「小林孝亘展」 横須賀美術館 

横須賀美術館
「小林孝亘展ー私たちを夢見る夢」
11/15-12/23(会期終了)



横須賀美術館で開催されていた「小林孝亘展ー私たちを夢見る夢」を見て来ました。

神奈川の逗子を拠点に制作を続けている画家、小林孝亘。私が彼の絵画を初めて意識したのはMOTの常設展のことかもしれません。以来、日本橋の西村画廊での個展を何度か追いかけてきました。しかしながら一定のスケールで作品を見たことは一度もありませんでした。

10年ぶりの美術館での個展です。出品は絵画にデッサン、さらに資料を含めて110点。画業初期、1990年前後の作品から本年制作の最新作までを網羅します。


「Fruit」 1992年 高橋コレクション

冒頭に並ぶのは1990年代の油彩画、まず目を引くのが潜水艦のモチーフです。実は小林、30代の頃まではひたすらに潜水艦を描いていた。自分自身が潜水艦であるとも語っています。「Fruit」と題された小品の一枚、木の影から潜水艦が潜望鏡を伸ばしていました。自画像と捉えるのは言い過ぎでしょうか。さも小林が恥ずかしそうにこちらを見ているかのようです。


「House Dog」 1995年 国立国際美術館

その一方で、同じく90年代ながらも、「House」や「House Dog」などは近年の作風を思わせます。玩具のような家や犬を大きなキャンバスに描き出す。正面性の強い構図、木漏れ日が差し込み、画面に揺らぎをもたらしている。マットな質感です。にも関わらず温かみもあります。早い段階で自らのスタイルを確立したと言えるのかもしれません。

さて基本的に作品は時代別に並んでいますが、単にそれだけではないのも大きなポイントです。


「Barbed Wire」 1997年 筑波大学・石井コレクション

例えば2000年の車の連作です。タクシーや乗用車、それにトラックのテールランプに着目したシリーズですが、それとともにワイヤーに連なる照明を描いた「Barbed Wire」や赤々と燃える炭火をモチーフにした「Live Charcol」などもあわせて並んでいます。つまり何らかの光源を捉えた作品が一つの空間でまとまって展示されているわけです。


「Pillows」 1997年 国立国際美術館

枕のシリーズも同様です。ベット上の枕のみを描いた連作、但し年代はバラバラです。時代は90年代後半から2014年の最新作までと幅広い。いずれにせよ枕をモチーフとした作品が一つの展示室で紹介されています。

さらにポートレートと静物を交互に並べたコーナーや、ラストの最新作、森を捉えたシリーズへの展開も面白い。それらの合間をスケッチやリトグラフなどで繋げています。かなりメリハリのある展示でした。

スケッチブックなどの資料も重要です。水飲み場を描いた「Water Fountain」を挙げましょう。元にあるのは画家自身の撮影した公園の写真です。写真は斜め上から水飲み場を撮っています。しかしスケッチに起こした時にどうなのか。同じ構図のものと別のそれのものがある。結果的に絵画では正面から水飲み場を描いいています。つまりここでは制作における写真、スケッチ、絵画への流れを見ることが出来るわけです。

そもそも小林は当初の潜水艦のモチーフを脱して以降、次から次へと「浮かんだイメージを描いていった。」とか。スケッチは小林の見たもの、ようは関心の在りかがストレートに表されていると言えるのでしょう。さながら画家の頭の中を覗き込んでいるかのようでした。


「Sleeping bag(blue)」 2010年 作家蔵

いわゆる人の眠りを捉えた作品も目を引きます。そういえば入口外にある大作の「Dream,dreaming usー私たちを夢見る夢」はまるで涅槃図です。それに最新作でも人魂や鳥に引き上げられる人物などのモチーフもあります。宗教的とも言えないでしょうか。画家はバンコクに1年間滞在したことがあるそうです。その経験も何かしら反映しているのかもしれません。

皿を描いた一枚、「Dish」の展示室には驚きました。というのも作家自らが写した食卓の写真が所狭しと貼られているのです。率直なところ、かなり異質でした。


「Ventilated Case」 2010年 個人蔵

絵画はもちろんのこと、普段見慣れないスケッチや写真など、画家のアイデアの源泉や意外な側面を見られたのも収穫でした。

会期は終えてしまいましたが、公式フェイスブックページがこまめに情報を発信していました。設営時の写真などもあり、会場の雰囲気も伝わるのではないでしょうか。

「小林孝亘展」Facebookページ(横須賀美術館)

本展にあわせて青幻舎より作品集も刊行されています。いわゆる図録ではないため、本展に出なかった作品も掲載されていますが、図版、テキストともに充実。現時点での決定版と言うべき内容に仕上がっています。

「小林孝亘作品集 私たちを夢見る夢/青幻舎」

残念ながら見逃してしまった方は作品集に当たってみるのも面白いかもしれません。

小林展を見終えた後は常設展を堪能しました。中でも動く彫刻で知られる前田昌良の展示が面白いもの。またいつ見ても惹かれる須田国太郎の「河原」や山口薫の「水と畑の残雪」などの近代洋画にも見応えがあります。改めて粒ぞろいのコレクションだと感心しました。

次回の企画展の情報です。来年2月より海老原喜之助の回顧展が行われます。

「生誕110年 海老原喜之助展ーエスプリと情熱」@横須賀美術館 2015年2月7日(土)~4月5日(日)

画家の生誕110年を記念しての展覧会です。80点余の油彩をはじめ、陶彩や絵付のほか、近年発見されたデッサンなども出展されます。

海老原も単発的に作品を見ることはありますが、画業を通観して捉える展示は極めて稀。実際に首都圏では24年ぶりとなる回顧展です。ようやくチャンスがやって来ました。これは期待しましょう。



展示は終了しました。

「小林孝亘展ー私たちを夢見る夢」 横須賀美術館@yokosuka_moa
会期:11月15日(土)~12月23日(火・祝)
休館:12月1日(月)。
料金:一般900(720)円、大学・高校生・65歳以上700(500)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *市内在住または在学の高校生は無料
時間:10:00~18:00。
 *入館は閉館の30分前まで
住所:神奈川県横須賀市鴨居4-1
交通:京急線馬堀海岸駅1番乗り場より京急バス観音崎行(須24、堀24)にて「観音崎京急ホテル・横須賀美術館前」下車、徒歩約2分。
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