岡田美術館所蔵 琳派名品展」。琳派400周年のメモリアルを飾る企画です。こちらも期待しましょう。

「琳派400年記念 岡田美術館所蔵 琳派名品展~知られざる名作初公開」@日本橋三越本店 2015年1月21日(水)~2月2日(月)

「もっと知りたい東山魁夷/鶴見香織/東京美術」

元日のみ休館です。2015年1月19日まで開催されています。

「東山魁夷 わが愛しのコレクション展~美しきを知り、美を拓く」 日本橋三越本店新館7階ギャラリー
会期:2014年12月26日(金)~2015年1月19日(月)
休館:1月1日
時間:10:00~18:30(19時閉場)
 *12月31日(水)は17:30(18時閉場)まで開場。
 *1月14日(水)~17日(土)は19:30(20時閉場)まで開場。
 *最終日は17:00(17:30閉場)まで開場。
料金:一般・大学生800円、高校・中学生600円、小学生以下無料。
 *三越M CARD、伊勢丹アイカードなどを提示すると本人と同伴1名が無料。
住所:中央区日本橋室町1-4-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅より直結。東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B11出口より徒歩5分。都営浅草線日本橋駅より徒歩5分。
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